Amazonプライム・ビデオで配信中の自動車番組「The Grand Tour」でおなじみのジェレミー・クラークソンが英「The Sunday Times」に寄稿した試乗レポートを日本語で紹介します。

今回紹介するのは、アウディ・SQ7のレビューです。


SQ7

ジェームズ・メイはアウディが嫌いになったようだ。先日、SQ7のリアシートに彼を乗せる機会があったのだが、彼はSQ7に乗っている間ずっと文句を言い続けていた。彼の不満などいちいち聞くつもりもなかったのだが、それでも彼の言っていたことを要約すると、アウディはデザインばかりやたら凝りすぎていて、中身が伴っていないそうだ。

普通に考えると、彼の言っていることは間違っている。なぜなら、アウディ最大のSUVのホットバージョンであるSQ7のデザインはあまりに低俗であり、凝ったデザインなどではない。それに、車重2トン超、全長5m超の巨大ロケットには、チェルノブイリ原発4号炉を覆うシェルター以上に技術が詰め込まれている。この車は、イザムバード・キングダム・ブルネルとスティーブ・ジョブズの魂が融合して生み出された暴力の狂宴だ。

まずエンジンについて説明しよう。0-100km/h加速を5秒未満でこなし、最高速度は約100万km/hを記録すると聞けば、大半の人は大排気量のV12エンジンが搭載されていると予想するだろう。しかし、この車にはエコ狂信者をさらに憤慨させるであろう4Lの過給器付きV8ディーゼルエンジンが搭載されている。

「ターボチャージャー」ではなくあえて「過給器」という表現をしたのは、アウディがシリンダーに空気を送り込むまったく新しい方法を生み出したからだ。ターボチャージャーは2基搭載されており、インタークーラーの後方、エンジンのそばには電動式コンプレッサー (EPC) というものが搭載されている。このコンプレッサーは排気ガスではなく電気の力によって作動する。わずか250ミリ秒で70,000rpmまで回る。ほとんど一瞬だ。

普通のターボだと、アクセルを踏み込んでからエンジンのポテンシャルをすべて引き出すまでに時間差がある。それはターボチャージャーが駆動しはじめるまでに時間がかかるからだ。SQ7はその時間差をEPCによって埋めている。

この車は、非常に複雑なシステムを用いることで、数学の教科書の中にしか存在しない問題を解決しようとしている。ターボ車が誕生したばかりの1970年代当時はターボラグが厄介な問題だった。しかし、最近の車の場合、かなり集中して粗探ししなければターボラグなど分からない。要するに、アウディは理論の中にしかないものをなくすために多額の費用を費やしたと言うことだ。一流シェフが作るトリュフソースのようなものだ。味の違いに気付くような人間などほとんどいないのだが…。

rear

エンジン自体の、特にカムシャフトの話に移ろう。エンジンには弁の動きが自在に変化するシステムが組み込まれている。これは非常に先進的なシステムで、トルクと経済性を両立してくれるそうだ。もっとも、運転してみてもそんな些細な違いになど気付けないのだが…。

SQ7を運転して実際に気付くのは、コーナーであまりロールしないということだ。竹馬に乗った巨大な車なので、コーナーを攻めたりすればドアハンドルがアスファルトと接触してしまいそうなものなのだが、そんなことは決して起こらない。

これも先進技術の成果だ。ロール抑制のために電気モーターと3ステージのプラネタリーギアボックスが用いられている。オフロード走行時にはスタビライザーが切り離されてちゃんと衝撃を吸収してくれるし、オンロードを走りはじめると即座にスタビライザーが接続される。スタビライザーが繋がると車体がしっかり支えられ、ロールが抑制される。これはF1でも投入が検討され、後に禁止された技術だ。

これによって快適性を損なわずに走行性能が向上していると言いたいところだが、それを言ってしまうと嘘になる。わずかではあるのだが、路面の衝撃は伝わってくる。しかし、SQ7には素敵なボディ装飾が施されており、大径ホイールを履いている。それだけでなく、ちょっとした四輪操舵システムまで付いている。

アウディの先進技術についてはまだまだ語れる。軽量かつ高剛性な構造なので、高い経済性を誇りつつも、木にぶつかっても粉々に砕けることはない、なんて話もできる。しかし、そろそろ実際に車に乗り込むことにしよう。この車は2列シートで、その後ろには荷室フロアから電動でせり上がってくる緊急用の3列目シートがある。3列目に自分の祖母を乗せようとは決して思わないが、子供を乗せる分には十分だろう。

さらに前のほうに目を向けると、ジェームズ・メイを苛立たせるものがある。ご存知の通り、ジェームズは黒電話を修理することを趣味とするような人間なので、ブルーの無駄な照明やアウディの「ホリゾンタル」デザインのようなものは嫌うだろう。

interior

ホリゾンタルデザインがどういうものかなどまったく知らないのだが、少なくともこのインテリアは好みだ。乗り心地はやや悪いものの、室内の居心地は良い。それに、数多くの先進技術が投入されているにもかかわらず、インテリアはやたら実験的なわけではない。シンプルで実直で、どのスイッチが何のためのものなのか直感的に理解できる。

プッシュエンジンスイッチを押し、超古典的なトルコンATをドライブに入れれば車が走り出す。お風呂に入るのと同じくらいに簡単な操作だ。

要約すると、SQ7は速くて頑丈で安全で先進的で革新的で、面白くて広くて作りが良くて、そして思うに、まったくもって意味のない車だ。

1週間かけ、この車を欲しがる人など存在するのか考えてみた。しかし、そんな人など思い当たらなかった。速い車を欲しがる人はいるだろうし、V8ディーゼルのやや粗雑な低音が好きな人もいるだろう。しかし、そんな人が7人乗りの車を求めるはずがない。

これは困った。SQ7はオフロードカーではない。スポーツカーでもない。長距離用高級クルーザーでもなければ、デザインが優れているわけでもない。唯一目を引くのは価格だ。71,000ポンド以下という価格は使われている技術を考えれば安いだろう。速さでも実用性でもSQ7に劣るV8レンジローバーよりも12,380ポンドも安い。

しかしながら、必要もなければ欲しくもないような車に71,000ポンドも払うような人はいない。


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