今回は、米国「Car and Driver」によるクライスラー・パシフィカ プラグインハイブリッドの試乗レポートを紹介します。


Pacifica Hybrid

1984年にクライスラーが初めてミニバンを発売したとき、家族旅行に革命がもたらされた。ミニバンは乗用車的な乗り心地、乗用車的なハンドリングを実現した小型バンで、室内空間は広く、大型バンやステーションワゴンにも劣らぬ実用性があった。当時、破産寸前だったクライスラーにとってこれは賭けだった。この賭けは後に歴史に残る成功となり、クライスラーという会社を救っただけでなく、自動車業界の様相すら大きく変貌させることとなった。最近盛り上がりを見せているSUVが興隆するまでの間、ミニバンはファミリーカーの主流だった。

現在のクライスラーはおそらく、当時と比べれば財政的に安定した状況にあるだろう(あくまでおそらくだが)。そんなクライスラーは新型ミニバンのパシフィカにプラグインハイブリッドモデルを追加することで、ミニバンに新しい変革をもたらそうとしている。これはアメリカ初のハイブリッドミニバンだ。しかも、非ハイブリッドモデルとほとんど変わらない実用性を保持している。

搭載されるのは標準モデルと共通の3.6L V6エンジンなのだが、ハイブリッド化のためにピストンやカムシャフト、バルブが新設計となっており、また効率性を高めるためにアトキンソンサイクルとなっている。2列目のフロア下(本来なら、床下収納される2列目シートが収まる場所だ)に16.0kWhのリチウムイオンバッテリーパックが収まり、公式発表では電気のみで50km連続走行が可能だそうだ。満充電は240Vで2時間、120Vで14時間かかる。ここまでは普通のプラグインハイブリッドカーとさして変わらないのだが、パシフィカには独自のeFliteというシステムが採用されている。

一般的なハイブリッドシステムには駆動および回生にACモーターが使われるが、eFliteもそれと大きな違いはない。これはフィアット・クライスラーが独自に開発したシステムで、プラネタリーギアとワンウェイクラッチを使って2つの電気モーターとエンジンが生み出すトルクをディファレンシャルに直接送ることができる。クライスラーによると、このシステムは他社のシステムよりも小型で、効率性も高いそうだ。明言はされていないものの、小型のシステムなので将来的にはFCAの他のモデルにも使われるようになるかもしれない。燃費は公称値で34.0km/L(実質燃費)程度だそうだ。

パシフィカハイブリッドには「Premium」と「Platinum」の2グレードが設定される。今回はパシフィック・コースト・ハイウェイおよびサンタモニカ近郊の山道で「Platinum」に試乗した。南カリフォルニアはハイブリッドカー発表の地に相応しい場所だ。ここは大気汚染や交通渋滞の対策に力を入れている地域だ。カリフォルニアの高速道路にはHOVと呼ばれる2人以上が乗る車しか走行できない車線があるのだが、プラグインハイブリッドカーだとこの車線を1人乗車でも走行することができる。通勤で使う人には大きな魅力になるだろう。

街中では2,270kgという車重をものともせず毅然と走り、サンタモニカの渋滞も苦ではなかった。50kmというバッテリーのみの航続距離もおそらく正確だ。山道を走らせても余裕があり、長い登り坂でも力不足を感じることはなかった。下り坂では充電が行われ、11km分の電気が溜まった。160kmほど走ったところで平均燃費を見てみると、13.0km/Lと表示されていた。非ハイブリッドモデルのカタログ燃費が9.4km/Lであることを考慮すれば悪くない値と言えるだろう(ハイブリッドモデルのEPA燃費は不明だ)。

乗り心地やハンドリングは非ハイブリッドモデルとほとんど変わらない。ハイブリッド化によって車重が278kg増加したため、スプリングレートが上げられているのだが、乗り心地は非ハイブリッドモデルと同じくらいにしなやかだし、操作性も良好だ。ステアリングは非ハイブリッドモデル同様軽く、ややフィールに欠ける。とはいえ、街中では操作しやすいし、高速道路でまっすぐ走らせるのも楽だ。

rear

ただし、ハイブリッドモデル特有の問題点もある。ブレーキはリニアではなく違和感があるため、上手にブレーキをかけるのが難しい。ガソリンエンジンは一定速度で走行している時は静かなのだが、急加速時には荒っぽい振動が車内に伝わってくる。慣れれば気にならないような問題かもしれないが、改善を求めたいところでもある。

エクステリアは標準モデルとほとんど変わらず、フロントグリルや18インチアルミホイール、そしてエンブレムのみがハイブリッド専用品だ。インテリアも標準モデルと同じだ。ソフトなプラスチックが使われ、カップホルダーをはじめ収納スペースはよく考えられている。クライスラーのUconnectインフォテインメントシステムも使いやすい。7.0インチのメーターディスプレイには駆動状況や航続距離、運転のエコ度など、ハイブリッドシステムの情報が表示される。

ハイブリッドモデルを選ぶということは重荷を背負うということだ。前述の通り、2列目のフロア下のシート格納用スペースはバッテリーで埋まってしまっている。しかし、この結果、2列目シートの快適性が上がっている。床下に収納する必要がなくなった結果、クッション量が増加し、標準モデルよりもずっと座り心地が良くなっている。

43,090ドルの「Premium」にはシートヒーター(前席)付レザーシートやリモートエンジンスターター、3ゾーンオートエアコン、2列目キャプテンシート、パワーテールゲートが装備される。「Platinum」は46,090ドルで、ベンチレーテッドシート(前席)、ステアリングヒーター、インダッシュナビ、ハンズフリースライドドアが追加で装備される。2列目用オーバーヘッドDVDプレイヤー(895ドル)は「Premium」のみにオプション設定となる。「Platinum」にはデュアルタッチスクリーンリアシートエンターテインメントシステム(ゲーム機能付き)が標準装備され、1,795ドルのオプションとしてパノラミックサンルーフが設定される。

ハイブリッドモデルは7,500ドルの税額控除措置を受けられ、州によってはさらに補助金を受け取ることができる場合もある。それを考慮に入れると、同等装備のガソリンモデルとの価格差は実質100ドル程度まで縮まる。

ハイブリッドモデルの追加はパシフィカにさらなる魅力を加えている。ひょっとしたら、パシフィカハイブリッドの登場を契機に、ホンダやトヨタなどからもハイブリッドミニバンが登場するかもしれない。かつてミニバンの先駆者だったクライスラーが、今度はハイブリッドミニバンの先駆者になるのかもしれない。


2017 Chrysler Pacifica Plug-In Hybrid - First Drive Review