Amazonプライム・ビデオで配信中の自動車番組「The Grand Tour」でおなじみのジェレミー・クラークソンが英「The Sunday Times」に寄稿した試乗レポートを日本語で紹介します。

今回紹介するのは、ホンダ・NSXのレビューです。


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カレーからドーバーまで徒歩で行けた時代、まだ建築資材として小枝が広く用いられていた頃、ホンダはV10を搭載するスーパーカーを作ろうとした。その車はNSXの後継車と言われており、それを聞いた私は大いに興奮した。

開発状況が気になって何度もホンダに尋ねたのだが、毎度「順調です」という答えしか帰ってこなかった。ところが、氷河期か火山噴火か知らないが、なんらかの天変地異に影響されたようで、開発にちょっとした遅れが生じてしまった。ネアンデルタール人に合わせて作ったインテリアを現代人向けに作り直す必要もあっただろう。

それから、日本経済に亀裂が入り、F1の規格からV10が排除されたため、V10ではなくツインターボV6エンジンを搭載するハイブリッドカーになると公表された。それも面白そうじゃないか。フェラーリやマクラーレンやポルシェも見事なハイブリッドスーパーカーを生み出してきた。

それからもずっとホンダにいつになったら発売されるのかと訊き続けたのだが、返答はいつも「もうまもなくです」だった。そのとき、カリフォルニアの開発チームはシボレー・コルベットを「ベンチマーク」にして比較検討していたそうだ。

それから1年後、開発チームはドイツへ向かい、今度はポルシェのモデルをベンチマークとして検討を開始した。その翌年はモーリシャスでカクテルをベンチマークとした検討が行われた。ひょっとしたら、新型NSXはホンダの夢の中にしか存在せず、日の目を見ることはないかもしれない。そんなことを考えはじめた。

ところが昨年、シドニーでサーフボードをベンチマークとした検討が行われ、バリで砂浜をベンチマークとした検討が行われたあと、日に焼けた開発陣はついに開発完了を宣言した。

完成車の見た目は素直に良かった。ロー&ワイドで、特に車幅に関しては、これより広い車などほとんどないほどだった。それに、非常に先進的だ。ミッドシップに搭載されるツインターボV6エンジンと48PSのモーターの組み合わせは見事で、ターボの魔法が引き出されるまでの間も、モーターがその穴を埋めてくれる。

しかも、それぞれの前輪には36PSのモーターが接続されている。見た目は昔ながらのスーパーカーなのだが、中身はまったく違っている。四輪すべてを同じ速度で回転させるだけでも、想像できないほどの演算能力が必要となるだろう。

そう考えると、NSXの登場までにとてつもなく長い時間がかかったことも理解できるだろう。車内に足を踏み入れると、中身の複雑性などまったく感じさせない、普通のステアリング、普通のペダル、普通のパドルシフトが出迎えてくれる。価格も普通だ。高いと思う人もいるだろうが、143,950ポンドという価格はポルシェのハイブリッドカーのおよそ5分の1だ。

そう考えると、フェラーリ・488GTBやランボルギーニ・ウラカンやマクラーレンに対抗できる車のように思える。ところが、現実は違う。

最初の問題は頭の回転の遅さだ。「クワイエット」モードにして(別のモードだとやかましいし燃費も悪くなるし乗り心地も悪くなるので、基本的にはこのモードを選ぶことになるだろう)アクセルを踏み込むと、コンピューターがしばらく考え込むため、タイムラグが生じてしまう。

待ってくれ。どのギアを選べばいいんだ。4速か? 5速か? ちょっと会議を開こう。あと、各タイヤの駆動力配分についても考えないと。まずは左前輪の検討を…

そうこうしているうちに、NSXが追い越そうとしていたヴォクスホール・ベクトラのドライバーは自宅に到着し、居間で『ゲーム・オブ・スローンズ』を観はじめる。

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つまり、NSXの先進的ハイブリッド技術は求めていたほどのスピードをもたらしてはくれない。経済性が高ければそれも我慢できるだろうが、実燃費はせいぜい7km/L程度だ。

操作性にも問題がある。特殊な4WDシステムのおかげで絶大なグリップが得られるのかもしれないが、重さがはっきりと感じられるし、リアに重さが集中しているため、実際にハンドリングを試したいとは思えない。ひとたびグリップを失ってしまえばきっと大惨事になるだろう。

それに、ステアフィールは希薄だし、コーナー入り口では妙にバランスが崩れる。まるでサスペンションが悩んでいるかのようだ。

車好きの目線で考えると、新型NSXはマクラーレンやランボルギーニやフェラーリに対抗できる車ではない。しかも、問題は他にもある。

サンバイザーは切手ほどの大きさしかなく、質感はソビエト製のバンと同等だ。クラクションの音はトイザらスで売っているペダルカーと変わらないし、ナビも最悪だ。

おそらくナビはジャズ(日本名:フィット)やシビックと共通なのだろう。なので、最寄りの老人施設は簡単に見つけられるのだろうが、タッチパネル式のためまったく使い物にならないし、ソフトウェアを設計したのはきっとフィクション作家だろう。2回も通行できる道が封鎖中と案内された。

オーディオは1970年代レベルだし、かといってエンジン音を楽しめるわけでもない。かつてのNSXの音はドライバーを陶酔させた。一方、新型NSXの音は砂利っぽい雑音でしかない。もっとも、まともに加速しないことが気がかりで、エンジン音を聞いている暇などない。

最悪なのは燃料計だ。私の机を見たことがある人なら知っているだろうが、私は強迫性障害持ちなどではない。しかし、針の位置が明らかにずれているため、斜視っぽく見える。おかげで発狂しそうだった。

エンジニアはメカニズムの設計に悪戦苦闘し、内装部品は工場に転がっていたものを適当に付けただけなのだろう。数日間NSXを運転するとそれがよく分かる。目に入るもの、手に触れるもの、なにもかもが安っぽい、もしくは使いづらい。

番組中、ジェームズ・メイはNSXが面白い車なので気に入ったと言っていた。彼いわく、加速の鈍さはよく分からない単位やモーターのリニアな特性と関係しているとか…このあたりでうっかり眠ってしまった。

彼は正しい。NSXは面白い車だ。見た目だって魅力的だ。しかし、褒められるところはそれくらいしかない。


The Clarkson Review: 2017 Honda NSX