今回は、米国「Car and Driver」によるシボレー・クルーズ ハッチバックの試乗レポートを紹介します。


Cruze

以前に5台のセダンで比較試乗を行った際、シボレー・クルーズ セダンは静粛性や快適性の高さ、そしてデザインの良さが評価された。5台のうちで、クルーズの評価はヒュンダイ・エラントラ日産・セントラ(日本名: シルフィ)よりも高く、ホンダ・シビックやマツダ3(日本名: アクセラ)よりは低かった。そんな微妙な評価のクルーズにハッチバックモデルが追加された。

シボレーはコンパクトカー人気の上昇を受け、実用的な車を求める層を狙ってハッチバックを追加した(ちなみに、北米市場以外では旧型クルーズにもハッチバックモデルが設定されていた)。事実、フォード・フォーカスの2015年度売り上げのうち40%はハッチバックであり、シボレーはそんなライバルに対抗したかったのかもしれない。

しかし、フォードと違ってホットハッチモデルは設定されない。RSというグレードもあるのだが、あくまで外装に手が入っているだけだ。サスペンションやステアリングのセッティングを見ても、走りより快適性を重視しているのは明らかで、完成度は高いもののスポーティーとは言えないセダンの血を多かれ少なかれ引いているのは確かだ。

とはいえ、見た目はセダンより恰好良い。ルーフラインは綺麗だし、全長が21cm短くなっているため、より塊感のあるデザインになっている。唯一残念なのが真後ろから見た時だ。ウインドウが傾斜しているため、それより下の部分の平板さが強調されてしまう。

スタイル重視のデザインなので、リアバンパーが大きくなっており、リアハッチの開口部は狭くて下端の位置が高い。かつてのサターン(オペル)・アストラも同じようにデザイン重視で実用性を犠牲にしていたのを思い出す。より角張ったデザインのフォルクスワーゲン・ゴルフには開口部の広さで負けるのだが、それでもマツダ3と比べれば開口部は広い。

荷室容量は650Lで、フォーカスやマツダ3と比べると85Lほど広い。リアシートを畳んだ場合、荷室容量は1,330Lとなる。これはマツダ3と同等の値であり、フォーカスと比べると60L近く広い。また、リアシートを畳むとほとんどフルフラットな荷室ができる。ちなみに、ゴルフの荷室容量は通常時650L、リアシートを畳んだ状態で1,500Lとなる。

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クルーズが他のハッチバックと比べて特別実用的なわけではないのだが、少なくともセダンよりは実用的だ。それに、セダンと比べて快適性が劣るようなこともない。高速域においてもセダンと同等の静粛性を確保するため、荷室周辺には遮音材が追加されている。リアスポイラーも風切り音が配慮されて設計されており、サンルーフ周辺にも騒音防止のために発泡素材が追加されている。実際、走行時の騒音はタイヤノイズも含めてかなり抑えられている。

セダン同様、ハッチバックのセッティングも快適性に重きが置かれている。ステアリングはフィードバックに乏しいものの重さは適切で、高速道路でも修正舵をほとんど必要としない。シャシ特性も同様で、路面の衝撃は抑えてくれるし、ロールもほとんどないのだが、運転していて楽しいと思うことはほとんどない。

サスペンションには2種類のセッティングがある。ベースグレードの「LT」はフロントストラット、リアトーションビームのスタンダードな組み合わせなのだが、上級グレードの「Premier」だとリアのトーションビームサスペンションにワッツリンクが追加され、操作性が向上している。とはいえ、実際に試乗しても両者の違いはあまり体感できなかったし、むしろホイールサイズによる違いのほうが大きい。16インチホイールを履く「LT」は乗り心地も良く、タイヤノイズも小さかった一方で、18インチホイールを履く「Premier」は明らかに硬く、走行安定性は高かったのだが、高速域ではタイヤノイズが気になった。

全グレードに155PSの1.4L 直4ターボエンジンが搭載され、6速MTもしくは6速ATが選択できる(9速AT車およびディーゼルモデルも後に追加される予定)。このエンジンはセダンのエンジン同様、無個性ではあるが非常に滑らかで静粛性も高い。ATの変速も滑らかだし、変速タイミングも適切だ。ただし、ATのマニュアル変速はパドルシフトでもシフトレバー自体でもなく、シフトレバーの最上部にあるボタンで行う。

今回はMTには試乗できなかったのだが、セダンのMTモデルに乗った経験から予想すると、ギアレシオが空きすぎているため、スポーティーとは言えず、ただ面倒なだけかもしれない。また、セダンでもそうだったのだが、ブレーキペダルの位置がアクセルペダルと比べて妙に高いので、時折ペダルが靴に引っかかってしまうかもしれない。

ハッチバックの購入層はセダンの購入層よりも予算が多い傾向にあるため、セダンに設定される低価格グレードの「L」および「LS」はハッチバックには設定されない。そのため、セダンでは中間グレードに当たる「LT」と最上級グレードの「Premier」のみの設定となり、価格はそれぞれ22,115ドル、24,820ドルだ。

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「LT」は6速MTで、Apple CarPlayおよびAndroid Auto対応の7インチMyLinkシステムや16インチホイール、シリウスXMラジオ、4G LTE対応Wi-Fiホットスポット機能、LEDデイライトなどが標準装備となる。6速ATは680ドルのオプションで、ほかにサンルーフや8インチディスプレイ、BOSEオーディオシステムなどがオプション設定される。

「Premier」では17インチホイールやレザーシート(フロントシートヒーター付)、ステアリングヒーター、運転席パワーシート、キーレスエントリーが標準装備となる。セダンとの価格差はそれほど大きくなく、「LT」がプラス1,090ドル、「Premier」がプラス470ドルだ。

車重はセダンもハッチバックもそれほど変わらないのだが、空力性能が異なるため、燃費性能はハッチバックのほうがやや悪い。「LT」の6速MTモデルのEPA燃費はシティ燃費11.0km/L、ハイウェイ燃費16.6km/L(ハイウェイ燃費がセダンより0.4km/L劣る)で、6速ATモデルはシティ燃費12.3km/L、ハイウェイ燃費16.2km/L(ハイウェイ燃費がセダンより0.4km/L劣る)となる。「LT」よりも重い「Premier」は6速ATのみの設定で、シティ燃費11.9km/L、ハイウェイ燃費15.7km/Lとなり、セダンと比べるとシティ燃費で0.4km/L、ハイウェイ燃費で0.9km/L劣る。

ハッチバックの顧客はセダンよりもわずかに年齢層が高く、男性客の割合が高くなると想定されている。ターゲットイメージは、犬を飼っており、キャンプ用品や楽器などを運搬する機会が多い30代の活動的な男性だそうだ。クルーズはこういった顧客の需要を満たす車に仕上がってはいるのだが、同時に他のライバル車のほうが突出した特徴を持っているのもまた事実だ。クルーズも悪い車ではないのだが、個性が欠如している。とはいえ、突出した個性を求めず、実用的なハッチバックを欲している人には受けるのかもしれない。


2017 Chevrolet Cruze Hatchback