今回は、英国「evo」によるメルセデス・ベンツ C63 AMG と BMW M3 の比較試乗レポートを日本語で紹介します。

※内容は2008年当時のものです。


M3 vs C63

単純な等式こそが最高の等式だ。歴史上最も有名な等式はE=mc2だ。このエネルギー、質量、速度の関係を見出したのはアルベルト・アインシュタインだ。そして、楽しさと等号を結ぶとしたら、それはマッスルカーだろう。マッスルカーがなければ、1950年代のアメリカの若者たちは娯楽に飢えたはずだ。それに、今回の比較もできなかった。

魅力あるものは決してなくならない。小型ハイパフォーマンスV8セダンは現代の自動車工学の最先端ではあるのだが、同時に、その原点を辿ると、アメリカの田舎町での深夜の公道レースに行き着く。当時の精神は今なお生き続けている。メルセデス・C63 AMGやBMW M3の顧客は子供っぽさなど見せたがらないだろうが、どちらにしてもはっきりさせるべきことがある。どちらが速い車なのだろうか。本質的に、速い車は女の子を惹き付ける。

M3のベースとなっているのは4気筒および6気筒のセダンなのだが、V8のM3は標準の3シリーズセダンよりも厳つくなっている。M3セダンはクーペよりも全長はわずかに短いのだが、幅は広く、背も高く、車重は25kg重い1,680kgだ。そのため、パワーウェイトレシオは250PS/tで、数字としては決して悪くはないのだが、圧倒的というほどではない。宿敵であるAMGと比較すると見劣りしてしまう。

AMGはC63を暴力的な車に仕立てようとしている。ベースのCクラスは非常に落ち着いたプロポーションの車なのだが、AMGは大変身を遂げている。そして、AMGは排気量に偏執的だ。AMGの車といえば、その中心はエンジンなのだが、C63のエンジンも多分に漏れず大排気量だ。6,208ccという排気量はBMWよりも2.2L多く、457PS/61.2kgf·mというスペックはM3よりも37PS/20.4kgf·mも勝っている。ただし、C63のほうが車重は50kg重いため、パワーウェイトレシオの差はわずかで、C63のパワーウェイトレシオは264PS/tだ。一方、トルクウェイトレシオは、C63の35.4kgf·m/tに対し、M3は24.3kgf·m/tで、大きく差が開いている。

M3には6速MTが設定されるのだが、C63にはATしか設定されず、その点ではM3が有利そうだ。とはいえ、AMGの7G-TRONICは変速も速いし、パドルシフトを使ってマニュアル変速をすることもできる。

実際のパフォーマンスはかなり近い。0-100km/h加速および0-160km/h加速では、C63がそれぞれ4.7秒および10.3秒、M3が4.9秒および10.7秒と、スペック通りメルセデスが勝っている。特に61.2kgf·mというトルクは底なしで、いとも軽々と加速してくれる。加速時に聞こえてくるエンジン音は、とても似た車のものだとは思えない。AMGのエンジンはリニアで重々しく、7,500rpmのレッドゾーンに近付くまではほとんど力の弱まりを感じない。M3のほうがレッドゾーンは800rpm高いのだが、スペックの差は埋めがたい。

しかし、エンジンの実力ではC63に負けているとしても、M3のハードウェアは優秀だ。4L V8エンジンはBMW Mディビジョンの傑作だ。実質的にはM5に搭載されるV10の小型版であり、90度のバンク角をはじめとして基本構造は共有している。高回転域において出力がしっかり出るのはMディビジョンのエンジンの特徴であり、それはM3にも受け継がれている。420PSの最高出力は8,300rpmという超高回転で発揮される。それに、低回転型のAMGは100PS/Lにまったく届いていない一方で、M3は105PS/Lを実現している。

M3にはC63にあるような大トルクの余裕はないかもしれないが、M3のエンジンからは活力や攻撃性が感じられる。エンジンはよく回り、どの回転域においても高い応答性を見せてくれる。それに、この車に乗っていると楽しい。スペックだけではこの車の実力は伝えきれない。2,000rpm以下ではメルセデスほどの凄みは感じないのだが、それ以降はまるで地を駆ける流星のごとくリミッターまで突っ走る。アイドリング時には穏やかなV8サウンドはレッドゾーンに至ると轟音に変貌する。

エンジンの存在感はいずれのモデルでも大きく、方向性こそ違うもののどちらも喜びをもたらしてくれる。まさに現代のホットロッドだ。ただし、かつてのホットロッドとは違い、0-400m加速を終えても力尽きてしまうことはない。それに、この2台の一番の違いは直線加速ではない。

C63に3,200ポンドのオプションであるパフォーマンスパッケージを装備すると、スプリングが10%強化され、リアデフロックが追加される。これにより、シャシはより強固になり、応答性も向上する。AMGはグリップにも富んでおり、コーナーを自信を持って速く安定して抜けることができる。ステアリングは重さもあり、感覚も十分だ。トラクションコントロール、スタビリティコントロールをオンにしている限りは、パフォーマンスに圧倒されることもない。信頼を置くことのできるシャシだ。しかし、M3と比べてしまうとどうしても見劣りしてしまう。

BMWのステアリングはメルセデスほどに重いわけではないし、フィールに富んでいるわけでもないのだが、車全体が軽く、そして引き締まっているように感じられる。それに、乗り心地に関してもBMWが勝っている。2台の差はそれほど大きいわけではないのだが、違いは明らかだ。メルセデスは電子制御頼りで、車との一体感に欠ける。

実際にトラクションコントロールとスタビリティコントロールをオフにしてみると違いがはっきりする。LSD付きのC63ではテールを滑らせることもできるのだが、Mディファレンシャルの付いたM3と比べると、操作感覚の自然さや滑らかさで劣る。E90には初代(E30型)M3の正確なコーナリングバランスが受け継がれている。M3の操作性は非常に素直なので、没頭せずにはいられない。

ここで、2台の間に明白な違いが浮き出てくる。C63のシャシはかなり強固でまったく動じないのだが、気軽に乗り回したくなるような車ではない。一方のM3は、しなやかで扱いやすく、無駄な動きがない。コーナリング性能はより正確で応答性も高い。M3に乗っていると、難しいコースほど楽しくなる。車に全幅の信頼を置くことができ、スロットルとステアリングが見事な調和を見せてくれる。C63も優秀な車ではあるのだが、重さや大きさを感じてしまう。難しいコースをM3と同等に走ることはできるのだが、運転する大変さが楽しさを上回ってしまう。

2台とも制動性能は並外れて高いのだが、ペダルフィールに関してはM3の勝ちだ。メルセデスのペダルのほうがわずかに重いのだが、踏みはじめのフィールに欠けている。

2台を並べてみると、C63のスポイラーやサイドスカート、フロントバンパーにはいくらか不調和を感じる。とはいえ、どちらかといえば落ち着きのあるBMWと比べると、男らしくて目を引くのは確かだ。それに、C63はM3よりも室内がいくらか広く、特にリアシートのレッグルームやヘッドルームの差は顕著だ。それに、フロントシートの横方向の余裕もBMWよりある。ドライビングポジションが優れているのもメルセデスのほうだし、装備内容もメルセデスのほうが充実している。

結局のところ、どちらの車も圧倒的な性能と十分な快適性をうまく両立している。古典的アメリカン・マッスルカーのドイツ版として正しい道を歩んでいると言えるだろう。もし、求めるのが圧倒的な性能を持つ無骨な車であれば、C63こそが理想だろう。

しかし、M3の実力は圧倒的だ。速さもそうなのだが、なにより感覚が特別だ。正確で、従順で、俊敏で、そしてバランスがとれている。言ってしまえば、メルセデスは単に優秀なだけの車だ。しかし、M3はずっと深い車であり、ずっと乗っていたくなる車だ。


Mercedes-Benz C63 AMG v BMW M3 saloon