イギリスの大人気自動車番組「Top Gear」でおなじみのジェレミー・クラークソンが英「The Sunday Times」に寄稿した試乗レポートを日本語で紹介します。
今回紹介するのは、アルファ ロメオ・ジュリア クアドリフォリオのレビューです。

私は30年近くずっと、この車の登場を待ちわびていた。その車とは、アルファ ロメオ・ジュリア クアドリフォリオだ。これはフィアットのバッジをアルファに変えただけの車ではない。後輪駆動で、莫大なパワーを持ったアルファだ。本気で欲しいと思えるアルファだ。
読者諸兄がどんな印象を抱いているのかは分からないが、ともかく、今回のレビューにあたっては私のアルファに対する深い愛情を一度捨てるつもりだ。私はアルファに対する愛があまりに深く、欠点があまりも多い4Cのことさえ大好きだ。
昔の75はサイドブレーキを使うたびに指が切断されてしまうし、パワーウィンドウスイッチは屋根にあるし、定規一本でデザインされているのだが、それでも私は75を嫌いになれない。
けれど、ダスティン・ホフマンの思い出も、GTV6のエンジン音も、熾烈な走りを魅せたレーシングカーも、すべて一旦忘れることにしよう。BMWやメルセデスを批評するのと同じように、ジュリア クアドリフォリオ(四つ葉のクローバー)を批評することにしよう。あくまでも車として、道具として、モノとして批評することにしよう。
まずは欠点について言及しよう。まず、運転席のドアは小さすぎるし、運転席の位置も逆だ。この車から脱出しようとすると、郵便ポストから脱出する気分が味わえる。人間としての尊厳を保ったまま車外に出るためにはステアリングを可動範囲いっぱい前に出す必要があるのだが、これはかなり面倒だ。
ステアリングといえば、最近のトレンドに倣ってステアリングにはたくさんのスイッチが並べられているのだが、どのスイッチも夜には光らない。なので、オーディオのボリュームを上げようとしてうっかりクルーズコントロールを作動させてしまうこともしょっちゅうある。そうなってしまったら携帯電話を取り出してトーチ機能を使って照らさないとオフにはならない。
あるいは、ガソリンが尽きて車が止まるまで待つのもありだ。特別燃費が悪いわけではないのだが、燃料タンク容量はわずか58Lだ。58Lという数字は科学者をしても不十分と言わしめる量だ。

ほかにも、6万ポンド近い価格を考えれば内装の仕上がりにも不満が残る。緑と白のステッチの見た目は良いのだが、プラスチックは使い捨てフォークのような質感だし、ナビのスクリーンは切手と同じくらい小さい。それに、スイッチ類も安っぽい。例えば、アウディのような質感の高い高級車と比べると、どうしても見劣りする。また、ドアを強く閉めればエンジンがぐらついてしまう。
まとめると、乗り降りはしづらいし、質感も低いし、航続距離は短いし、エンジンは粘着テープだけで固定されている。以上がこの車の欠点だ。この車を購入した場合、これだけの欠点に目をつぶる必要がある。しかし、気に病むことはない。この車には同じくらいたくさんの魅力があるし、その多くは格別の魅力だ。
まず、スペックについて概説しよう。最高速度250km/hのBMW M3の対抗馬として登場したこの車の最高速度は307km/hだ。 轟音を響かせ、滑らかに回る2.9L V6ターボエンジンがその原動力だ。
フィアットはアニェッリ家の手中にあり、アルファはフィアットの傘下なのだが、フェラーリもフィアットの操り人形の一つだ。ジュリアに搭載されるV6エンジンがフェラーリ・カリフォルニアのV8エンジンをベースにしているのではないかという噂があるのだが、フェラーリはその噂を否定している。ボア、ストローク、バンク角がすべて同一なのも偶然だそうだ。いずれのエンジンもエンジンのVの内側にツインスクロールターボチャージャーが配置されており、足の小指をわずかに動かしただけでも即座に加速が始まる。
無尽蔵にトルクがあるというわけではないので、8速ATをそれなりに駆使する必要はある。しかし最高出力は実に510PSだ。なので丁寧に扱う必要がある。この車は速い。思わず大声で笑い出してしまうくらいに速い。
それに、走りはこの上なく楽しい。ステアリングはかなりクイックだ。ロック・トゥ・ロックはわずか2回転で、ラウンドアバウトを回る際にもほとんど操作を必要としない。軽いワインディングならいとも簡単に抜けることができる。
ブレーキについても言及しよう。試乗車には5,000ポンドのカーボンセラミックブレーキが装備されていたのだが、このチューニングは完璧だった。普通ならありえないくらいの強さでブレーキを踏まなければABSは介入しないし、フェードすることなどありえないだろう。

当然、車の快適性を損なうボタンやレースと名の付けられたトラクションコントロールを切るモードもあるのだが、私はそんなものを使うつもりはない。サーキットでは簡単に横滑りさせて遊ぶことができる。クアドリフォリエットーレに付いているLSDに相当する機能が功を奏している。
クアドロフォルマジオのプロダクトマネージャーはフェラーリ・458スペチアーレも担当していた。車を見ればそれがありありと伝わってくる。パドルシフトや可動式フロントスポイラーの話をしているわけではない。車全体のDNAの話をしている。もし、フェラーリが中型4ドアセダンを作ったなら、まさしくこんな車ができるはずだ。
だからといって、この車が野蛮というわけではない。タイヤは小さいし、地上高は低いのだが、サスペンションを「ガタガタ」モードにしてもかなり滑らかだ。不思議な快適性がある。また、周りに爆音を発し、シフトアップすれば銃声も聞こえるのだが、室内は静寂に包まれている。
室内空間の話もしよう。トランク容量は問題ないのだが、リアシートは狭い。試乗車にオプションの巨大なカーボンフロントシートが装備されていたこともかなり影響している。ただし、居心地は良い。あまりに快適だったので、ウェールズへの3時間の移動をこなしても、近所に買い物に出たくらいの気分だった。
続いてブレコンビーコンズに行ったのだが、そこでの経験は最高だった。スロットルレスポンスは素早く、ステアリングの応答性も高く、スピードメーターは考えられないようなペースで回転した。この車には特別感があった。
おそらく、M3のほうが耐久性は高いだろうし、壊れる部品点数も少ないだろう。しかし、M3のステアリングは緩慢だし、アルファに比べると重い。それに…こんなことを書くことになろうとは予想だにしなかったのだが、個人的感情を完全に排除して考えても、アルファはBMWよりも走行性能の高い車を作り上げたと断言できる。
これは本当の話だ。いわば、イングランドを負かしたアイスランドだ。こんなに嬉しいことはない。
The Clarkson Review: 2016 Alfa Romeo Giulia Quadrifoglio Verde
今回紹介するのは、アルファ ロメオ・ジュリア クアドリフォリオのレビューです。

私は30年近くずっと、この車の登場を待ちわびていた。その車とは、アルファ ロメオ・ジュリア クアドリフォリオだ。これはフィアットのバッジをアルファに変えただけの車ではない。後輪駆動で、莫大なパワーを持ったアルファだ。本気で欲しいと思えるアルファだ。
読者諸兄がどんな印象を抱いているのかは分からないが、ともかく、今回のレビューにあたっては私のアルファに対する深い愛情を一度捨てるつもりだ。私はアルファに対する愛があまりに深く、欠点があまりも多い4Cのことさえ大好きだ。
昔の75はサイドブレーキを使うたびに指が切断されてしまうし、パワーウィンドウスイッチは屋根にあるし、定規一本でデザインされているのだが、それでも私は75を嫌いになれない。
けれど、ダスティン・ホフマンの思い出も、GTV6のエンジン音も、熾烈な走りを魅せたレーシングカーも、すべて一旦忘れることにしよう。BMWやメルセデスを批評するのと同じように、ジュリア クアドリフォリオ(四つ葉のクローバー)を批評することにしよう。あくまでも車として、道具として、モノとして批評することにしよう。
まずは欠点について言及しよう。まず、運転席のドアは小さすぎるし、運転席の位置も逆だ。この車から脱出しようとすると、郵便ポストから脱出する気分が味わえる。人間としての尊厳を保ったまま車外に出るためにはステアリングを可動範囲いっぱい前に出す必要があるのだが、これはかなり面倒だ。
ステアリングといえば、最近のトレンドに倣ってステアリングにはたくさんのスイッチが並べられているのだが、どのスイッチも夜には光らない。なので、オーディオのボリュームを上げようとしてうっかりクルーズコントロールを作動させてしまうこともしょっちゅうある。そうなってしまったら携帯電話を取り出してトーチ機能を使って照らさないとオフにはならない。
あるいは、ガソリンが尽きて車が止まるまで待つのもありだ。特別燃費が悪いわけではないのだが、燃料タンク容量はわずか58Lだ。58Lという数字は科学者をしても不十分と言わしめる量だ。

ほかにも、6万ポンド近い価格を考えれば内装の仕上がりにも不満が残る。緑と白のステッチの見た目は良いのだが、プラスチックは使い捨てフォークのような質感だし、ナビのスクリーンは切手と同じくらい小さい。それに、スイッチ類も安っぽい。例えば、アウディのような質感の高い高級車と比べると、どうしても見劣りする。また、ドアを強く閉めればエンジンがぐらついてしまう。
まとめると、乗り降りはしづらいし、質感も低いし、航続距離は短いし、エンジンは粘着テープだけで固定されている。以上がこの車の欠点だ。この車を購入した場合、これだけの欠点に目をつぶる必要がある。しかし、気に病むことはない。この車には同じくらいたくさんの魅力があるし、その多くは格別の魅力だ。
まず、スペックについて概説しよう。最高速度250km/hのBMW M3の対抗馬として登場したこの車の最高速度は307km/hだ。 轟音を響かせ、滑らかに回る2.9L V6ターボエンジンがその原動力だ。
フィアットはアニェッリ家の手中にあり、アルファはフィアットの傘下なのだが、フェラーリもフィアットの操り人形の一つだ。ジュリアに搭載されるV6エンジンがフェラーリ・カリフォルニアのV8エンジンをベースにしているのではないかという噂があるのだが、フェラーリはその噂を否定している。ボア、ストローク、バンク角がすべて同一なのも偶然だそうだ。いずれのエンジンもエンジンのVの内側にツインスクロールターボチャージャーが配置されており、足の小指をわずかに動かしただけでも即座に加速が始まる。
無尽蔵にトルクがあるというわけではないので、8速ATをそれなりに駆使する必要はある。しかし最高出力は実に510PSだ。なので丁寧に扱う必要がある。この車は速い。思わず大声で笑い出してしまうくらいに速い。
それに、走りはこの上なく楽しい。ステアリングはかなりクイックだ。ロック・トゥ・ロックはわずか2回転で、ラウンドアバウトを回る際にもほとんど操作を必要としない。軽いワインディングならいとも簡単に抜けることができる。
ブレーキについても言及しよう。試乗車には5,000ポンドのカーボンセラミックブレーキが装備されていたのだが、このチューニングは完璧だった。普通ならありえないくらいの強さでブレーキを踏まなければABSは介入しないし、フェードすることなどありえないだろう。

当然、車の快適性を損なうボタンやレースと名の付けられたトラクションコントロールを切るモードもあるのだが、私はそんなものを使うつもりはない。サーキットでは簡単に横滑りさせて遊ぶことができる。クアドリフォリエットーレに付いているLSDに相当する機能が功を奏している。
クアドロフォルマジオのプロダクトマネージャーはフェラーリ・458スペチアーレも担当していた。車を見ればそれがありありと伝わってくる。パドルシフトや可動式フロントスポイラーの話をしているわけではない。車全体のDNAの話をしている。もし、フェラーリが中型4ドアセダンを作ったなら、まさしくこんな車ができるはずだ。
だからといって、この車が野蛮というわけではない。タイヤは小さいし、地上高は低いのだが、サスペンションを「ガタガタ」モードにしてもかなり滑らかだ。不思議な快適性がある。また、周りに爆音を発し、シフトアップすれば銃声も聞こえるのだが、室内は静寂に包まれている。
室内空間の話もしよう。トランク容量は問題ないのだが、リアシートは狭い。試乗車にオプションの巨大なカーボンフロントシートが装備されていたこともかなり影響している。ただし、居心地は良い。あまりに快適だったので、ウェールズへの3時間の移動をこなしても、近所に買い物に出たくらいの気分だった。
続いてブレコンビーコンズに行ったのだが、そこでの経験は最高だった。スロットルレスポンスは素早く、ステアリングの応答性も高く、スピードメーターは考えられないようなペースで回転した。この車には特別感があった。
おそらく、M3のほうが耐久性は高いだろうし、壊れる部品点数も少ないだろう。しかし、M3のステアリングは緩慢だし、アルファに比べると重い。それに…こんなことを書くことになろうとは予想だにしなかったのだが、個人的感情を完全に排除して考えても、アルファはBMWよりも走行性能の高い車を作り上げたと断言できる。
これは本当の話だ。いわば、イングランドを負かしたアイスランドだ。こんなに嬉しいことはない。
The Clarkson Review: 2016 Alfa Romeo Giulia Quadrifoglio Verde