今回は、英国「Driving.co.uk」による新型 日産・GT-R(2017年モデル)の試乗レポートを日本語で紹介します。


GT-R

日産・GT-Rが駄作になることなどありえない。1989年に登場したR32型以降、GT-Rは究極のスーパーサルーンであり続けてきた。

しかも、GT-Rはそれほど高価ではなかった。高価なスーパーカーの何分の一という値段で買うことができるし、サーキットではそんな高級スーパーカーのオーナーの顔に泥を塗ることができる。セダンの実用性とレーシングカーのメカニズムを融合し、その心臓に圧倒的な実力を誇るエンジンを載せたことで、そんな芸当を可能にしている。

ベルギーのスパ・フランコルシャン・サーキットで最新型のGT-Rと対面したときも、かなりの期待を抱いていた。2007年に登場したR35型GT-Rは各所で高い評価を得ている。事実、ジェレミー・クラークソンはこの車のことを「数ある最高の車のうちの1台ではない。崇高な最高の車だ。」と評している。しかし、今回我々が試乗した最新モデルは、ただのフェイスリフトモデルではなく、かなりの改良が施されていた。モデルチェンジとは言えないが、根本から見直されていた。

改良の一例を挙げてみよう。GT-Rを賞賛しながらも、フロントエンドのわずかな緩さを指摘したレーシングドライバーがいた。それを受けて日産はフロントウィンドウ周辺のフレームを強化した。同時に、トランク周辺の補強も行われた。その結果、シャシはさらに強固なものとなった。

それから、エンジンにも改良が施された。エンジン自体は同じ3.8LのツインターボV6エンジンなのだが(「匠」と呼ばれる熟練の職人が手作業で組み立てている)、ターボチャージャーのブースト圧が増加し、点火タイミングが変更されたことで、最高出力が20PS増加した。最大トルクの数字はほとんど変わっていないのだが、発生回転域が拡大し、3,300rpmから5,800rpmで最大トルクが発揮される。中回転域での力強さが増しており、エンジンの性格が根本から変わっている。

上述の改良に伴ってエンジンをさらに冷却する必要性が出てきたため、グリルが大型化され、エンジンベイにより多くの空気を誘導するため、空力性能を考慮して細部のデザインも変更された。しかし、車の外ではなく中に空気を流してしまうと空気抵抗が増加してしまうため、その分を補うためのデザイン変更も行われた。GT-Rのチーフ・プロダクト・スペシャリストを務める田村宏志氏いわく、新設計のフロントスプリッター、サイドスカート、Cピラー、リアバンパーのおかげで、従来型とまったく同じCd値を実現しているそうだ。

また、ボンネットの形状が変更されたことで、高速域でのダウンフォースも増加している。

田村氏いわく、パフォーマンスの向上だけが目的だったわけではないそうだ。GT-Rは高性能車の中でも相当に高く評価されているのだが、ポルシェ・911やメルセデスAMGのモデルと比べると少し子供っぽいところもある。

それを自覚していた日産は、GT-Rから半ズボンを脱がすことにした。ドアを開けると格段に進化したインテリアに迎えられる。ダッシュボードはナッパレザーで、レザーシートも大人っぽくなり、角が取れた印象となり、またスイッチ類も少なくなっている。室内はよりクリーンで成熟した印象となっている。ただ、センターコンソールのスイッチに使われている硬いプラスチックや一部のスイッチの操作感からは、本物の高級感の欠如を感じてしまう。

interior

センタースクリーンにはブースト圧やブレーキ踏圧力、アクセル開度、そしてGフォースを表示するプレイステーション世代の計器表示が残っている。これは面白くはあるのだが、他人に自慢するときにしか使えないし、もう少し見た目を改善してもよかったと思う。

スクリーンの下には重要なスイッチが残されている。3つのスイッチにより、トラクションコントロール、ダンピング、ドライブトレインの制御を変更することができる。レースモードにすることもできるし、セーブモードにすれば四輪駆動の状態を維持することができる(本来GT-Rは基本的に後輪駆動であり、コーナリング時に前輪が駆動してアシストを行う)。

駆動力はGT-Rの電子頭脳により調整され、Rモードにおいてすら非常に扱いやすい。残酷なほどの加速を見せてくれるし、低速コーナーでアクセルを踏み込んでやればオーバーステアを引き起こすこともできるのだが、その次の瞬間にはバランスを取り戻し、ありえないほどのペースで意図した方向へと突き進んでいく。

ステアリングの入力に対しても非常に忠実だ。ライン取りは完璧だ。GT-Rはドライバーの命令を聞くのではない。ドライバーと共に突き進んでいく。ドライバーの意図した以上の実力を持ち、限界を引き出してほしいとドライバーに要求してくる。GT-Rをクラッシュさせることなどほとんど不可能だ。どんなときでもグリップを発揮してしまう。しかし、決して退屈ではない。凶悪な速さを有している。全幅の信頼を置ける正確性を有しながら、同時に狂おしいほどの楽しさも併せ持っている。

しかも驚くべきことに、オー・ルージュを160km/h以上で抜けようと、アウトバーンで270km/hを出そうと、ベルギーの田舎町の舗装の悪い道を30km/hで走ろうと、GT-Rは快適だ。

特に驚いたのが低速域での快適性だ。従来のGT-Rも高速域であれば快適性は高かった。しかし、コンフォートモードにして町中をゆっくりと走ってみたところ、従来よりも足回りがしなやかになっているように感じられた。ファミリーカーにも匹敵するレベルだ。

また、長距離を運転しても前より楽だった。従来モデルでは車の内側で精密機械が稼働しているような実感があった。機械的でハードコアだった。

しかし、新型では角が取れ、日常的に使える車になっている。交差点に近付いて3速から2速に落とすときも非常に滑らかだ。日産・ノートのトランスミッションよりも圧倒的にタフなのは感じるのだが、滑らかさでもノートに負けていない。

田村氏は2001年に発表されたGT-Rコンセプト(後のR35型GT-R)も手がけている。彼はこの車にオートマチックトランスミッションを採用したのだが、当時は多くの自動車評論家から批判された。本物のドライバーズカーはATであってはならない、というのが当時の自動車評論家の考えだった。しかし、時が経ち、田村氏の正しさが証明された。今や、ドライバーに変速操作を任せるような高性能車は少ない。電子制御やデュアルクラッチトランスミッションのおかげで、人間には到底出せない速さを実現している。

ハイド氏の要望にも応えるため、Track editionやNISMOも設定される予定だ。究極のラップタイムを実現するため、サスペンションは強化されるのだろうが、これが標準モデルよりも魅力的なオールラウンダーになるとは思えないし、サーキット以外で走らせたくなるような車になるとも思えない。

ここで大きな疑問が生じてくる。R36型GT-Rはどんな車になるのだろうか。田村氏も次期型の登場時期については何も教えてくれなかった。数年前、次期型はハイブリッドパワートレインを採用し、ニュルブルクリンクのラップタイムで918スパイダーを打倒するだろうとも噂された。ひょっとしたらこれはR35型GT-Rの最期の姿なのかもしれないが、有終の美を飾るモデルとしてもふさわしい実力を有している。

これまでの911と同じように、GT-Rは成熟した。年を経るごとに進化している。


First Drive review: 2016 Nissan GT-R