イギリスの大人気自動車番組「Top Gear」でおなじみのジェレミー・クラークソンが英「The Sunday Times」に寄稿した試乗レポートを日本語で紹介します。
今回紹介するのは、シュコダ・スペルブ エステート 2.0 TDI のレビューです。

学生時代、私は取るに足らないような悪さを繰り返していた。学校の記念庭園で跳ねまわったり、教室の鍵穴に漆喰を塗り込んだり、他にもよく覚えていないがいろいろとしでかした気がする。その罰としてピンポン玉の内部構造に関する小論文を書かされたこともあった。
この作業はかなりの苦行だったのだが、ロザラム・アドバタイザー社に勤めていた頃、ブリンズワース教区会の会議内容についての記事を書くとき、この経験が役に立った。この仕事では、内容がまったく無いことについて6~7段落の記事を書かなければならなかった。
しかし、私は今、史上最大の危機に直面している。今回、シュコダ・スペルブ エステート ディーゼルについて1,200単語の記事を書かなければならない。この車にはヘッドランプとステアリングとシートが付いている。これ以上書くことはない。しかし、ここで終わらせるわけにはいかない。
これは前代未聞の事態だ。これまで20年以上車のレビュー記事を書いてきたのだが、これほどまでに長い時間、カーソルが点滅するのをただ眺め続けたことはない。パソコンは4回もスリープしてしまった。
フォルクスワーゲン・パサートの代わりにシュコダ・スペルブを購入すれば節約できるという話をしよう。実際、スペルブの中身はパサートだ。しかし実のところ、そもそも読者はフォルクスワーゲン・パサートにもほとんど興味はないだろう。パサートは人を興奮させるような車ではない。パサートを安く買う方法を教えるのは、ドルトムントに安く行く方法を教えるのと変わらない。誰も得をしない。
ネタが欲しくてわざわざスペルブのカタログまで読んでみたのだが、それによると、iPadに専用のアプリケーションをインストールすれば、夕食時に家族と一緒に自分の運転スタイルについて分析することもできるそうだ。
「パパは今日、ラウンドアバウトでは0.4G出したし、午後には一度3,200rpmまで回したんだぞ。」
なんてことを子供に言う親がどこにいるのだろうか。少なくとも、シュコダのオーナーにそんな人間は絶対にいない。
私はこれまでシュコダのオーナーをたくさん見てきた。大概の場合、名前はジェフだった。その誰もが過酷な人生を歩んでいた。肩書き自体は木材販売員や工場の現場監督などまともなのだが、会社は中国との競争に敗れて倒産寸前で、仕事をするでもなく家にこもってビスケットを頬張り、もはや妻を愛してなどいないことに薄々ながらに気付き始めていた。

そんな状況から脱するため、シュコダ・オクタヴィアを購入し、低級タクシーのドライバーとして第二の人生を歩み始めた。つまり彼らの人生は、車にこびりついた酔っぱらいの嘔吐物を掃除することに費やされていく。しかしそれでも、家にこもって好きでもない肥満女性と一緒にテレビを見るよりはましだ。
本当は、深夜に酔っ払った田舎者の相手なんかするよりも、空港で客待ちできるような高級タクシーに乗りたいと思っているはずだ。そうすれば、肥満女性とテレビを見る必要も、酔っぱらいの嘔吐物を掃除する必要もなく、真っ当なスーツを着て空港のターミナル3でちゃんとしたビジネスマンを迎えることができる。
ここでスペルブの話になる。スペルブはパサートよりも安いだけでなく、パサートよりも大きい。かなり大きい。リアシートには大人3人が余裕を持って乗れるし、トランクにはジェフの財産すべてを載せることができる。買い溜め癖があろうと関係ない。2万ポンドで買える車の中では最大だ。
ステアリングにシュコダのロゴが描かれていようと気にする必要はない。これはシュコダなんかではない。エンジンも、トランスミッションも、電装もすべてフォルクスワーゲンだし、製造しているのもフォルクスワーゲンのロボットだ。しかも、フォルクスワーゲンの燃費性能も有している。公称燃費は23.8km/Lだそうだ。HAHAHAHAHA。
スペルブエステートは低級タクシーにぴったりな車なのだが、ジェフは購入を躊躇うはずだ。なぜなら、スペルブを購入したところで、どうせすぐにジェフの町にもUberが襲来し、自分の縄張りだった場所にはトヨタ・プリウスがやって来て、結局は家で巨大な妻と一緒に過ごすことになってしまうからだ。
要するに、今回レビューする車に興味を持っている人など存在しない。一人として存在しない。旧型モデルを購入したタクシードライバーすら興味を持っていない。しかし、私はこれからあと500単語書かなければならない。
ここで、この車の五つ星評価についての話に移らせてほしい。シュコダ・スペルブは五つ星、すなわち満点の車だ。欠点はほとんど見つからない。仕上がりもしっかりしている。必要と思われるものはすべて装備されている。150PSのディーゼルエンジンは静粛性も高いしパワフルだ。コストパフォーマンスは非常に優れている。エクステリアデザインも比較的良い。室内空間は広いし、…笑わないでほしいのだが、25km/L近い燃費を実現できるそうだ。いや、もう笑っていい。HAHAHAHAHA。
しかし、これは単なる満点の車ではない。この車には冷蔵庫と同じくらいの魂しかない。何のこだわりもなく買われていく車だ。

「すみません。5mくらいの長さの車が欲しいんですが。」
「でしたらジェフさん、こちらのスペルブはいかがでしょうか。」
この車に乗っていて不満を感じることはないだろうが、同様に歓びを感じることもない。これでは優秀な車とは言えない。大金を使って休暇を過ごすのであれば、息をすることさえ忘れるほどの景色やサービスを求めるはずだ。車を購入するときも同じだろう。何かしらの感激がなければならない。
あちこちに何かしらオーナーを魅了するような要素がなければならない。それは運転スタイルを解析してくれるタブレット用のアプリケーションなんかでは決してない。私が言っているのは、デザインや感触、それから音のことだ。
昨日の朝、M1を300km以上走ったのだが、そこにはスペルブのような車ばかりが走っていた。ヒュンダイもいたし、キアもいた。多くはヴォクスホールやフォードだった。どの車にもまったく同じ問題がある。どれも平凡なのだ。これまでであれば、このような車たちには三つ星の評価を与えていた。星を2.5個にはできなかったからだ。
しかし、そんな風潮はやめよう。これからは、いかに車が優秀であろうと、退屈ならば二つ星以下しか与えない。自動車メーカーが創造力を駆使しない限り、消費者は車よりも便利なものに流れていってしまうだろう。Uberや低価格タクシーに。
ジェフにとっては喜ばしいことかもしれない。スペルブのような車に乗っていると、大してメリットもないのに大金を払って自動車を購入することに疑問を持つようになる。そうなれば、ジェフの仕事はどんどん増えていくだろう。
というわけで、ジェフにはスペルブの購入をお勧めする。商売道具として考えれば、スペルブ以上に優れた車など存在しえない。それに、この車の設計思想のおかげで、すぐにでも客が増えることだろう。
The Clarkson Review: 2016 Skoda Superb estate
今回紹介するのは、シュコダ・スペルブ エステート 2.0 TDI のレビューです。

学生時代、私は取るに足らないような悪さを繰り返していた。学校の記念庭園で跳ねまわったり、教室の鍵穴に漆喰を塗り込んだり、他にもよく覚えていないがいろいろとしでかした気がする。その罰としてピンポン玉の内部構造に関する小論文を書かされたこともあった。
この作業はかなりの苦行だったのだが、ロザラム・アドバタイザー社に勤めていた頃、ブリンズワース教区会の会議内容についての記事を書くとき、この経験が役に立った。この仕事では、内容がまったく無いことについて6~7段落の記事を書かなければならなかった。
しかし、私は今、史上最大の危機に直面している。今回、シュコダ・スペルブ エステート ディーゼルについて1,200単語の記事を書かなければならない。この車にはヘッドランプとステアリングとシートが付いている。これ以上書くことはない。しかし、ここで終わらせるわけにはいかない。
これは前代未聞の事態だ。これまで20年以上車のレビュー記事を書いてきたのだが、これほどまでに長い時間、カーソルが点滅するのをただ眺め続けたことはない。パソコンは4回もスリープしてしまった。
フォルクスワーゲン・パサートの代わりにシュコダ・スペルブを購入すれば節約できるという話をしよう。実際、スペルブの中身はパサートだ。しかし実のところ、そもそも読者はフォルクスワーゲン・パサートにもほとんど興味はないだろう。パサートは人を興奮させるような車ではない。パサートを安く買う方法を教えるのは、ドルトムントに安く行く方法を教えるのと変わらない。誰も得をしない。
ネタが欲しくてわざわざスペルブのカタログまで読んでみたのだが、それによると、iPadに専用のアプリケーションをインストールすれば、夕食時に家族と一緒に自分の運転スタイルについて分析することもできるそうだ。
「パパは今日、ラウンドアバウトでは0.4G出したし、午後には一度3,200rpmまで回したんだぞ。」
なんてことを子供に言う親がどこにいるのだろうか。少なくとも、シュコダのオーナーにそんな人間は絶対にいない。
私はこれまでシュコダのオーナーをたくさん見てきた。大概の場合、名前はジェフだった。その誰もが過酷な人生を歩んでいた。肩書き自体は木材販売員や工場の現場監督などまともなのだが、会社は中国との競争に敗れて倒産寸前で、仕事をするでもなく家にこもってビスケットを頬張り、もはや妻を愛してなどいないことに薄々ながらに気付き始めていた。

そんな状況から脱するため、シュコダ・オクタヴィアを購入し、低級タクシーのドライバーとして第二の人生を歩み始めた。つまり彼らの人生は、車にこびりついた酔っぱらいの嘔吐物を掃除することに費やされていく。しかしそれでも、家にこもって好きでもない肥満女性と一緒にテレビを見るよりはましだ。
本当は、深夜に酔っ払った田舎者の相手なんかするよりも、空港で客待ちできるような高級タクシーに乗りたいと思っているはずだ。そうすれば、肥満女性とテレビを見る必要も、酔っぱらいの嘔吐物を掃除する必要もなく、真っ当なスーツを着て空港のターミナル3でちゃんとしたビジネスマンを迎えることができる。
ここでスペルブの話になる。スペルブはパサートよりも安いだけでなく、パサートよりも大きい。かなり大きい。リアシートには大人3人が余裕を持って乗れるし、トランクにはジェフの財産すべてを載せることができる。買い溜め癖があろうと関係ない。2万ポンドで買える車の中では最大だ。
ステアリングにシュコダのロゴが描かれていようと気にする必要はない。これはシュコダなんかではない。エンジンも、トランスミッションも、電装もすべてフォルクスワーゲンだし、製造しているのもフォルクスワーゲンのロボットだ。しかも、フォルクスワーゲンの燃費性能も有している。公称燃費は23.8km/Lだそうだ。HAHAHAHAHA。
スペルブエステートは低級タクシーにぴったりな車なのだが、ジェフは購入を躊躇うはずだ。なぜなら、スペルブを購入したところで、どうせすぐにジェフの町にもUberが襲来し、自分の縄張りだった場所にはトヨタ・プリウスがやって来て、結局は家で巨大な妻と一緒に過ごすことになってしまうからだ。
要するに、今回レビューする車に興味を持っている人など存在しない。一人として存在しない。旧型モデルを購入したタクシードライバーすら興味を持っていない。しかし、私はこれからあと500単語書かなければならない。
ここで、この車の五つ星評価についての話に移らせてほしい。シュコダ・スペルブは五つ星、すなわち満点の車だ。欠点はほとんど見つからない。仕上がりもしっかりしている。必要と思われるものはすべて装備されている。150PSのディーゼルエンジンは静粛性も高いしパワフルだ。コストパフォーマンスは非常に優れている。エクステリアデザインも比較的良い。室内空間は広いし、…笑わないでほしいのだが、25km/L近い燃費を実現できるそうだ。いや、もう笑っていい。HAHAHAHAHA。
しかし、これは単なる満点の車ではない。この車には冷蔵庫と同じくらいの魂しかない。何のこだわりもなく買われていく車だ。

「すみません。5mくらいの長さの車が欲しいんですが。」
「でしたらジェフさん、こちらのスペルブはいかがでしょうか。」
この車に乗っていて不満を感じることはないだろうが、同様に歓びを感じることもない。これでは優秀な車とは言えない。大金を使って休暇を過ごすのであれば、息をすることさえ忘れるほどの景色やサービスを求めるはずだ。車を購入するときも同じだろう。何かしらの感激がなければならない。
あちこちに何かしらオーナーを魅了するような要素がなければならない。それは運転スタイルを解析してくれるタブレット用のアプリケーションなんかでは決してない。私が言っているのは、デザインや感触、それから音のことだ。
昨日の朝、M1を300km以上走ったのだが、そこにはスペルブのような車ばかりが走っていた。ヒュンダイもいたし、キアもいた。多くはヴォクスホールやフォードだった。どの車にもまったく同じ問題がある。どれも平凡なのだ。これまでであれば、このような車たちには三つ星の評価を与えていた。星を2.5個にはできなかったからだ。
しかし、そんな風潮はやめよう。これからは、いかに車が優秀であろうと、退屈ならば二つ星以下しか与えない。自動車メーカーが創造力を駆使しない限り、消費者は車よりも便利なものに流れていってしまうだろう。Uberや低価格タクシーに。
ジェフにとっては喜ばしいことかもしれない。スペルブのような車に乗っていると、大してメリットもないのに大金を払って自動車を購入することに疑問を持つようになる。そうなれば、ジェフの仕事はどんどん増えていくだろう。
というわけで、ジェフにはスペルブの購入をお勧めする。商売道具として考えれば、スペルブ以上に優れた車など存在しえない。それに、この車の設計思想のおかげで、すぐにでも客が増えることだろう。
The Clarkson Review: 2016 Skoda Superb estate
http://m.autocarindia.com/Article.aspx?CIID=401919&type=News