今回は、米国「Car and Driver」による新型 リンカーン・コンチネンタルの試乗レポートを紹介します。


Continental

リンカーンというブランド名はかつての大統領の名に由来しており、一時は大統領専用車を作っていたこともあったのだが、今では中国市場に救いを求めている。かつてビュイックがそうしたように、中国で増加傾向にある新規富裕層に狙いを定めることで生き残りをかけている。中国においてリンカーンという名前は、今でも憧れのアメリカの象徴であり続けている。リンカーンは近年アメリカで存在感を失いつつあるが、中国ではマイナスイメージがない。コンチネンタルは中国市場での復活に賭けている。

一方で、中国よりは市場の目が肥えている米国市場においては、コンチネンタルは過去のマイナスイメージに苛まれながら、並み居る脅威に立ち向かっていかなければならない。要するに、コンチネンタルには進化が求められている。鋭角的で大胆なデザインやリアの横長LEDのおかげで、どの角度から見ても存在感がある。それに、インテリアは着飾っただけのフォードだった時代から格段に進歩している。しかしながら、まだ足りないところもある。いまだ荒削りな部分も多く、レクサスやドイツブランド、それどころかヒュンダイの新設高級車ブランドであるジェネシスを相手にしても苦戦するだろう。

45,485ドルのベースグレード「Premier」 (FF) だろうと、65,840ドルの最上級グレード「Black Label」 (4WD) だろうと、ボディサイズはかなり大きく、全長 (5,116mm)、ホイールベース (2,995mm) ともに標準ホイールベースのレクサス・LSより長い。レクサスやアウディ、メルセデスのフラッグシップセダンとは違い、コンチネンタルにはロングホイールベースモデルが設定されない。エンジンは3種類が設定される(中国仕様には2Lターボエンジンを加えた4種類が設定される)。搭載されるのはいずれも横置きV6エンジンで、2.7Lツインターボ、3.7L自然吸気、3.0Lツインターボの3種だ。駆動方式は基本的にFFと4WDを選択できるが、最上級エンジンである3.0Lモデルは4WDのみの設定となる。

今回は最高出力406PS、最大トルク55.3kgf·mの3.0Lモデルにしか試乗できなかった。グレードは最上級グレードの「Black Label」(80,260ドル)とその一つ下の「Reserve」(74,705ドル)が用意されており、いずれもオプション満載だった。特に前者には点検時に車を取りに来てくれるコンシェルジュサービスも付いていた。いずれもありとあらゆる贅沢装備、安全装備が付いていた。一例を挙げると、30ウェイパワーシートや後席用エアコン、オートドアクローザー、ツインサンルーフ、それにブラインドスポット警報や車線逸脱警報をはじめとした各種安全装備が付いていた。

rear

フロント、リアともにドアの開口部は広く、乗り降りもしやすい。フロントシートはソフトで座り心地が良く、定評のあるボルボのシートを彷彿とさせる。シートの調節幅は非常に広く、シートバックの上半分を独立して調節することもできるし、ヘッドレストの位置決めも自由自在だ。首まで支えてくれるシートは少ないのだが、コンチネンタルはそこまでしっかりカバーしている。一方でリアシートには改善の余地もある。レッグルームはかなりあるのだが、サポート性は前席ほど良くないし、身長180cmの人が乗ると頭が天井に付きそうになった。

試乗した上級グレードのインテリアには木目がふんだんに使われており、非の打ち所はほとんどない。フォードとの差別化もしっかりとされており、操作系にもフォードとの共通部品はほとんどなかった。ただ、今回は下のほうのグレードには乗っていないし、「Reserve」のシートバックやダッシュボードに使われていた一部素材は少し安っぽくも感じられた。メーターは液晶でデジタル表示にもアナログ表示にもできるのだが、両方を同時に表示させることはできないし、大したカスタマイズもできない。せっかく液晶化しているのにそのアドバンテージを活かしきれていない。

静粛性は高く、エンジン音も静かだ。それでいてパフォーマンスも高く、少しアクセルを踏んだだけでとてつもない加速感を味わえる。スロットルレスポンスはかなりアグレッシヴなので、アクセルペダルを3分の1踏んだだけでも急加速する。しかもこれはスタンダードモードの話だ。スポーツモードにするとスロットルレスポンスは苛立たしいほど敏感になる。穏やかなセッティングにすることはできない。ゆっくり走っている車を抜かそうとするだけでもかなりのスピードが出てしまう。もちろん、このようなセッティングを好む人もいるだろうが、今時の車なのだから細かい設定を変えられるようにするべきだ。

6速ATにも欠点がある。変速タイミングがおかしいこともあるし、中程度の加速をするとしばしばギクシャクする。突然2速に変速したこともあった。その時は0.5秒ほどエンジンとの接続が切れ、追突されたかのような衝撃があって変速が行われた。パワートレインには改善の余地がある。

4WDシステムにはトルクベクタリング機能も付いており、コーナー外側の後輪のトルク配分を増やすことでコーナリング性能を向上する。2人乗りのカヌーをイメージすると分かりやすい。後ろに乗る人が片側だけ強く漕げばカヌーはそれと反対側に旋回する。それと同じだ。そのため、コンチネンタルの操作性はリンカーンとは思えないほどに優れており、ステアリングフィールも自然だ。ボディサイズは大きいのだが、コーナーや狭い場所を走らせるのも苦ではない。特にステアリングはコンチネンタルの強みの一つと言えるだろう。

interior

今回は19インチのミシュラン Primacy MXM4を履くモデルと、20インチのグッドイヤー EAGLE F1 asymmetricを履くモデルの両方に試乗した。いずれも乗り味は非常に硬く、ロールやピッチは抑えられていたのだが、特に20インチモデルではサスペンションのストローク不足を実感した。快適性はこのクラスの高級車に求められるレベルを満たしておらず、舗装の悪い道だとサスペンションから騒音が聞こえた。リンカーンはコストのかかるエアサスペンションやマグネティックダンパーの採用を避けているのだが、それが裏目に出てしまっている。コンチネンタルの安さを考慮してもなお、乗り心地の悪さは許容しがたい。おそらくは18インチホイールを選ぶのが最善だろう。

プラットフォームはフォード・フュージョンと共有しており、基本構造にはスチールが多用されてアルミはあまり使われていない。剛性感は高いのだが、重さは問題となる。最も軽い2WDモデルでも1,905kgとなる。3.0LモデルのEPA燃費も8.1km/Lと微妙な数字だ。

それに、乗り心地の悪さも関係しているのかもしれないが、センターコンソールからは持続的に異音が聞こえた。この点について開発陣にも話したのだが、開発の際には異音の排除に力を入れたそうだ。にもかかわらず、初期モデルでもその問題が残ってしまったようだ。

上述したように、コンチネンタルにはまだ足りない部分も多い。しかし、デザインは優秀だし、最新型のSync 3 インフォテインメントシステムをはじめとして先進的な装備も数多く付いているし、エンジンや駆動方式の選択肢も豊富だ。足りない部分をこれから磨き上げていけば、最近勢いを増しているキャデラックやアウディのようになれるかもしれない。いずれにしても、リンカーンは一歩を踏み出した。


2017 Lincoln Continental - First Drive Review