今回は、ジェームズ・メイがAmazonプライム・ビデオで配信予定の新番組「The Grand Tour」について著したコラム記事を紹介します。


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The GT

かつて、生活が今よりもずっとシンプルだった頃には、よく直球な質問をされた。
これまでで最高の車は何でしたか?
R&Bシンガーのレマーって本当はどんな人なんですか?」(本当に良い人だ)
どうしてリチャード・ハモンドは髪を染めているんですか?

しかし、最近される質問と言えば決まってこれだ。
ジェリー・クラークソンともう一人…クエンティンだったかな、が出る新番組ってどんな番組になるんですか?
これはなかなか難しい質問なので、詳しく説明することにしよう。

まず、オンデマンド配信というシステムについて説明しよう。これを使うと、好きなときに好きな番組を見ることができる。必要なのはスマートフォンやタブレットなどの携帯端末だけだ。

私は年寄りなので携帯端末という概念を聞いただけでわくわくする。1980年以降に生まれた人には理解できないだろうが、番組の時間にテレビの前にいなければ、その番組を二度と見られなくなってしまうような時代があった。

『The Two Roonies』の放送時間になると街は静まり返り、番組の影響で強盗件数や妊娠率も急激に減少した。番組が終わると国民がこぞって紅茶を淹れようとしたため、送電線網がオーバーロードしてしまった。この頃がテレビの黄金時代だと考えている人もいる。当時、テレビの放送時間は国民の生活サイクルの一部だった。

今でも、大規模なスポーツ大会や首相の辞任会見などでは同じようなことが起こる。私自身もイングランドの試合があるとリアルタイムでテレビを見るのだが、そんなとき、同じ時間に同じ番組を見ている人がこの国に何百万人といることを想像し、妙な安心感を覚えたりもする。窓を開ければ、近所の家からまるで自分の感情を代弁するかのような歓声や悲鳴が聞こえてくることもある。こんなとき、私には一体感という感情が芽生える。

しかしながら、基本的に番組表に縛られる生活は苦痛でしかない。それに、全員が全員、同じ番組を見たがっているわけではない。姉が別の番組を見たがったりすれば、家庭内で諍いが起こってしまうかもしれない。親はベニー・ヒルを良く思わないかもしれない。そうなると、大して見たくもない『海底少年マリン』を見ざるをえなくなるかもしれない。

言うまでもなく、テレビは素晴らしい発明だ。テレビの概念は13世紀には既に生まれていた。寝たきりになったアッシジのキアラは自室の壁からミサの様子を見ることができたそうだ。彼女は1958年にテレビの守護聖人に認定された。

その頃にはBBCの放送開始から30年近くが経過していた。BBCが行った最初のテレビ放送にはジョン・ロジー・ベアードが発明した機械走査式システムが用いられており、後に電子走査式のシステムに切り替わった。この時代のテレビは大型家具と同じくらいに重く、一方でスクリーン自体は非常に小さく、当時新進気鋭だった自動車評論家、ジェレミー・クラークソンの頭部をかろうじて映せるほどの大きさしかなかった。

テルスター衛星を使った初の衛星放送は1962年に行われ、イギリス初のカラー放送は1967年に行われた。いずれもテレビ史における重要な出来事なのだが、1967年になっても国民はいまだに番組表に縛られ続けていた。イギリス国民が番組表の束縛から解放されたのは1972年のことだった。その年には超高価な家庭用ビデオカセットレコーダーが発売された。

正直に言うと、ビデオカセットレコーダーは使いづらかった。テープが絡んだり伸びたりするという問題以外にも数多くの問題を抱えていた。操作方法を理解できたのはNASAのジェット推進研究所の研究員くらいだったし、放送波ではなく内蔵の時計をもとに録画を行っていたため、放送時間の変更があると絶望を味わうことになる。ジェームズ・ボンドの映画を見ていたはずが、途中で緊急ニュースが入ると、これからというところで録画が途切れてしまったりした。

それ以降、ペイ・パー・ビュー、薄型テレビ、16:9フォーマット、インターネットストリーミングなどが登場した。これにより、我々には数多くの選択肢が提示された。それでは再び最初の疑問に戻ることにしよう。新番組「The Grand Tour」はどんな番組になるのだろうか。

Amazonの会費を支払い、スマートテレビかAmazon FireもしくはFire Stickを持っている場合、簡単に視聴できるそうだ。そんな次世代のテレビ放送の時代においてもなお、我々老いぼれ3人組がテレビに出られることが驚きだ。

最後に、細かな機能についても解説しよう。

4K
The Grand Tour は4Kで収録される。4K映像は解像度が一般的なHD映像の4倍であり、映像は超高精細だ。しかも、ただの4Kではない。4K HDR(ハイダイナミックレンジ)という方式がとられている。HDRとは映像の輝度の幅を拡大し、映像をより鮮明に、よりリアリティのあるものとする技術だ。

データ量が莫大になるため、スタジオ収録に用いるサーバーとロケーション収録に用いるサーバーをそれぞれ特別に作る必要がある。ナミビアスペシャルの映像データは実に40TBにのぼる。これは一般的なノートパソコン約80台分の容量だ。では、放送を見るにあたって4Kテレビを買うべきだろうか。それはジェレミー・クラークソンの顔を超高画質で見たいかどうかによる。

X-Ray
Amazonプライムの使用経験があるなら、X-Rayという機能についてもご存知のことだろう。これは視聴中の番組に出演している人物の情報を見たりすることができる機能だ。我々はAmazonに頼んでこの機能で遊んでいる。実際にどうなっているのかは自分で試して確認してほしい。


James May on how to watch The Grand Tour