イギリスの大人気自動車番組「Top Gear」でおなじみのジェレミー・クラークソンが英「The Sunday Times」に寄稿した試乗レポートを日本語で紹介します。

今回紹介するのは、2005年に書かれたメルセデス・ベンツ SLK55 AMG のレビューです。


SLK55

フォード・GTを所有しはじめた最初の3週間は幸せではなかった。盗難防止警報は5分おきに鳴り響き、他の警報も鳴り止まず、エンジンの警告灯は誤作動を繰り返してしばしばエンジンが動かなくなった。なので、私はフォード・GTを返品して払った金を返してもらおうとした。

しかし、私の行動はサンデー・タイムズ紙の読者には不評だった。毎日のように家の郵便受けいっぱいに手紙が届いた。そこには、40年も待ち望んでいた車なのに、たかがちょっとした電装系の不具合で所有を諦めるのはおかしい、などといったことが書かれていた。

当然ながら、その意見はもっともだ。なので読者の皆さんに嬉しい報告をしよう。私はもう一度、フォード・GTを保有する決心をした。

センサーの感度を弱めることで警報装置の誤作動はなくなった。車内で馬術競技会を開催しようとも警報は作動しなくなった。盗難防止警報装置はオフになり、直ったということになった。警告灯の不具合もどうやったか知らないが直ったらしい。しかし、修理が終わって800mほど走った場所で再び警告灯が点灯した。

だからどうした。こういった不具合はきっと、技術を限界まで極めた車にはしばしば起こりうるのだろう。私の間違いは、この巨大なフォードを日常の足としても使おうとしてしまったという点だ。この車は、天気が良く、道が空いている日に使うための車だ。特別な日のための車だ。なんでもない火曜日や、雨の降る11月、それに混雑するラウンドアバウトを走るためには、もう一台別の車を用意する必要がある。要するにセカンドカーが必要だ。

もし読者が私の立場になったとしたら、きっと簡単に決断を下してしまうだろう。しかし、その決断はおそらく間違っている。情報が足りない中で車を買おうとすると、必然的にBMWに辿り着く。しかし、経験だけに基づいて導き出した結論は、果たして正しいのだろうか。例えば、グルメ評論家にディナーの店を選ぶように頼んだとしたら、きっと翌日の午前3時まで悩み続けるだろう。

では、自動車評論家である私はどの車を選ぶべきだろうか。レンジローバーだろうか。ホンダ・S2000だろうか。私はS2000の回転特性が大好きなのだが、果たしてパーティーで愛車がホンダだと恥ずかしげもなく言えるだろうか。それに、私はヒッピーに嫌われるレンジローバーが大好きなのだが、BBCの地下駐車場の駐車スペースは極小だ。SUVなど停められない。

他に候補として考えたのは、中古の日産・スカイラインGT-Rやイーグル製のジャガー・Eタイプ、ポルシェ・911、ジャガー・XJR、ゴルフGTI、アルファ・166、そして最後に辿り着いたのがメルセデス・SL55だった。これはフォード・GTを購入する際に手放した車だ。

残念なことに、SL55は来年には新しくなり、エンジンが新設計の6.3Lに変わるらしい。すぐに時代遅れになるモデルを買うなど馬鹿馬鹿しいので、別の考え方をしてみることにした。最近乗った中で一番楽しかったモデルは何だろうか、と考えてみた。そうして導き出されたのが、SLの弟分、SLK55だった。

SLK55にはTop Gearの収録で試乗した。収録はノーフォーク海軍基地で行われ、私はアイルランド近衛連隊に追われながらSLK55を運転した。私はこの車を大いに気に入った。掘削機のような音も、残酷なほどのパフォーマンスも、少し俗っぽいデザインも気に入ったし、なにより、ルーフを下げているときに首に温風が送られる機能が気に入った。殺人鬼にマッサージされているような気分だった。

しかも、SLK55はSL55のほとんど半額という価格でありながら、速さではSL55と同等だ。SL55と違ってエンジンにスーパーチャージャーは付いていないため、最高出力はわずか360PSなのだが、SL55よりも小さくて軽いため、SL55と同じくらいに速い。0-100km/h加速は4.7秒、最高速度は250km/hだ。

私は心を決め、近所にあるメルセデスのディーラーへと向かった。簡単なことだ。店内に入る。SLK55を注文する。小切手を渡す。車を貰って家に帰る。それだけじゃないか。しかし、現実はそう単純ではなかった。

ディーラーに来店するような人は購入する車をほとんど決めているはずだ。街中で見かけるなり、広告を見るなり、自動車雑誌の記事を見るなりして情報は知っているだろう。ディーラーで考えることといえば、値段とオプションのことくらいだ。

ならばどうして、ディーラーに置かれているカタログには戯言ばかりが並んでいるのだろうか。SLKのカタログから文章を引用してみよう。
感情とは、心ではなく頭で生まれる。見て、聴いて、触れて生み出された信号は、中脳を介して脳の他の領域に伝わり、そこで感情が形作られる。

これは大学の講義ではなく、自動車のディーラーに置かれているカタログの中身だ。

それはともかく、私のもとにセールスマンがやってきて、色見本を見せてくれた。ただ、ここで見せてもらった色見本は色見本などではなかった。ディーラーに置かれていた色見本には「実際のボディカラーとはわずかに異なる場合があります」と書かれていた。馬鹿げている。どうして本物の金属製パネルに本物の塗料を塗った見本を用意しないのだろうか。それに、どうしてブルーを選ぼうとすると追加料金がかかるのだろうか。

私はブラックを選び、今度はインテリア選びに移った。私はブライトレッドのシートにしたかったのだが、ブライトレッドはブラックとのツートンしかなかった。しかし、シェービングローションの広告のようなインテリアなど嫌だ。もう一つ別の赤もあったのだが、こちらは胎盤の色だった。それ以外にあった選択肢は、ドイツ人の靴と同じグレーと、補聴器ベージュ、サッチャー夫人ブルー、そしてアルベルト・シュペーアのブラックだけだった。私は仕方なく胎盤色を選択した。

続いてオプション選びに移った。一番高価な一番速いモデルを選べばいいと考えていたので、それほど時間はかからないだろうと思っていた。

SLK55は5万ポンドもするのだが、車体以外のあらゆるすべてがオプションで、ホイールを変えるだけでも4,000ポンドかかる。しかも、4,000ポンド追加で払ったからといって標準のホイールが付いてくるわけでもないので、ネットオークションで売って費用の足しにすることもできない。

頼りにならない同僚のジェームズ・メイは先日、ポルシェ・ボクスターを購入した。私がSL55を選んだ理由の一つはこれだ。彼に嫌がらせをするために、彼の車よりも速くて優秀な車を選んだ。

それはともかく、ジェームズはオプションのブラウンインテリアを選んだのだが、ステアリングは標準の黒にしようとした。ところが、よく分からない理由で、そうするためにはさらに400ポンドが必要になったそうだ。しかし、もともと付いていたステアリングを残すのにどうして追加料金が必要なのだろうか。理解不能だ。どうしてこれほどまでに複雑怪奇なのだろうか。

とはいえ、なんとかオプションの選択も終え、キーを使って遠隔操作でルーフを開けることのできる装備も付け(実に魅力的な装備だ)、ようやく価格の話になった。自動車評論家だとかなりの割引を受けることができる。しかし、まともな自動車評論家ならそんな甘言には乗らない。そして納車日を伝えられた。納車日はイラク戦争が終わる頃だそうだ。

幸い、私にはインターネット接続環境があるので、オンラインでSLK55を探すこともできた。私の求めている仕様に近いSLK55も見つけられたのだが、手に入るのは地獄が凍りつく頃だそうだ。とはいえ、こちらのほうがまだ先に手に入りそうなので、すぐに注文することにした。

私はここ数週間で教訓を得た。車に試乗するのは簡単だ。車の評論を書くのも簡単だ。しかし、車を購入するのは限りなく大変だ。


Mercedes-Benz SLK 55