今回は、米国「Car and Driver」によるトヨタ・スープラの試乗レポートを日本語で紹介します。

※内容は1993年当時のものです。


Supra

110馬力という平凡なスペックの初代スープラは大した車ではなかった。ステアリングは退屈だったし、サスペンションもやたら柔らかく、そのままスープラという名前も消えていくものだと思っていた。ところが状況は大きく変わった。

1978年の登場以来、スープラの歴史は長らく続いている。その最新モデルに当たるのが4代目スープラだ。最高速度は257km/hで、かつてのスープラとは違い、セリカとの共通性はまったくない。

新型スープラのエクステリアはフェラーリ・F40のデザインにかなり似ている。グリルの形状も、台形のヘッドランプも、巨大なブレーキ用エアインテークもそっくりだ。そして仰々しいリアウイングはまるでロケットのパーツのようだ。ただ幸いなことに、このリアウイングはオプションだ。

スープラに搭載される3.0L 直列6気筒エンジンはレクサス・SC300(日本名: ソアラ)およびGS300(日本名: アリスト)と共通だ。自然吸気モデルは最高出力223PS/5,800rpmを発揮する。2基のターボチャージャーを載せたモデルは最高出力がさらに100馬力向上し、最大トルクは43.6kgf·mで、ツインターボの日産・300ZX(日本名: フェアレディZ)よりも4.4kgf·m優れている。

スープラにはシーケンシャルターボが採用されている。小さいほうのターボチャージャーは2,500rpm近辺で過給が最大になる。大きいほうのターボチャージャーは4,500rpmで最大の力を発揮し、絶妙なタイミングで蹴りを入れてくれる。

エンジンのパフォーマンスを考慮すると、トラクションコントロールの介入度合いについても気になるだろう。アトランタ・モーター・スピードウェイの2速コーナーでは、ブリヂストン製の255/40ZR17リアタイヤが何の制約も受けずにタイヤ痕を残すことができた。こうやってスロットル操作によりオーバーステアを誘発させることができるのだが、勇気がないならコーナー途中からであっても立て直すことができる。

スープラにはSC300のプラットフォームの改変版が使われている。ホイールベースは140mm短縮され、サスペンションジオメトリも変更されている。全長は先代モデルよりも100mm短くなっている。

ターボは17インチのPOTENZA RE020を履くものの、それ以外にターボであることを証明するバッジや外装パーツなどはない。つまり、ターボ専用の巨大リアウイングを装着しない限り、0-100km/h加速4.6秒のターボ車であることをアピールすることはできない。

スープラは非常に速い。0-100km/h加速はアキュラ・NSXやダッジ・ステルス R/T ターボやポルシェ・928GT(いずれも0-100km/h加速は5.2秒)よりも速い。それどころか、マツダ・RX-7やシボレー・コルベットLT1、日産・300ZXターボ(いずれも0-100km/h加速は5秒フラット)よりも速い。

スープラが成功するかどうかはアメリカ市場の反応に大きく依存するのだが、デザインは日本で行われている。フロントから見ると上述の通りF40風なのだが、じっくり観察するとフロントには10個も電球が付いている。非常にクリスマス的だ。サイドから見るとグリーンハウスやCピラーはホンダ・プレリュードにそっくりだ。リアハッチはセリカに似ている。真後ろから見ると少し気味が悪いかもしれない。リアバンパーは巨大だし、8個の野球ボール大のテールランプやハイマウントストップランプもかなり目立つ。

新型スープラは1993年6月に発売される予定だ。自然吸気モデルの価格は36,000ドル程度、ターボモデルの価格は40,000ドル程度と予想される。決して安くはないのだが、RX-7や300ZX、コルベット、ダッジ・ステルス、三菱・3000(日本名: GTO)にも十分対抗できるだろう。

ブレーキはかなりの大径で、コルベットのブレーキと同じくらい効率的だ。190km/hから直角コーナーへの進入を3回連続で行っても、ブレーキがフェードすることはなかった。フロントブレーキローターは直径12.7インチで、螺旋形のフィンが付いている。リアは12.8インチで、コルベットZR-1のブレーキよりも大型だ。自然吸気モデルのブレーキローター径も前後でそれぞれ異なっているため、合わせて4種類のローターがあるということになる。チーフエンジニアの都築功氏いわく、タイヤサイズがそれぞれ違うためバネ下重量も異なり、それぞれのモデルで完璧なハンドリングを実現するためにバランスをとっているそうだ。スープラはそれほどまでにこだわって開発されている。

こだわりは車重にもあらわれており、旧型よりも56kg軽量化されている。軽量化のためにはかなりのコストがかかったそうだ。実に950回も会議が重ねられた。車重を抑えるためにアジャスタブルダンパーの採用は見送られた。デュアルエグゾーストも見た目は良いのだが、馬力には一切貢献しないため採用が見送られ、14kgが削ぎ落とされた。エンジンフードやルーフ、バンパーサポートはアルミニウム製で、燃料タンクはプラスチック製となった。わずか数キロの軽量化のため、中空スタビライザーが採用された。そしてわずか数グラムの軽量化のためにカーペットからボルトに至るまで軽量化が図られた。

この軽量化のおかげでスープラの重心は2cm以上低くなった。これによりロールは20%低減し、サーキットではRX-7より安定した走りを見せてくれた。剛性感も高く、スキッドパッドテストでは0.95Gという驚異的な記録を残した。

自然吸気モデルには5速MTが採用され、ターボモデルにはゲトラグ製の6速MTが設定される。6速MTは非常に優秀で、ターボチャージャーの過給が不十分な2,200rpmでも100km/hでしっかり走ることができる。

シフトストロークは短くなっているし、クラッチも軽いため、マツダ・ミアータ(日本名: ロードスター)と同じくらいに滑らかに操作することができる。ただ、残念なことが2点あった。サイドブレーキの位置とシフトレバーの位置が近すぎる点と、2速と3速のギア比のギャップが大きすぎるため、ブーストの効果が薄れやすい点の2点だ。

車内からの視界はウイング付きモデルも含めて車格を考えれば十分に良好だ。メーター中央には巨大なタコメーターがあり、6,800rpmからがレッドゾーンとなっている。右側に配置されたスピードメーターは180mph (290km/h) まで刻まれている。

スープラのシートは911同様コンサバでクッションも薄いのだが、911同様に快適でサポート性も非常に高い。オプションでレザーも設定されるのだが、個人的にはファブリックのほうが好みだ。ファブリックのほうが通気性が良いし滑りにくい。それに、本革シートの見た目は少し安っぽい。

ブレーキとアクセルはヒール&トーに理想的な配置となっており、左足用のフットレストはかなり大きい。ラジオの位置はやたら低く残念だ。エアコン吹き出し口やデジタル時計がある位置にラジオを配置したほうがよかっただろう。それに、走行距離計がやたらスペースをとっているのも残念だ。

リアシートの存在は無視するべきだろう。リアシートにはジョー・ペシが覚悟を決めてようやく入れる程度のスペースしかない。それに、センタートンネルが出っ張っているため、助手席の足元スペースも狭くなっている。リアシートはフラットに倒すこともできるのだが、荷室は残念なくらいに浅い。それに、36,000ドルという価格を考えるとインテリアの質感も低い。

これまでのスープラはスポーティーなツーリングクーペだった。いわば現代版サンダーバードSCだった。一方、新型スープラは日産のショールームで300ZXの検討をしているような人たちに狙いを定めている。サーキットで1日試乗して思ったのだが、スープラはアイデンティティクライシスに直面しているのではないだろうか。スープラは速いのだが、RX-7のようなピュアスポーツカーではない。それに、300ZXのようなデザイン性や高級感や血統も持っていない。

ただ、MTのレクサス・SC300と新型スープラはボディサイズ、形状、パワートレイン、価格、そのすべてにおいて二卵性双生児のような存在だ。レクサスのほうが洗練されているし、上質だし、デザインも優れている。一方、トヨタのほうが足回りは硬く、ステアリングもダイレクトだし、クライド・ドレクスラーのごとく俊敏だ。いずれにも良さがある。完璧な車とは言い難いものの、レクサスの血が入った新しいスープラは従来より前進している。今のスープラを大したことのない車だと評する人はいないだろう。もっとも、コルベットの販売員は例外かもしれないが。


Toyota Supra Turbo