イギリスの大人気自動車番組「Top Gear」の司会者の1人、ジェレミー・クラークソンが英「Top Gear」に寄稿した試乗レポートを日本語で紹介します。

今回紹介するのは、2015年に書かれたマクラーレン・P1のレビューです。


P1

2速に入れるとホイールスピンするくらいにパワフルな車ならたくさんある。3速にシフトアップするときにタイヤを鳴らす車も存在する。しかし、マクラーレン・P1はさらにその上を行く。路面が少し滑りやすいと、4速までずっとホイールスピンが続く。

速い車はこれまでもたくさんあった。ケーニグセグもそうだし、パガーニもそうだし、フェラーリ・F12なんて車もあった。食物連鎖のさらに下を見てみれば、アリエル・アトムやケータハム・R500のような軽量スポーツカーもいる。しかし、P1のような車は前代未聞だ。P1は我々が持っているスピードという概念すら変えてしまう。

映画『ラッシュ/プライドと友情』でスタントマンを務めたニキ・フォークナーとは知り合いなのだが、彼がP1に乗ってスパ・フランコルシャンを1ラップ走ったあとの表情は印象的だった。まるで戦闘機にでも乗ってきたかのような表情だった。かなり驚いている様子だった。眼球は加速により後方に移動しており、その目を覗き込むと恐怖の感情が見て取れた。

それから私がP1を運転した。ピットに戻ってくる頃には下着を少し汚してしまった。そして、メカニックに向かってこう言った。
臆病風に吹かれたとは思われたくないが、頼むからレースモードは解除してくれ。

その日は撮影のために車にカメラを載せていたのだが、カメラを前にしていると知りつつも、目を見開いて「****** hell」と叫ぶことしかできなかった。

搭載されるエンジンは3.8LのツインターボV8で、最高出力は… ****** hell

続いて、オー・ルージュに入った。

ステアフィールはフェラーリ・458を彷彿とさせる。軽いのだが… oh, ****** hell

レースモードにすると地上高が50mm低くなり、リアウイングが変形して600kgのダウンフォースを生むことが可能となる。これによりグリップ力が増大し、安定性が向上する。しかし、雨の日にはナーバスになってしまう。アクセルを少し踏んだだけでもモーターが瞬時にトルクを発揮してしまうため、リアがバランスを崩してしまう。10秒に4回心臓発作が起こり、6回アドレナリンが放出される。

雨天時にはスポーツモードにするべきだ。これなら心臓発作は30分に1回くらいしか起こらない。

この前日、私はベルギーのブルッヘ市内でP1に試乗した。EVモードで走らせたのだが、静かだったし、軽かったし、視界も良好だった。街中を走る手段として考えても、G-Wizよりもずっと扱いやすい。なにより、モーター単独でも179PSを発揮することができる。

では、ここまでの話を要約してみよう。この車は熟練のレーシングドライバーすら恐怖させる。撮影すらままならないほどの速さを持っている。にもかかわらず、街中ではワイパーの付いたアル・ゴアに変貌する。

P1はハイブリッドカーだ。基本的概念はトヨタ・プリウスと同じだ。しかし、プリウスと違ってモーター単独で1m以上走ることができる。V8の発電機を作動させずに11kmも走ることができる。エンジンが始動すると、システム出力は916PSとなる。

このスペックを嘲笑する人もいるだろう。ヴェイロンのほうがスペックでは280PS以上優れている。それは事実だ。しかし、ヴェイロンは4WDだしセント・ポール大聖堂と同じくらいに重い。一方のP1は後輪駆動だし、風に吹き飛ばされそうなくらいに軽い。

空力性能はP1の最大の要だ。空気はボディサイドを滑らかに流れ、ブレーキを冷却し、ルーフの通風管へと入っていく。そして、高速域ではボディを路面に押し付ける。すべてが計算し尽くされている。例えば、巨大なリアウイングは超高速域ではあまりに莫大なダウンフォースを生み出してサスペンションを破壊してしまうため、251km/h以上になるとリアウイングが下がるようになっている。

rear

しかし、細かく観察してみるとマクラーレン特有のナイキ風チェックマークがあちこちにある。ヘッドランプにも、ボンネットにも、ボディサイドにも。果たしてここに空気力学的な何らかのメリットがあるのだろうか。

ブルッヘを1日走り回ったあと、エンジンを始動させて高速道路を走った。ここでも、マクラーレンは二つの要素を両立した。速さと扱いやすさだ。12Cと同じタイプのサスペンションを使っているため、至高の乗り心地を実現している。かつてのシトロエンと同じくらいに見事だ。

運転も容易い。変速は滑らかだ。ステアリングは超絶軽い。瞳を閉じれば、そこは快適なソファになる。しかも、パワーウインドウやオートエアコンやナビも付いている。もっとも、ナビはマクラーレンの伝統に則って使い物にならない。カーペットはオプションなのだが、装備するために追加料金はいらない。130km/hで走らせると少しエンジンが騒がしくなるのだが、エンジンを切ってモーターだけで走ればこの問題も解決する。

軽量化のためにカーボンファイバーや軍事規格アルミや最新式セラミックスを使った車で普通の道路を走れば、乗り心地はトラにも劣るはずだと考える人もいるだろう。しかしそれは見当違いだ。この車であれば、ロンドンからインドまで難なく移動することができてしまう。ただし、アクセルを踏み込まないように留意する必要がある。アクセルを踏み込んでしまえば、たちまち現実世界から飛び出してしまう。そこは恐怖に塗れたSFの世界だ。

撮影中の話をしよう。走行車線を走るカメラカーが減速した。カメラカーの後ろを走っていた私はアクセルを踏み込んでカメラカーを追い越した。収録の際にはどんな車でもこのように撮影を行う。しかし、P1で同じように撮影をしようとすると、カメラの横を通過する頃には350km/hまで加速してしまう。さぞかしテレビ映えのする映像が撮れるだろうが、もし先行車がいたら確実にブレーキは間に合わない。結局、事故を起こして刑務所行きになるのがオチだ。

P1のフルスロットルはまるでクリスマスだ。1年に1度しか訪れない。この車は加速をするごとにドライバーを傷つける。それに、クリスマス同様、最愛の人との絆を壊しかねない。DRSと書かれたボタンを押すとリアウイングが下がる。これによって空気抵抗が減少し、さらに速く走ることができる。しかし、脂肪の付いていない916PSの車に、さらなるスピードを求めることなど果たしてあるのだろうか。

P1には「BOOST」と書かれたボタンもある。これを押すと、妙なことに150PSほど失うことになる。しかし、その150PSは消えてしまうわけではない。失われたパワーは蓄えられ、ステアリングのボタンを押すことでそのパワーが一挙に引き出される。この機能の使い道は想像すらできない。せいぜい、同乗者に自慢するときくらいにしか使えないだろう。

しかし、妙ではないだろうか。マクラーレンは数あるF1チームの中でもかなりの理論派だった。チームの人間は誰もが真面目くさった表情をしていた。にもかかわらず、P1にはブースト機能やDRSなどといった、ただドライバーを喜ばせるためだけの装備が付いている。

私はこれまで、マクラーレンの市販車を気に入ることはなかった。私はマクラーレン・F1が嫌いだった。耐熱性を高めるためだけにエンジンベイに金箔を貼り付けるという姿勢も好きになれなかった。面白いことに、マクラーレンはP1にも金箔を貼ろうとしたらしいのだが、耐熱テストをクリアできなかったそうだ。

SLRマクラーレンはメルセデス・SLにゴミブレーキを付けて価格設定を異常にしただけの車だ。MP4-12Cは非常に優秀な車なのだが、どこか学者的だ。それに名前も変だ。しかし、正直に言うと、P1には文句の付けようがない。

P1はどこをとっても魅力的だ。エコ技術をハイジャックし、スピードを生み出すために使ったという点はとても気に入っている。それに、その試みはしっかりと実を結んでいる。イギリス人らしいユーモアが込められているのも嬉しいし、リアウイングを上げたときの見た目も気に入っている。

音にも迫力がある。港湾労働者の咳払いのような威勢のよさがある。スピードも凄い。例えばフェラーリ・F12も相当に速いのだが、この車はガレージの中で大切に保管されるために設計されたロードカーだ。一方のP1はより実践主義的な車だ。技術の詰まった車だ。他のハイパフォーマンスカーを圧倒し、挑発する車だ。

ポルシェ・918やフェラーリ・ザ フェラーリも間違いなく魅力的な車になるだろう。しかし、マクラーレンが成し遂げた人類の偉大なる躍進のさらに上を行っていたら、私は仰天してしまうだろう。


Jeremy Clarkson drives the McLaren P1