イギリスの大人気自動車番組「Top Gear」でおなじみのジェレミー・クラークソンが英「The Sunday Times」に寄稿した試乗レポートを日本語で紹介します。

今回紹介するのは、2008年に書かれたシボレー・コルベット ZR1 のレビューです。


ZR1

今年の自動車業界は非常に穏やかだった。誰も破滅することなく一年が過ぎた。絶望的なことは何も起こらなかった。しかし、そんな平常運行の裏側には、いくつかの宝石が隠れていた。

今年を振り返るにあたって、まずは個人的に「一体何を考えているんだ賞」を与えたいBMW X6の話から始めることにしよう。この車を目撃したことはあるだろうか。おそらくないだろうし、これから目撃することもないだろう。不況にあえぎ、地球温暖化が叫ばれているこの世界において、X6のような車はまったくもって不適当だ。

それでも、BMW X6は今年最悪の車とは言えない。まだ試乗していないので判断できないというのもあるのだが、なにより、クライスラー・セブリング カブリオレより酷い車とは考えにくいからだ。もっとも、X6から泥の臭いがして、ラップFMしか聴けないのであれば話は別だが。

セブリングはとんでもない車だ。見た目は醜いし、走りは不愉快だし、値段が安いわけでも、上品なわけでも、快適なわけでも、実用的なわけでも、ブランド力があるわけでも、先進的なわけでも、経済的なわけでも、上質なわけでも、扱いやすいわけでもない。

クライスラーの役員がワシントンに行くためにプライベートジェットを使うのも頷ける。セブリングで行けば途中で壊れるだろうことをちゃんと理解しているのだろう。仮に目的地に無事に到着したとしても、フォードやGMの社員から嘲笑されるだけだ。

しかし、意外かもしれないが、クライスラーも今年最悪の車ではない。その称号はミニバンのキア・セドナ ディーゼルに与えられる。

セブリングに乗っていると、デザイナーも技術者も良い車を作ろうとなどしていなかったことが想像できる。しかし、セドナに乗っていると、そもそも開発陣は何をするべきかさえ分かっていなかったのではないかという印象を受ける。

セドナを選ぶ人生など、あまりに空虚で、無意味で、情熱もセンスも存在しない。ノンアルコールビールのごとく無意味であり、自動車の本質を失っている。感情を持つ生命体には不必要な存在だ。

今年の「がっかり賞」の候補はたくさんいるのだが、その称号を勝ち取ったのはアウディ・RS6だ。RS6はそれなりに優秀な車だし、サーキットではかなりの実力を発揮する。しかし、サーキットでの性能を理由にステーションワゴンを買うのはおかしな話だ。ペットの金魚を買いに行ったはずが、椅子にも使えるからと馬を買って帰ってくるような話だ。

現実世界においてはたくさんの欠点が見えてくる。シートは座り心地が悪いし、ステアリングの感覚には違和感があるし、580PSという数字は明らかに過剰だ。過剰な美しさとか過剰なお金なんて表現はできないだろうが、過剰な力という表現はできる。大型トラックを追い越そうとしたその次の瞬間、頭がおかしくなってポーランドを侵略したくなってしまう。

他にもがっかりした車は多いのだが、その大半はライバルに比して明らかに劣っている車たちだ。例えば、フォード・クーガはボルボ・XC60には劣るし、ルノー・トゥインゴ ルノースポールはフィアット・500 アバルトほどに優秀ではない。それに、ヴォクスホール・インシグニアは先代のベクトラよりはよっぽどましになっているのだが、フォード・モンデオには負ける。

2番目に優秀な、ブランド力のない4ドアセダンを買おう
なんてことを言う人間がどこに存在するのだろうか。冷静に考えてみてほしい。一番買いたい車とはどんな車だろうか。

しかし、今年最も不満だったのは、シートデザイナーが、顧客が求めているのはレザーシートだけであると勘違いしていた点だ。暑い日も寒い日もファブリックこそが適しているし、自宅と目的地の間にコーナーが一つでもあるなら、やはりファブリックこそが最適だ。

しかも、デザイナーは顧客が求めているのは台所用の椅子よりも快適性の低いシートだと勘違いしている。確かに肝油は体に良いし、雑草だけ食べ、毎日地元の教会で祈りを捧げていれば天国に行けるだろう。しかし、我々は全員が全員ベジタリアンというわけではない。だからこそ、我々は車のシートに安らぎを求めている。

ヴォクスホールよ、これを読んでいるか。フォードよ、これを読んでいるか。昔のルノー・フエゴ ターボに学んでほしい。フエゴのクッションを試してみれば、我々が何を言いたいのか理解できるはずだ。

では、逆にここ12ヶ月間のうちで良かった車の話に移ろう。先日、私はテレビで今年最高の車はケータハム・R500だと宣言したのだが、この際の選定基準ははっきりとしていた。この時は価格以上の価値がどれだけあるかを基準としていた。

interior

R500の対抗となったのは日産・GT-Rだ。この車はポルシェ・911ターボのほぼ半額でありながら、ニュルブルクリンクを911ターボよりも速く走る。GT-Rや911ターボのような車にとっては、ニュルブルクリンクのラップタイムこそがすべてだ。

また、フォルクスワーゲン・シロッコはベース車であるゴルフGTIとほとんど同じ値段だ。にもかかわらず、ゴルフGTIよりもずっと魅力的だ。

しかし、勝者はケータハムだ。この車は、ブガッティ・ヴェイロンの30分の1の値段でありながら、Top Gear テストトラックをヴェイロンよりも速く走る。

ただ、検索エンジンの条件を広めて、値段に関係なく今年最高の車を選ぶのであれば、ケータハムが選ばれることはない。なぜなら、見た目が悪いし、オタクっぽいからだ。もし、右の睾丸を奪うぞと脅されようとも、私はこの車を購入しようとは思わない。

では、最高の車とはなんだろうか。あらゆる点で優れているロールス・ロイス ファントム ドロップヘッドは無視できない存在だ。

それに、やんちゃで情熱に満ちた魅力的な車、アバルト・500も無視できない。この車を運転していると、不機嫌になりようがない。しかも、近いうちにミドルセックスくらいの大きさのルーフスポイラーの付いた200馬力モデルも登場するそうだ。これに比べればミニクーパーがしょぼく思えてしまう。

しかし、私が今年最高の車に選んだのは、もっと別の、かなり意外なモデルだ。

これまでにさまざまなコルベットが登場してきたが、正直なことを言ってしまえば、いずれも大した車ではなかった。確かに、中には非常に速いモデルもあったし、特別な魅力を有したモデルもあった。それに、美しいモデルもたくさんあった。けれど、走行性能に目を向けた場合はどうだろうか。

残念ながら、コルベットは自動車版のビッグマックに過ぎない。チープで、プラスチッキーで、時と場合によっては必要十分な車だ。けれど、上述の通り、総合的に見れば大した車ではなかった。

そんな状況で登場したのがZR1というモデルだ。このモデルにはスーパーチャージャー付きのV8エンジンが搭載されており、穏やかさと凶暴さが同居している。この車の声質を犬で例えてみようとしたのだが、できなかった。どちらにしても、車は犬とは違う。

作りはあまり良くない。3日間共にしただけなのだが、トランクの鍵は壊れてしまったし、キーレスエントリーシステムは鍵が室内にあるかどうかの判別すらまともにできなかった。

しかし、そんなことは気にもならなかった。なぜなら、これほどまでに美しく、これほどまでに速い車はほかに存在しないからだ。しかも驚くべきことに、速いのは直線だけでなく、コーナーでも速い。

しかも、価格は106,690ポンドだ。コルベットとしては高いのだが、同等のスペックのフェラーリと比べればかなり安い。誰にも文句のつけようがない車だ。

これは実に優秀な車だ。なので、これを製造した企業が不調から脱せない限り、次世代モデルが開発される見込みがないというのは残念でならない。

真面目な話、これから12ヶ月間で多くの企業が破滅し、多くの人が絶望の淵に立たされるのではないかと心配している。来年は世界がもっと繁栄しますように、なんて高望みはしない。せめて、この不況の中でも、皆が幸せでありますように。


Chevrolet Corvette ZR1