イギリスの大人気自動車番組「Top Gear」でおなじみのジェレミー・クラークソンが英「The Sunday Times」に寄稿した試乗レポートを日本語で紹介します。

今回紹介するのは、2011年に書かれたジェンセン・インターセプターSのレビューです。


Interceptor S

インターセプターは歴史上で最も恰好良い車名だ。

8時に迎えに行くよ。インターセプターでね。
今夜はインターセプターで送ろうか?

こんな言葉を聞けば、思わず興奮してしまうこと間違いなしだ。

マセラティも良い名前だ。サンダーバードはなお良い。しかし、インターセプターこそが最高の車名だ。

しかしながら、その姿が車の実体とかけ離れてしまっていては元も子もない。ティースプーンのような胸とL.S. ローリーの世界の手足を持った人間にクリント・スラストという名前を名乗る資格がないのと同じだ。

幸いなことに、インターセプターのデザインは魅力的だ。巨大なボディはイタリア人の手によってデザインされており、ボンネットは隆起し、リアウィンドウは湾曲し、エラまで付いている。際立ったデザインだ。素晴らしいデザインだ。あらゆる車の中でも指折りのデザインだ。

残念ながら私はこの車に乗ったことがないし、私の知る中で唯一インターセプターに乗ったことのある人物であるエリック・モーレキャンベはもうこの世にはいない。しかし、伝え聞いた情報の限りでは、この車の走りは「最悪」らしい。

搭載されるのはクライスラーの6.2L V8エンジンで、これは金を音に変えるだけで、ろくにパワーは生み出さない。とはいえ、リアのリーフリジッドサスペンションはまともに車に固定されていないため、むしろパワーが出ないのは良いことだ。

しかも、ジェンセンは必要な部品を近所のサプライヤーから在庫を適当に見繕って調達している。実際、トライアンフ・スタッグとまったく同じ設計のステアリングを装着したジェンセンの存在も確認されている。

この結果、インターセプターはイギリスのクラシックカーマーケットの中でも格安で販売されている。アストンマーティン・DB5やジャガー・Eタイプを手に入れるためには何十万ポンドと必要なのだが、インターセプターなら状態の良いモデルが5,000ポンドほどで手に入る。

インターセプターにそれくらいの価値はあると考える人もいるかもしれない。しかし、この車で目的地に到着するまでには2日かかるし、身体はすすだらけになってしまう。信頼性の低さはジェンセンの弱みであり、こればかりはどうにもならない。現実は非情だ。

rear

しかしながら、今回の主題である車は本物のジェンセン・インターセプターではない。オックスフォードシャーにあるジェンセン・インターナショナル・オートモビルという会社がインターセプターにブラジリアンワックスとボトックス注射を施した。今回の主題であるインターセプターSというモデルは非常に素晴らしい車だ。

もともと使われていたエンジンに代わってインターセプターSには別のエンジンが搭載されている。搭載されるコルベットの6.2LオールアルミV8エンジンは比較的優秀なエンジンだ。それに、トランスミッションもコルベットと共通だ。

リアサスペンションについては、ローマ時代の技術である車軸懸架に代わって、昔のジャガー・XJSの部品(LSDなど)と自社製の部品を用いた独立懸架となっている。

フロントブレーキはAPレーシング製のベンチレーテッドディスクブレーキで、6ポットキャリパーが奢られている。タイヤは低扁平だ。アジャスタブルダンパーも備わる。そろそろ欲しくてたまらなくなっただろうか。

実際、私はこの車の魅力にやられてしまった。なので実際に車に乗り込んでみたのだが、内装はなおのこと素晴らしかった。オリジナルのジェンセンを忠実に再現しており、モノクロの操作系やキルティングの入ったシートも魅力的だった。しかも、グローブボックスの中にはiPod用の端子まであった。

今の時代の基準で考えると室内は開放感に満ちている。衝突安全性など考慮されておらず、ピラーはただ屋根を支えるためだけに存在するため、非常に細い。まるでガラス容器の中に座っているような感覚で、自分が見世物になっているかのような気分になる。とはいえ、インターセプターに乗っている自分であれば、むしろ進んで見世物になりたいくらいだ。

しかし、油断してはいけない。周りからは丸見えなので、着る服にも気を使う必要性が出てくる。おすすめは耐Gスーツだ。もし耐Gスーツを持っていないなら、黒いタートルネックを着て、ジェイソン・キング風のサングラスをかけるといいだろう。

運転するまでは、この車こそが完璧な車なのかもしれないと思っていた。現代の技術と過去のデザインの融合。集中暖房を備えたジョージアン様式の家だ。

残念ながら、それは間違っていた。もしありとあらゆる装備が刷新されていたなら、インターセプターSは新車と定義されてしまう。そうなれば現代の安全基準や排出ガス基準に適応させなければならない。それを回避するため、一部の装備は昔と変わっていない。例えば、ワイパーは動きこそまともなのだが、水滴はまったく拭き取ってくれない。

interior

風切り音も問題だ。1970年代当時、車には雨樋があり、ウェスト・ミッドランズの鈑金工の口癖は「まあ、これでいいか」だった。なので、高速道路で110km/hを出すと、飛行機の翼の上に乗っているときのようにやかましい。

しかし、最大の問題はステアリングだ。ステアリングラックは当時のままなのだが、ジオメトリーをどれほど調整しようと、ストライキのことしか頭になかった男が設計したという事実は隠しようがない。そのため、ステアリングは重く、セルフセンタリングの力はほとんどなく、あまりにローギアードなので進行方向を3度変えるだけでも腕をぐるぐると回さなければならない。

しかし、我慢できないほどの問題点とは言えないかもしれない。では、良い所についても言及することにしよう。まずはヒーターだ。顔に温風がかからないようにして、足だけを温めることができる。エアコンは非常に優秀だ。

それに、この車はとても速い。アクセルを踏むと、怒れるライオンの雄叫びとともに、4.5秒後には100km/hまで加速してしまう。後ろを走っていたアウディのドライバーはきっと目の前の光景を信じることができなかっただろう。最高速度は250km/hを超える。1975年に作られた車で250km/hを出せてしまう。

それに、ステアリングの感覚はあまりにも古臭いのだが、グリップはかなり強力で、意外なことにアンダーステアもほとんど生じない。これはスポーツカーではない。しかし、それにほど近い。

なにより、乗り心地が素晴らしい。最近の車はどれも重く、そしてデザイナーは低扁平タイヤを好むため、路面の衝撃が直接尻に伝わってくる。しかし、ジェンセンはまるで浮くように走る。現代の車で例えるなら、ベントレーと同じくらいに快適だ。

しかも、ジェンセンはベントレーよりも安い。この車を作り上げるためにはかなりの労力が注ぎ込まれているのだが、価格はわずか107,000ポンドだ。

では、結論に移ろう。ジェンセン・インターセプターは歴史上でも指折りのデザインを持った車だ。そのインターセプターが丸裸になり、再び塗装され、必要最低限の改造が施されている。乗り心地はかなり良いし、狂ったような速さも備えている。まさに理想の車だ。

なにより嬉しいのは、「今夜8時にインターセプターで迎えに行くよ」と自信を持って言えることだ。この車なら約束の時間に遅れずに済むだろう。


20 years of Clarkson: Jensen Interceptor S review (2011)