イギリスの大人気自動車番組「Top Gear」でおなじみのジェレミー・クラークソンが英「The Sunday Times」に寄稿したレビュー記事を日本語で紹介します。

今回紹介するのは、2003年に書かれたスマート・ロードスターのレビューです。


Smart Roadster

先週は空に太陽が輝き、あらゆる家の庭が色とりどりに彩られた。ただし、私の家だけは例外だった。私の家の場合、日の光によって照らされたのはブルドーザーとダンプカーだけだった。

3年ほど悩んでいたのだが、抜けるような青空を見ていると家の裏庭にプールを設置したいと思うようになった。

家にプールを置くなど、見苦しいし金の無駄だとも思ったのだが、ひょっとしたら、いずれ娘の友達がプールで泳ぐために家に遊びに来るかもしれない。家の庭に裸体の17歳の少女たちが集うということに私は魅力を感じた。

なので、私はプールの建設を決めた。きっと私でも簡単に作れるだろう。穴を掘って、ビニールシートでも敷いて、そこに水を満たしてやればいい。そうすればやがてビキニを忘れた10代の少女がやってくるだろう。
心配することはないさ。私の家なんだから裸でも構いやしないよ。

残念ながら、そんな単純な話ではなかった。私の家の周辺にある地面は粘土でも石灰岩でもなく、一般的な地質とは全く違っていた。表面にわずかな土があっただけで、その下はフェライトが覆っており、さらにその下はとんでもなく硬い岩の塊だった。

映画『アルマゲドン』でブルース・ウィリスが小惑星に穴を掘ろうとするシーンを覚えているだろうか。まさにそんな感じだった。むしろ、庭に穴を掘るほうが大変だった。

ともかく、作業員たちはなんとか必要なサイズの穴を掘って、穴の中身をそのまままるごと取り出した。そのまままるごとだ。掘った穴の大きさが40x20x7だとしたら、取り出した中身のサイズも40x20x7だ。

これだけの石があればコッツウォルドに住宅団地を作ることも高速道路を作ることもできるだろうし、これだけの土があれば農場を始めることだってできるだろう。作業員は私にこの資材をどうやって使えばいいか尋ねてきたので、私はこう答えた。
なら、スキーリゾートでも開こうか。

困ったことに、作業員は他にもたくさんの疑問を投げかけてきた。どんな舗装がいいか。どんなプールハウスがいいか。電動プールカバーは必要か。ステップは必要か。しかし、どう答えたとしても1,000ポンドの費用がかかることがのちに明らかになった。それに、ボイラーまでガスの配管を引かなければならないらしい。

しかも、ショベルカーは私の目の前で庭の芝生を通り、ハーブ園を通り、菜園を通り、水道管の上を通り(おかげで本場ジュネーヴさながらの大噴水ができた)、家の私道を通り、電線の上を通り(おかげで私のパソコンが壊れた)、汚水槽の上を通った(おかげで私の鼻がパソコンと同じ運命を辿った)。

ともかく、私はプールが完成するのを楽しみにしていたし、何か参考になるかもしれないと思って園芸番組を見たりもした。しかし、完成したプールは理想とは程遠いものだった。

プールの底は砂利だらけで、素足で入ることすら躊躇われたし、排水溝には雑草や土が集まっていた。しかも、子供たちはプールの中に石を投げ込んだ。

子供たちといえば、安全性にも考慮しなければならない。庭にある水深5cmの池ですら、幼児が溺れてしまわないか気を遣う必要がある。ましてや、家のプールの水深は2mだ。なので、周りをなにかしらで囲う必要が出てくる。石垣で囲った場合、1,000ポンドかかる。木製フェンスで囲った場合、やはり1,000ポンドかかる。

それに、6月になるとすべてが終わってしまう。6月になれば雨が降る。それこそが問題だ。結局のところ、太陽が輝き、雲一つない空が広がっているという光景は、あくまでも脳内にしか存在せず、現実世界にはない。

プールだけでなくパーゴラやガーデンテーブルにも同じことが当てはまるし、なによりもオープンカーにこそ当てはまる。

おそらく、読者の中にはここのところの天気の良さに影響されてオープンカーが欲しいと思った人もいるのではないだろうか。私もそうだ。先週の火曜日の朝には実際にオープンカーのルーフを下げて走ろうと思った。その日、ちょうどベルグレイヴィアからノッティングヒルまで行く用事があった。太陽は輝き、青空が広がっていた。完璧だった。

rear

しかし、周りから見たらどうかということを考えたことがあるだろうか。残り少ない髪を風で靡かせながら、中年の男がメルセデス・SLに乗ってパークレーンを駆け抜ける。こんな情景を形容しようとしたら酷い言葉しか思い浮かばない。世界最悪の情景とまでは言わない。それはBMW乗りの称号だ。なので、私は基本的にオープンカーのルーフを下げたりはしない。

それに、温度という問題もある。昨年の8月、私はマドリードでジャガー・Eタイプに乗った。言葉だけだと牧歌的に思えるかもしれないが、実際のところ、私は丸焼きにされる鶏の気分を味わった。

しかしながら、イギリスにおいてはオープンカーに乗りたくなるほど気温が上がることはめったにないし、もし気温が上がったとしても、私の家のプールに入ればいい話だ。

低速で走る分にはオープンカーも悪くないのかもしれないが、街中でオープンカーに乗ろうものなら見苦しいことこの上ない。なのでどうしても郊外を走ることになるのだが、そうなると必然的にスピードは上がり、身体の芯まで冷えてしまう。

女性をオープンカーの助手席に乗せると、ルーフを下げてくれと必ず言ってくるのだが、ルーフを下げて50km/h以上で走ると、やっぱりルーフを上げてくれと必ず言ってくる。

最大の問題は、暑さでも寒さでもなければ、風によって巻き上がる自分の髪でもない。騒音だ。高速道路だと、テリー・ウォーガンの声も、コールドプレイの新曲CDも聞くことができず、それどころか何かを考えることさえできない。耳をつんざくような轟音が響き続ける。1kmも走ればどうしてオープンカーになど乗っているのだろうかと自問しはじめ、すぐにガソリンスタンドに寄ってルーフを上げるはずだ。

これが、スマート・ロードスターの話に繋がる。最初にこの車のことを知ったとき、私はこう思った。
都市型のオープンカー。実に素晴らしいじゃないか。楽しそうだし、安いし、恰好良いし、壊れても修理しやすそうだし、ルーフを下げることもできる。これ以上ないくらいに魅力的だ。

最初に発表された11,500ポンドという価格は右ハンドル化によって覆り、実際の価格は13,495ポンドとなったのだが、安いかどうかの問題については置いておくことにして、車自体の実力について見てみよう。

公平を期するため、あらかじめ明言しておくが、私はこの車に乗ったこともなければ実車を見たこともない。しかし、写真を見て分析してみることにしよう。

700ccという排気量を考慮すると、速さという概念とは無縁だろう。0-100km/h加速には11秒かかり、最高速度は180km/hだそうだ。なので、『ザ・バラッド・オブ・ルーシー・ジョーダン』の歌詞は忘れてもいいだろう。パリの街中を髪を靡かせて走ることはできるだろうが、180km/hしか出ない車をスポーツカーと呼ぶことはできない。

これは重要なことだ。ティンバーランドの靴にしても、最新型の携帯電話にしても、レンジローバーにしても、実力が伴っていなければ都会で認められることはない。私の知る限り、スマート・ロードスターには実力が伴っていない。高速道路では使い物にならないだろうし、田舎道を走ったとしても、郵便車にすら追い越されてしまうかもしれない。

腕時計の広告を見てほしい。時間が分かり、見た目が良いだけでは不十分だ。広告にはニール・アームストロングや世界一周を達成したヨットマンの写真が載っているはずだ。メッセージは単純だ。ブラジルの大使とカクテルを飲むときに使えるだけでなく、ブラジルの熱帯雨林を征服するときにも使える、ということだ。

デザインも重要だが、中身が伴っていなければ話にならない。TVR タスカンは見た目は筋肉質だし音にも迫力があるのだが、ボンネットの中には家電製品のようなエンジンが置かれている。そんな車を誰が買うのだろうか。

これこそがスマートの最大の問題だ。夢のオープンカーかもしれないが、現実世界では、寒さに凍え、騒音に耳をやられ、周りから間抜けに見られるだけだ。それに耐えて得られるものは、たった700ccのプラスチック製品だ。ダイソンのバッジが付いていてもおかしくない。

オープンカーが欲しいとしても、もう少しお金を積めばマツダ・MX-5(日本名: ロードスター)が購入できる。デザイン的には低水準かもしれないが、少なくともこちらはまともなスポーツカーだし、メイフェアで乗ろうがマーブルソープで乗ろうが、真夏に乗ろうが真冬に乗ろうが、ちゃんと楽しむことができる。MX-5は現実世界に即した現実的な車だ。一方のスマートは違う。


Smart Roadster