Amazonプライム・ビデオで配信中の自動車番組「The Grand Tour」でおなじみのリチャード・ハモンドが英「Mirror」に寄稿した試乗レポートを日本語で紹介します。

今回紹介するのは、2014年に書かれたポルシェ・911 GT3のレビューです。


911 GT3

僕はポルシェが嫌いだ。去年、僕は6年間(個人的最長記録だ)乗り続けてきた911カレラSから911 GTSに乗り換えた。

GTSが悪い車だったわけではない。GTSは997の中でも最高のモデルだし、コストパフォーマンスも高いし(値段は高いのだが、ポルシェの水準で考えるとそれほど悪くない)、台数の出ない限定モデルなので比較的値落ちもしない。むしろ、GTSは完璧な車だった。

ところが秋になって状況が変わった。ポルシェが新型911 GT3を発売した。僕はこの車に試乗したあと、見えない力に引っ張られて地元のポルシェディーラーへと向かった。そこで僕はこれまで乗っていたGTSの鍵をセールスマンに渡してから大金を支払い、白のGT3に乗って家に帰ることとなった。

自分の愛車としてこの車のレビューを書けることが嬉しくて仕方ない。この車には欠点というものがないので、もしポルシェが嫌いなら今すぐこのページを閉じるべきだ。

この名車について何から話すべきだろうか。まずはトランスミッションの話をすることにしよう。GT3にはポルシェのデュアルクラッチトランスミッションであるPDKのみが設定される。最近はATしか設定されない車が多く、そのせいで魅力が損なわれていることも多いし、これまでは911も同じだと思っていた。

しかし、この7速PDKは見事だ。ランボルギーニやフェラーリとは違い、わざとらしいブリッピングなど起こらないし、人工的で無骨な変速も起こらない。ポルシェのPDKは何事もなかったかのように変速する。それに、このトランスミッションには面白いギミックも付いている。それが「パドルニュートラル」機能だ。

トラクションコントロールを切ってステアリングの両サイドにあるパドルを同時に引くと、トランスミッション内の2つのクラッチの接続が両方とも切れる。それからレッドラインまでエンジンを回し、両方のパドルから手を離すと、狂気的なホイールスピンによりタイヤスモークが発生し、路面に2本の黒いタイヤ痕が残される。その代償としてわずか数秒のうちに250ポンドのタイヤが使い物にならなくなる。

次は何を話そうか。ではエンジンについて話そう。フラットシックスの3.8Lエンジンにはターボチャージャーなど付いていない。最高出力は475PSで、最高速度は315km/h、0-100km/h加速は3.5秒を記録する(旧型911 GT3と比較すると0.4秒速い)。

スポーツボタンというものもあり、押すと排気管内のフラップが開いてさらに見事な音が響き渡る。

GT3の操舵システムは下手な名門大学生より頭が良い。60km/hまでだと、ステアリングを切ったときに後輪が前輪と反対方向に向く。これにより、低速域において小回りが利くようになる。そして80km/h以上になると後輪が前輪と平行に動くようになる。

一番凄いのはこの操舵システムの動きを体感できない点だ。事前情報無しにこの車に乗ったとしたら、特別なシステムが付いていることになど決して気付かないだろう。このシステムのおかげでステアリングは非常に正確だし、重さもちょうどいい。

他の人が書いたGT3のレビューを読んでみると、旧型GT3と比べてわずかに運転しやすくなった点や、旧型GT3のほうが車との「意思疎通」が図りやすかった点などが指摘されている。しかし、新型GT3はとても楽しい車だ。そもそも僕はセバスチャン・ベッテル級の反射神経など持ち合わせていないので、超高速域における車との意思疎通など図りようがない。

GT3の走りは僕には十二分だし、大半のドライバーにとってもそうだろう。嬉しいことに、今回のレビュー対象の車は普段の試乗車とは違って返却する必要がない。これ以上のスポーツカーが近々出てくることもないだろう。この新しいおもちゃを手放すことなど想像すらできない。

しかし、ポルシェがこれから何をしでかすかなど、まったく予測不能だ。ポルシェは信用のおけない会社だ。


The Porsche 911 GT3 is so good that I just had to buy one myself