今回は、米国「AUTOWEEK」によるアキュラ・NSX(1991年モデル)の試乗レポートを日本語で紹介します。

最初に何を書くべきだろうか。こんな文章からはじめてみようと思う。NSXを運転すると、手放したくなくなってしまう。
1991年当時、スーパーカーは走りよりも見た目を重視しており、スーパーカーを運転しても、その走りに引き込まれることは滅多に無かった。1989年のシカゴオートショーでNSXが発表されてから、スーパーカーという概念に変化が見られるようになった。ホンダはフェラーリにすら影響を与えた。
アイルトン・セナもNSXの開発に参加している。NSXの核となるのは、オールアルミ構造と274PSの3.0L V6エンジンだ。説明はこれくらいにして、NSXに乗り込むことにしよう。
ドアを開けると、ダッシュボードの端から端まで続く黒いレザーが目に飛び込んでくる。初めての人には乗り込むことすら難しい。姿勢を低くして乗り込む必要がある。ほとんど地面に直に座るようなものだ。グリップの細い本革ステアリングは膝の上のあたりに位置し、計器類はしっかり視認することができる。
適度な重さのクラッチペダルを踏んでNSXのロゴが入ったキーを捻れば、C30A型エンジンに命が吹き込まれる。そこにドラマは存在しない。スーパーカーの基準で考えれば排気音はあまりにも静かだ。タコメーターは8,000rpmでレッドゾーンに入る。
車外の見通しも良好だ。今やバックカメラが当たり前の時代になってしまったが、NSXは360度どの方向もはっきり見ることができる。特に前方視界は良好で、車の先端すぐ前の地面すら視認できてしまう。ただ、見晴らしが良いのは嬉しいのだが、もう数cm着座位置を低くすれば、ただでさえ低い重心をさらに低くすることができたのではないだろうか。
駐車場に停めるのは一苦労だ。この車にはパワーステアリングが付いていない。しかし、悲観することはない。一旦道路に出てしまえば、駐車場での苦労など忘れてしまうほどの楽しさがある。
NSXの誕生から25年以上が経った今ですら、NSXの楽しさに敵う車はほとんど出てきていない。わずか40km/hで走っただけでも、この車には特別感がある。この車は今の車とは違った方法でドライバーに語りかけてくる。
最大トルクは29.0kgf·mと大した数字ではないのだが、どこからでもトルクが湧き上がってくる。このVTECエンジンはおよそ5,800rpmで本領を発揮するのだが、ほかのVTECエンジンとは違って、突然力が発揮されるようなことはない。そうではなく、回転数が上がるにつれて、次第に、次第に、力強さを増していく。やろうと思えば、2速で130km/hを出すことすらできる。日本仕様はこれよりもギアがショートで、0-100km/h加速は5秒を切るのだが、北米仕様はそれよりも少し遅い。
ただし、問題もある。8,000rpmでシフトアップすると少しの間VTECが作動しなくなり、パワー不足を感じることになる。とはいえ、NSXはどんな道を走ろうとも速く、サーキットにもぴったりなセッティングだ。

この車のサスペンションを知ってしまうと、他の車では満足できなくなってしまう。実際に経験してもらえば一番いいし、文章で説明するのは非常に難しい。NSXを過小評価している人達はきっと、NSXに実際に乗ったことがないだろう。
ゴードン・マレーはかつて、マクラーレン・F1の開発をする際にベンチマークとする車を探してありとあらゆるスーパーカーに乗った。彼の心を動かすようなスーパーカーはなかなか見つからなかったのだが、NSXは彼の心を動かした。
ゴードン・マレーは以下のように語っている。
「これまで、私が車を開発するときにはフェラーリやポルシェ、ランボルギーニなどをベンチマークとしてきたのですが、NSXに乗ったらそんな車のことなどすっかり忘れてしまいました。」
彼は、NSXと同じハンドリング、同じフィールを備えた、より高出力なモデルを生み出そうとしてマクラーレン・F1の開発に取り組んだ。
この車で一度でもコーナーを走ると、粗を探すことなどできなくなってしまう。確かに、現代の基準で考えればそれほど速いわけではないのだが、1991年当時は世界最速レベルの車だった。8,000rpmまで回す感覚は今でも決して色褪せない。6,000rpmで息切れしてしまうようなターボ車が溢れている今の時代ならばなおさらだ。
インテリアのエルゴノミクスにも驚かされる。この車は、スーパーカーでありながらも、アコードと同じくらいに使いやすい。運転しやすいので長距離を運転したくなる。何十万kmも走ったオーナーも存在するくらいだ。それほどまでに居心地が良い。
シフトレバーは手に馴染む。一番自然な位置に配置されている。メーターは読みやすいし、見やすい位置に配置されている。ジェット戦闘機にインスパイアされたダッシュボードは全体的に低く、Aピラーも細いので、視界はかなり良好だ。シートはホールド性に優れているだけでなく、長距離を走っても疲れないほど快適だ。他のスーパーカーのシートとは一線を画している。実際、6時間運転しても不満は一切感じなかった。
実際にNSXを購入するとタイヤにお金がかかる。特に、リアタイヤはフロントタイヤの2倍消耗が早い。22,000km走ってリアタイヤを3セット使いきってしまった例もある。NSXの登場当時、ホンダはタイヤの消耗の激しさについてかなり批判された。しかし、ホンダはそれに反論した。最高のハンドリングのためにサスペンションのセッティングやジオメトリーを調整しており、その結果としてタイヤの消耗が激しくなっているそうだ。
ほかにも、クラッチは6万kmごとに交換が必要になるし、パワーウインドウにも問題があるし、初期モデルには3速に欠陥があった。とはいえ、これらはスーパーカーとしては些細な問題なのかもしれない。なにより、この車はフェラーリすらも脅かした存在だ。NSXは当時のスーパーカー業界を震撼させた。エアコンは壊れなかったし、エンジンはどんな天気だろうとちゃんとかかったし、非常に扱いやすく、毎日乗れるスーパーカーという能書きは正しかった。
願わくは、今のホンダにもこのような車が作れたらと思う。しかし、今のホンダにそれを望むことはできない。歩行者保護のため、新型NSXのノーズはかなり高くなっている。排出ガス規制のせいで、かつてのような自然吸気エンジンは使えなくなっている。
それに、最近のスーパーカーは0-100km/h加速で3秒を切らなければ認めてさえもらえない。
しかし、果たしてスピードこそがすべてなのだろうか。私はそうは思わない。スーパーカーとは、人の感情を湧き上がらせ、人を誘惑する獣だ。NSXはまさしくそれだ。一度NSXの魅力を知ってしまえば、決して戻ってくることはできないだろう。
1991 Acura NSX drive review: Japanese legend defies time

最初に何を書くべきだろうか。こんな文章からはじめてみようと思う。NSXを運転すると、手放したくなくなってしまう。
1991年当時、スーパーカーは走りよりも見た目を重視しており、スーパーカーを運転しても、その走りに引き込まれることは滅多に無かった。1989年のシカゴオートショーでNSXが発表されてから、スーパーカーという概念に変化が見られるようになった。ホンダはフェラーリにすら影響を与えた。
アイルトン・セナもNSXの開発に参加している。NSXの核となるのは、オールアルミ構造と274PSの3.0L V6エンジンだ。説明はこれくらいにして、NSXに乗り込むことにしよう。
ドアを開けると、ダッシュボードの端から端まで続く黒いレザーが目に飛び込んでくる。初めての人には乗り込むことすら難しい。姿勢を低くして乗り込む必要がある。ほとんど地面に直に座るようなものだ。グリップの細い本革ステアリングは膝の上のあたりに位置し、計器類はしっかり視認することができる。
適度な重さのクラッチペダルを踏んでNSXのロゴが入ったキーを捻れば、C30A型エンジンに命が吹き込まれる。そこにドラマは存在しない。スーパーカーの基準で考えれば排気音はあまりにも静かだ。タコメーターは8,000rpmでレッドゾーンに入る。
車外の見通しも良好だ。今やバックカメラが当たり前の時代になってしまったが、NSXは360度どの方向もはっきり見ることができる。特に前方視界は良好で、車の先端すぐ前の地面すら視認できてしまう。ただ、見晴らしが良いのは嬉しいのだが、もう数cm着座位置を低くすれば、ただでさえ低い重心をさらに低くすることができたのではないだろうか。
駐車場に停めるのは一苦労だ。この車にはパワーステアリングが付いていない。しかし、悲観することはない。一旦道路に出てしまえば、駐車場での苦労など忘れてしまうほどの楽しさがある。
NSXの誕生から25年以上が経った今ですら、NSXの楽しさに敵う車はほとんど出てきていない。わずか40km/hで走っただけでも、この車には特別感がある。この車は今の車とは違った方法でドライバーに語りかけてくる。
最大トルクは29.0kgf·mと大した数字ではないのだが、どこからでもトルクが湧き上がってくる。このVTECエンジンはおよそ5,800rpmで本領を発揮するのだが、ほかのVTECエンジンとは違って、突然力が発揮されるようなことはない。そうではなく、回転数が上がるにつれて、次第に、次第に、力強さを増していく。やろうと思えば、2速で130km/hを出すことすらできる。日本仕様はこれよりもギアがショートで、0-100km/h加速は5秒を切るのだが、北米仕様はそれよりも少し遅い。
ただし、問題もある。8,000rpmでシフトアップすると少しの間VTECが作動しなくなり、パワー不足を感じることになる。とはいえ、NSXはどんな道を走ろうとも速く、サーキットにもぴったりなセッティングだ。

この車のサスペンションを知ってしまうと、他の車では満足できなくなってしまう。実際に経験してもらえば一番いいし、文章で説明するのは非常に難しい。NSXを過小評価している人達はきっと、NSXに実際に乗ったことがないだろう。
ゴードン・マレーはかつて、マクラーレン・F1の開発をする際にベンチマークとする車を探してありとあらゆるスーパーカーに乗った。彼の心を動かすようなスーパーカーはなかなか見つからなかったのだが、NSXは彼の心を動かした。
ゴードン・マレーは以下のように語っている。
「これまで、私が車を開発するときにはフェラーリやポルシェ、ランボルギーニなどをベンチマークとしてきたのですが、NSXに乗ったらそんな車のことなどすっかり忘れてしまいました。」
彼は、NSXと同じハンドリング、同じフィールを備えた、より高出力なモデルを生み出そうとしてマクラーレン・F1の開発に取り組んだ。
この車で一度でもコーナーを走ると、粗を探すことなどできなくなってしまう。確かに、現代の基準で考えればそれほど速いわけではないのだが、1991年当時は世界最速レベルの車だった。8,000rpmまで回す感覚は今でも決して色褪せない。6,000rpmで息切れしてしまうようなターボ車が溢れている今の時代ならばなおさらだ。
インテリアのエルゴノミクスにも驚かされる。この車は、スーパーカーでありながらも、アコードと同じくらいに使いやすい。運転しやすいので長距離を運転したくなる。何十万kmも走ったオーナーも存在するくらいだ。それほどまでに居心地が良い。
シフトレバーは手に馴染む。一番自然な位置に配置されている。メーターは読みやすいし、見やすい位置に配置されている。ジェット戦闘機にインスパイアされたダッシュボードは全体的に低く、Aピラーも細いので、視界はかなり良好だ。シートはホールド性に優れているだけでなく、長距離を走っても疲れないほど快適だ。他のスーパーカーのシートとは一線を画している。実際、6時間運転しても不満は一切感じなかった。
実際にNSXを購入するとタイヤにお金がかかる。特に、リアタイヤはフロントタイヤの2倍消耗が早い。22,000km走ってリアタイヤを3セット使いきってしまった例もある。NSXの登場当時、ホンダはタイヤの消耗の激しさについてかなり批判された。しかし、ホンダはそれに反論した。最高のハンドリングのためにサスペンションのセッティングやジオメトリーを調整しており、その結果としてタイヤの消耗が激しくなっているそうだ。
ほかにも、クラッチは6万kmごとに交換が必要になるし、パワーウインドウにも問題があるし、初期モデルには3速に欠陥があった。とはいえ、これらはスーパーカーとしては些細な問題なのかもしれない。なにより、この車はフェラーリすらも脅かした存在だ。NSXは当時のスーパーカー業界を震撼させた。エアコンは壊れなかったし、エンジンはどんな天気だろうとちゃんとかかったし、非常に扱いやすく、毎日乗れるスーパーカーという能書きは正しかった。
願わくは、今のホンダにもこのような車が作れたらと思う。しかし、今のホンダにそれを望むことはできない。歩行者保護のため、新型NSXのノーズはかなり高くなっている。排出ガス規制のせいで、かつてのような自然吸気エンジンは使えなくなっている。
それに、最近のスーパーカーは0-100km/h加速で3秒を切らなければ認めてさえもらえない。
しかし、果たしてスピードこそがすべてなのだろうか。私はそうは思わない。スーパーカーとは、人の感情を湧き上がらせ、人を誘惑する獣だ。NSXはまさしくそれだ。一度NSXの魅力を知ってしまえば、決して戻ってくることはできないだろう。
1991 Acura NSX drive review: Japanese legend defies time
リクエストがあるのですが、TVR社の車の翻訳記事がありましたら是非読んでみたいです。お手数ですがよろしくお願いします!