今回は、米国「Car and Driver」によるフィアット・124スパイダー アバルトとマツダ・MX-5 ミアータ(日本名: ロードスター) クラブエディションの比較試乗レポートを日本語で紹介します。

日本製のイタリア車など夢の存在のように思えるかもしれないが、フィアットのディーラーに行けば本当に買うことができてしまう。フィアット・124スパイダーは広島にあるマツダの工場でMX-5ミアータ(日本名: ロードスター)とともに製造されている。おかしな話に思えるかもしれないが、歴史を紐解けば同じような例がある。パスタの起源はマルコ・ポーロが中国から持ち込んだ麺類だと言われている。
2台のオープンカーは非常に似ている。いずれもホイールベースは2,310mmでモノコック構造だ。ダブルウィッシュボーン式フロントサスペンションもマルチリンク式リアサスペンションも共通だ。ただし、スプリングやダンパー、スタビライザーはそれぞれ独自のものを使っている。
124スパイダーとミアータは共通点が多いため、両者の違いも分かりやすい。ミアータには最高出力157PS、最大トルク20.5kgf·mを発揮する自然吸気の2.0Lエンジンが搭載される。一方、124には最高出力166PS(アバルトの場合、標準モデルは162PS)、最大トルク25.4kgf·mを発揮するイタリア製のSOHC 1.4L 4気筒ターボエンジンが搭載される。これはフィアット・500 アバルトに搭載されるエンジンに近いのだが、124のほうがブースト圧が4psi高められており、後輪駆動車に最適化されたチューニングとなっている。
両者を見分けるのは簡単だ。124にはかなり派手で大きなアバルトのエンブレムが装着されている。全長はアバルトのほうが140mm長く、外装は往年の124スパイダーを彷彿とさせるデザインに変更されている。1966年から1985年まで製造されていた初代124スパイダーは純血のイタリア車だった。新しい124スパイダーはヘッドランプからフロントグリル、エンジンフードに至るまで、かつての124スパイダーをモチーフとしている。
インテリアには大きな違いはない。計器類やドアパネル、そしてバッジなど、細かい部分が差別化されている。また、一見してもわからない部分では、フィアットのフロントウインドウにはアコースティックガラスが使われているほか、リアウインドウが厚くなっており、ほかにもカーペット下やファイアーウォール周辺などに防音材が追加されている。これにより、フィアットのほうが重量が増しており、車重はミアータよりも88kg重くなっている。
この2台に試乗するため、我々はカリフォルニア州オーハイ北部を走る州道33号線へと向かった。州道33号線はロス・パドレス国有林を通過し、切り立った峡谷の狭間も通る。ルーフを開けて走れば、岩に反響する排気音を聴くこともできるし、アスファルトから舞い上がる熱や乾いた空気を肌で感じることもできる。これほどまでに楽しいドライブはない。しかし、そんな状況でも2台に優劣をつけなければいけない。

ミアータのような純粋で優秀なスポーツカーを改良しようとしても、それを実現するのは難しい。フィアットはより良いミアータを作り上げたわけではないのだが、かといってミアータを台無しにしてしまったわけでもない。
フィアットはより強力なエンジンを搭載している。おかげでカタログ栄えはするのだが、実際のところ、フィアットの1.4Lターボエンジンにはかなりのターボラグがある。2,500rpm以下だとまだはっきりと目覚めてくれない。6速で50km/hから80km/hまで加速しようとすると13.6秒かかる。これはミアータよりも3秒近く遅い。3気筒1.0Lエンジンを搭載するフォード・フォーカスのMTモデルと比べても、わずか0.5秒しか速くない。これだけ遅いとシフトダウンしたくなる。
フィアットの6速MTも操作していて楽しいのだが、124はターボエンジンのトルクに対応させるために旧型ミアータ用のトランスミッションを使っている。シフトストロークは短いのだが、シフトチェンジする際にはミアータよりも力がいる。クラッチの繋がりかたもミアータに比べると滑らかではないし、ペダルも重い。
低速ギアでもターボラグはある。1速での走り出しから物足りなさを感じる。124の8-100km/h加速は7.6秒で、ミアータに比べると0.8秒遅い。それに、ターボは突然かかるし、5,500rpmを超えると次第に勢いが衰えてしまう。4,400rpmでシフトアップした場合、124の0-100km/h加速は6.7秒で、ミアータよりも0.5秒遅い。
フィアットのほうが高価だし、ターボラグも存在する。スペックではフィアットに分があるのだが、自然吸気エンジンのミアータのほうが直感的でレスポンスも優れている。
専用の排気系を持つアバルトの場合、標準の124スパイダーよりも最高出力が4PS向上している。四本出しのテールパイプは、まるで小さなダッジ・バイパーのように音を響かせる。運転席からでも排気音はわずかに聞こえるのだが、エンジン音はミアータほどやかましくはない。それに、遮音性が向上しているおかげで、フィアットのほうが高速域での静粛性が高い。騒音は110km/h巡航時には75dBで、フルスロットル時には84dBだった。一般的なセダンと比べればうるさいのだが、高速巡航時に80dBを記録した騒々しいミアータに比べれば随分と静かだ。

フィアットのシャシのほうがロールは抑えてくれるのだが、コーナー入口ではフィアットのほうが動きがぎこちない。124の重さやレスポンスの悪さ、それにボンネットが長いことによる視界の悪さもコーナリングには悪影響だ。スキッドパッドテストでは、124が0.87G、ミアータが0.89Gを記録した。ただし、フィアットはスタビリティコントロールを切ると簡単にドリフトすることができた。これほど簡単にドリフトできる車はなかなかない。
試乗車にはいずれもフロントはオプションのブレンボ製4ピストンキャリパー、リアは標準のシングルピストンキャリパーが装着されていた。ブレーキペダルには剛性感があったし、効きも十分だった。110-0km/h制動距離はフィアットが52m、マツダが53mだった。この差は履いていたタイヤの違いによるものだろう。また、テスト時には路面に砂があったため、制動距離は少し長めになっている。以前のテストでは同タイプのミアータの制動距離は48mだった。
フィアットの試乗時には他の車によく譲ってもらえた。おそらく、試乗車に付いていたオプションのボンネットストライプのおかげで、前の車のバックミラー越しに見るとパトカーのように見えたのだろう。見事に道が開けた。前を走っていたトヨタ・カローラはすぐさま右に避けてくれた。
また、フィアットのほうがリアオーバーハングが長く、トランク容量が11L多いため、小さなバッグを1つ余計に積むことができる。後ろから見るとアバルトのテールは筋肉質に見えるのだが、それに比してタイヤは細く不釣り合いな印象を受ける。
前述の通り、インテリアに関しては2台にあまり違いはない。ただし、フィアットにはRECAROシートが採用されている。このシートはサポート性も高く優秀で、これに比べるとソフトなマツダのシートが安っぽく感じてしまう。この点ではフィアットが優勢だ。
では、124にイタリア車らしさがあるのだろうか。その答えはノーだ。ただし、フロントバンパーの部品が一つ取れてしまった点に関してはイタリア車らしいと言えるかもしれない。124スパイダーはミアータとは別の車というよりも、むしろ大きく手が入ったミアータという印象だった。それなら、純粋なオリジナルを選びたいところだ。

日暮れ時にミアータで33号線を走るのはとても楽しかった。直線道路ではパワー不足が多少気になることもあるのだが、この車に乗っていると思わず笑顔になる。コーナーではステアリングが意のままに操れる。車体は少しロールしてしっかり曲がる。「小さきことは良きこと」という言葉をまさに体現している。
ミアータは現代の車でありながら、まるで昔の車のような楽しさを持っている。マツダは現代の車にある快適性という名の分厚い覆いを取り除いている。それに対して、フィアットはその一部を元に戻しており(かといって完璧に快適な車になっているわけではない)、古き良き時代にさほど思い入れのない顧客にも合うようなセッティングとなっている。
遮音材が少ないため、ミアータは機械との距離が近い。エンジンの吸気音もはっきりと聞こえてくる。ルーフを開けるとかつてのミアータのような排気音(つまり、かつてのMGのような排気音)が聞こえてくる。ギアチェンジはフィアットよりも軽く、そして操作しやすい。クラッチもほぼ完璧な仕上がりだ。
2.0Lエンジンには過給器が付いていないので、フィアットの1.4Lエンジンよりもずっと応答性が高い。馬力やトルクの出方もスムーズでリニアだ。エンジンスペックではフィアットに劣るのだが、実際には、0-100km/h加速だけでなく0-400m加速(ミアータは14.8秒、124スパイダーは15.1秒)でもフィアットに勝っている。
優劣を決めるのに時間はかからなかった。ミアータのほうがやかましく、快適性では124スパイダーに劣るのだが、ミアータのほうが正直で魅力的だ。それこそがスポーツカーに必要な条件だろう。
2017 Fiat 124 Spider Abarth vs. 2016 Mazda MX-5 Miata Club

日本製のイタリア車など夢の存在のように思えるかもしれないが、フィアットのディーラーに行けば本当に買うことができてしまう。フィアット・124スパイダーは広島にあるマツダの工場でMX-5ミアータ(日本名: ロードスター)とともに製造されている。おかしな話に思えるかもしれないが、歴史を紐解けば同じような例がある。パスタの起源はマルコ・ポーロが中国から持ち込んだ麺類だと言われている。
2台のオープンカーは非常に似ている。いずれもホイールベースは2,310mmでモノコック構造だ。ダブルウィッシュボーン式フロントサスペンションもマルチリンク式リアサスペンションも共通だ。ただし、スプリングやダンパー、スタビライザーはそれぞれ独自のものを使っている。
124スパイダーとミアータは共通点が多いため、両者の違いも分かりやすい。ミアータには最高出力157PS、最大トルク20.5kgf·mを発揮する自然吸気の2.0Lエンジンが搭載される。一方、124には最高出力166PS(アバルトの場合、標準モデルは162PS)、最大トルク25.4kgf·mを発揮するイタリア製のSOHC 1.4L 4気筒ターボエンジンが搭載される。これはフィアット・500 アバルトに搭載されるエンジンに近いのだが、124のほうがブースト圧が4psi高められており、後輪駆動車に最適化されたチューニングとなっている。
両者を見分けるのは簡単だ。124にはかなり派手で大きなアバルトのエンブレムが装着されている。全長はアバルトのほうが140mm長く、外装は往年の124スパイダーを彷彿とさせるデザインに変更されている。1966年から1985年まで製造されていた初代124スパイダーは純血のイタリア車だった。新しい124スパイダーはヘッドランプからフロントグリル、エンジンフードに至るまで、かつての124スパイダーをモチーフとしている。
インテリアには大きな違いはない。計器類やドアパネル、そしてバッジなど、細かい部分が差別化されている。また、一見してもわからない部分では、フィアットのフロントウインドウにはアコースティックガラスが使われているほか、リアウインドウが厚くなっており、ほかにもカーペット下やファイアーウォール周辺などに防音材が追加されている。これにより、フィアットのほうが重量が増しており、車重はミアータよりも88kg重くなっている。
この2台に試乗するため、我々はカリフォルニア州オーハイ北部を走る州道33号線へと向かった。州道33号線はロス・パドレス国有林を通過し、切り立った峡谷の狭間も通る。ルーフを開けて走れば、岩に反響する排気音を聴くこともできるし、アスファルトから舞い上がる熱や乾いた空気を肌で感じることもできる。これほどまでに楽しいドライブはない。しかし、そんな状況でも2台に優劣をつけなければいけない。

ミアータのような純粋で優秀なスポーツカーを改良しようとしても、それを実現するのは難しい。フィアットはより良いミアータを作り上げたわけではないのだが、かといってミアータを台無しにしてしまったわけでもない。
フィアットはより強力なエンジンを搭載している。おかげでカタログ栄えはするのだが、実際のところ、フィアットの1.4Lターボエンジンにはかなりのターボラグがある。2,500rpm以下だとまだはっきりと目覚めてくれない。6速で50km/hから80km/hまで加速しようとすると13.6秒かかる。これはミアータよりも3秒近く遅い。3気筒1.0Lエンジンを搭載するフォード・フォーカスのMTモデルと比べても、わずか0.5秒しか速くない。これだけ遅いとシフトダウンしたくなる。
フィアットの6速MTも操作していて楽しいのだが、124はターボエンジンのトルクに対応させるために旧型ミアータ用のトランスミッションを使っている。シフトストロークは短いのだが、シフトチェンジする際にはミアータよりも力がいる。クラッチの繋がりかたもミアータに比べると滑らかではないし、ペダルも重い。
低速ギアでもターボラグはある。1速での走り出しから物足りなさを感じる。124の8-100km/h加速は7.6秒で、ミアータに比べると0.8秒遅い。それに、ターボは突然かかるし、5,500rpmを超えると次第に勢いが衰えてしまう。4,400rpmでシフトアップした場合、124の0-100km/h加速は6.7秒で、ミアータよりも0.5秒遅い。
フィアットのほうが高価だし、ターボラグも存在する。スペックではフィアットに分があるのだが、自然吸気エンジンのミアータのほうが直感的でレスポンスも優れている。
専用の排気系を持つアバルトの場合、標準の124スパイダーよりも最高出力が4PS向上している。四本出しのテールパイプは、まるで小さなダッジ・バイパーのように音を響かせる。運転席からでも排気音はわずかに聞こえるのだが、エンジン音はミアータほどやかましくはない。それに、遮音性が向上しているおかげで、フィアットのほうが高速域での静粛性が高い。騒音は110km/h巡航時には75dBで、フルスロットル時には84dBだった。一般的なセダンと比べればうるさいのだが、高速巡航時に80dBを記録した騒々しいミアータに比べれば随分と静かだ。

フィアットのシャシのほうがロールは抑えてくれるのだが、コーナー入口ではフィアットのほうが動きがぎこちない。124の重さやレスポンスの悪さ、それにボンネットが長いことによる視界の悪さもコーナリングには悪影響だ。スキッドパッドテストでは、124が0.87G、ミアータが0.89Gを記録した。ただし、フィアットはスタビリティコントロールを切ると簡単にドリフトすることができた。これほど簡単にドリフトできる車はなかなかない。
試乗車にはいずれもフロントはオプションのブレンボ製4ピストンキャリパー、リアは標準のシングルピストンキャリパーが装着されていた。ブレーキペダルには剛性感があったし、効きも十分だった。110-0km/h制動距離はフィアットが52m、マツダが53mだった。この差は履いていたタイヤの違いによるものだろう。また、テスト時には路面に砂があったため、制動距離は少し長めになっている。以前のテストでは同タイプのミアータの制動距離は48mだった。
フィアットの試乗時には他の車によく譲ってもらえた。おそらく、試乗車に付いていたオプションのボンネットストライプのおかげで、前の車のバックミラー越しに見るとパトカーのように見えたのだろう。見事に道が開けた。前を走っていたトヨタ・カローラはすぐさま右に避けてくれた。
また、フィアットのほうがリアオーバーハングが長く、トランク容量が11L多いため、小さなバッグを1つ余計に積むことができる。後ろから見るとアバルトのテールは筋肉質に見えるのだが、それに比してタイヤは細く不釣り合いな印象を受ける。
前述の通り、インテリアに関しては2台にあまり違いはない。ただし、フィアットにはRECAROシートが採用されている。このシートはサポート性も高く優秀で、これに比べるとソフトなマツダのシートが安っぽく感じてしまう。この点ではフィアットが優勢だ。
では、124にイタリア車らしさがあるのだろうか。その答えはノーだ。ただし、フロントバンパーの部品が一つ取れてしまった点に関してはイタリア車らしいと言えるかもしれない。124スパイダーはミアータとは別の車というよりも、むしろ大きく手が入ったミアータという印象だった。それなら、純粋なオリジナルを選びたいところだ。

日暮れ時にミアータで33号線を走るのはとても楽しかった。直線道路ではパワー不足が多少気になることもあるのだが、この車に乗っていると思わず笑顔になる。コーナーではステアリングが意のままに操れる。車体は少しロールしてしっかり曲がる。「小さきことは良きこと」という言葉をまさに体現している。
ミアータは現代の車でありながら、まるで昔の車のような楽しさを持っている。マツダは現代の車にある快適性という名の分厚い覆いを取り除いている。それに対して、フィアットはその一部を元に戻しており(かといって完璧に快適な車になっているわけではない)、古き良き時代にさほど思い入れのない顧客にも合うようなセッティングとなっている。
遮音材が少ないため、ミアータは機械との距離が近い。エンジンの吸気音もはっきりと聞こえてくる。ルーフを開けるとかつてのミアータのような排気音(つまり、かつてのMGのような排気音)が聞こえてくる。ギアチェンジはフィアットよりも軽く、そして操作しやすい。クラッチもほぼ完璧な仕上がりだ。
2.0Lエンジンには過給器が付いていないので、フィアットの1.4Lエンジンよりもずっと応答性が高い。馬力やトルクの出方もスムーズでリニアだ。エンジンスペックではフィアットに劣るのだが、実際には、0-100km/h加速だけでなく0-400m加速(ミアータは14.8秒、124スパイダーは15.1秒)でもフィアットに勝っている。
優劣を決めるのに時間はかからなかった。ミアータのほうがやかましく、快適性では124スパイダーに劣るのだが、ミアータのほうが正直で魅力的だ。それこそがスポーツカーに必要な条件だろう。
2017 Fiat 124 Spider Abarth vs. 2016 Mazda MX-5 Miata Club
日本のライターじゃ、良くも悪くもこんな風には書けないだろうな