今回は、米国のチューニングメーカー「フライング・ミアータ」が製作した、V8エンジン搭載のマツダ・MX-5ミアータ(日本名: ロードスター)の試乗レポートを紹介します。


Flyin' Miata

ライトウェイトオープンスポーツカーにアメリカ製V8エンジンを無理やり押し込んだ車といえば、バランスの悪いモンスターであり、運転するにも覚悟がいるような車だろう。しかし、ことこの車に関しては何の覚悟もいらない。運転していて怖かったのは、走っていたコロラド西部の道にヤギが飛び出してきたときくらいだ。

フライング・ミアータが手を入れたマツダ・MX-5のシフトレバーは532PSのLS3エンジンが生み出すリズムに協調して振動していた。この車はこれまで運転してきた中でも相当に魅力的で、車との一体感がある車だった。まさかこれほどまでに良い車だとは思っていなかった。

フライング・ミアータはコロラド州にある桃が特産の田舎町、パリセイドに本拠地を構えるショップだ。このショップは初代ミアータの登場時から8年以上にわたってV8エンジンを搭載するミアータを作り続けてきた。

初代ミアータのエンジンベイにはかなり広い隙間があったので、誰もがV8エンジンを載せてみたくなったことだろう。しかし、そんなことをしたら車のバランスや落ち着きが失われるだろうことも容易に想像できた。しかし、フライング・ミアータが最初にエンジンスワップに使ったLS1エンジンはさほど重くなく、初代ミアータに搭載されていた直4エンジンともあまり変わらなかった。

新型に搭載されるLS3エンジンおよびTREMEC製6速MT(バイパーやコルベットにも搭載される)は合計重量が282kgで、マツダの元々のパワートレインとの重量差はわずか108kgだ。つまり、10%の重量増と引き換えに240%出力が増加している。前後重量配分もそれほど悪くなく、前53%、後47%となっている。

2016年はじめ頃、フライング・ミアータのチームはミアータを分解し、解析を行った。エンジンベイ内部を3Dスキャンし、GMから提供された3Dデジタルデータを元に作ったV8エンジンのモックアップと照らし合わせた。結局、ブラケットなどごく一部のパーツを変形させれば難なく搭載することができた。

engine

トランスミッションはなんとかそのままトンネルに押し込むことができた。ウォッシャータンクはホンダ用の小型のものに交換され、バッテリーはトランク内に移動している。また、電動パワーステアリングも大きくて場所を取るため、油圧式のものに変更されている。

リアディファレンシャルはカマロSSのものが採用され、リアサブフレームに補強が施されたことで67.2kgf·mという大トルクにも対応できるようになっている。

開発陣の一人、キース・タナー氏はこの車について以下のように語っている。
今まで生み出してきた中でもかなりの自信作です。最初にサーキットで試乗した時にすぐに気に入りました。この車は長距離クルージングにも適していますし、サーキットに持ち込めば鋭い走りを見せてくれます。

ヤギが道端に飛び出してきたとき、私はアクセルを緩めて減速した。ヤギが道路外に逃げるのを見て重いクラッチを繋ぐと、車はダイレクトに加速した。トラクションコントロールが付いておらず、タイヤも標準車のクラブエディションより4cm幅が広いだけということを考えれば驚異的だ。それに、トランスミッションはてきぱきと変速してくれるし、シフトストロークも短いため、およそ3.5秒で100km/hまで達する。スピードメーターはタコメーターと同じくらいの勢いで回転し、ミラーを見ても巨大なロールバーしか見えず、この車の速さを実感した。

アクセルを緩めると見事な排気音が響く。ウィルウッド製の6ピストンフロントブレーキキャリパーは力強い制動を行い、フルブレーキング時には車体がややふらつきながらもしっかりと停まってくれる。

車体を右に振ろうが左に振ろうがフラットな状態を保ち続け、リアタイヤもそれほど滑らなかった。コーナー途中のバランスも素晴らしく、安心して運転することができた。ちなみに、FOX製のダンパーはタナー氏が自分で調整を行っているそうだ。

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ミアータは運転の楽しさを非常にシンプルに体現した車なのだが、フライング・ミアータがV8エンジンを搭載しても、その根本的な魅力はまったく失われていない。ドライバーズカーとして完璧な仕上がりだ。

あくまで今回試乗したのはプロトタイプモデルなので、いくらか不具合はあった。電動パワーステアリングがなくなった結果、車線逸脱警報が使い物にならなくなっていたし、アダプティブヘッドライトもまともに作動せず、タイヤ空気圧センサーも使えなくなっていた。とはいえ、タナー氏いわく、木曜日に9個点灯していた警告灯が現時点までで4個に減ったそうだ。また、電子制御関係の問題は間もなくすべて解決できるそうだ。

ミアータのV8化にかかる値段は車自体の価格抜きで49,995ドルとなり、合計価格はおよそ8万ドルとなってしまう。これはミアータとしてはあまりに高額だ。しかし、タナー氏いわく、F-TYPEや911にも比肩できるライトウェイトスポーツカーと考えれば十分安いそうだ。

ジャガーやポルシェにはいざというときに頼れるディーラーがあちこちにあるのだが、フライング・ミアータはそのあたりもちゃんと考えている。エンジンには2年保証があり、GMの指定ディーラーで点検を受けることもできるし、パーツの多くは市販品なので、何か問題が発生しても自動車用品店で品番を伝えれば代わりのパーツを手に入れることができる。

夕暮れ時にコロラドのレッドロックキャニオンを走らせると、まったく別の性格を持っていたはずの車とエンジンが見事に融合していることに驚き、この車のことが好きになった。マツダの優秀な車体、シボレーの陽気なエンジン、そしてフライング・ミアータの熱意が見事な化学反応を起こしている。LS3エンジンを搭載するマツダ・MX-5ミアータには車好きの求めているものがしっかりと詰まっている。


Exclusive First Drive: Flyin’ Miata’s V-8-Powered 2016 Mazda MX-5