今回は、ジェレミー・クラークソンが著書『Born to be Riled』に著した初代 ホンダ・NSXのレビューを日本語で紹介します。


NSX

ある車が売れるかどうか知りたいなら、カイリー・ミノーグに尋ねるといいだろう。彼女は私よりもあてになるはずだ。

1992年、私はフォード・エスコートを酷評したのだが、結局そのモデルはイギリスのベストセラー車となった。その1年後、私はトヨタ・カローラのつまらなさについて語ったのだが、それ以来カローラは世界のベストセラー車であり続けている。

かつて私は、アルピーヌ・A610を傑作だと絶賛し、コストパフォーマンスという言葉を体現するモデルであると主張した。結局、A610は発売後1年間のイギリスでの販売台数がわずか6台だった。

これまでで最大の難問はホンダ・NSXだった。1994年、私はこの車をキリストの再来だと言って絶賛した。ところが、NSXはその年にイギリスで19台しか売れなかった。

1995年になると状況は改善してイギリス国内で55台が販売された。翌1996年にはタルガトップモデルやステアリングコラム上のスイッチで変速できるモデルが追加された。私はこの機能が日本的だと絶賛した。ところが、販売台数は38台まで落ち込んだ。それ以降、販売台数は落ち込み続けている。

販売台数はかなり少ないのだが、その中にはホンダ自身が試乗車や展示車として登録した分も含まれているので、実際の販売台数はさらに少ないことになる。そう考えると、1996年にはホンダ・NSXを購入したイギリス人は一人として存在しなかったと推察される。

ホンダ自身、なにが間違っていたのか理解できていないだろう。ホンダは、SF映画から飛び出してきた最先端技術をふんだんに使ったエンジンを搭載したオールアルミのスーパーカーを生み出した。信頼性も高いし、運転もしやすい。しかも、価格設定はBMWの領域に抑えられている。にもかかわらず誰も寄りつかなかった。

その後、さらなる改良が施され、電動パワーステアリングや6速MTが備わった。このNSXは真に優秀な車だ。しかし、私がどれほど絶賛しようと、NSXが世間に受け入れられることはないのだろう。

私はレスターシャーにあるマロリーパーク・サーキットで一日NSXに試乗したのだが、難所であるジェラルドコーナーではフェラーリ・550にも負けない走りを見せてくれた。

このコーナーは本当に厄介だ。長い長いストレートがずっと続いたかと思えば、突然右コーナーが現れる。本来であればコーナーに進入する前に減速する必要があるのだが、それは不可能だ。コーナー前にちょっとしたアップダウンがあるため、車が浮き上がって重さが路面に伝わらなくなってしまう。

尻込みをしてしまうとガードレールに激突してしまう。逆に、勇み足をしてもやはりガードレールに激突してしまう。NSXに乗っていても怖さは感じるのだが、それでもしっかりこのコーナーを抜けることができる。

電動パワーステアリングというギミックはあるものの、グリップやフィールは見事としか言いようがない。そして、エンジンが奏でる音も魅力の一つだ。

搭載されるエンジンは従来と同様、可変バルブ機構(これがどういう意味かなどどうでもいい)付きのV6エンジンなのだが、排気量が3.2Lまで増加している。このため、0-100km/h加速は5秒をわずかに超える程度となり、最高速度は274km/hを記録する。

ただし、それだけ速く走ろうとは思えない。延々とシフトチェンジしていたい。魂を掻き立てるエンジン音が車内まで聞こえてくる。5ラップもすると、私の魂は原型を留めぬ姿に変わってしまった。音に恋をするなんてありえないと思っていたのだが、NSXで8,000rpmまで回すと、そのまま婚姻届を貰うために役所まで行こうとしてしまった。

唯一の不満はデザインだ。ホンダはフェラーリを模倣しようとしたのだろうが、結局出来上がったのは、9歳の少年が名画を模倣して描いた絵とさして変わらないものだった。さらに困ったことに、その少年は自分流のアレンジを加えようとしてしまった。

ホンダはトランクのあるスーパーカーというアイディアを思いついてしまったため、リアオーバーハングがやたらと長くなってしまった。また、ヘッドランプウォッシャーも付けようとしてしまったため、滑らかなフロントエンドにプラスチックの突起が追加されてしまった。クラウディア・シファーにニキビができてしまったような話だ。

私はずっと、買う本は表紙を見て選ぶべきだと考えてきた。戦闘機や潜水艦が表紙に描かれていない限り、私が小説を買うことはない。しかし、ことホンダに限っては、外見を無視して中身を見てほしい。

フェラーリ・355には劣るかもしれないが、価格は355よりも2万ポンドも安い。これは破格と言うほかない。絶対に検討すべきだ。しかし、ポルシェを買おうとしている人がNSXを検討することは決してないのだろう。