今回は、米国「AUTOWEEK」によるライノ・GXの試乗レポートを日本語で紹介します。


GX

これは防弾なんですか?
我々はこの車と対面して、最初にこんな質問をした。それに対し、販売担当者のアーニー・サラザール氏はこう答えた。
いえ、違います。装甲車を必要としている人なんてほとんどいませんから。

それに装甲車は重い。テラダイン・グルカのような装甲車の車重は6,100~8,800kgにも及ぶそうだ。一方、この車は"わずか"4,400kgだ。だからこそ、本物の装甲車よりも制動性能、操作性能、加速性能すべてにおいて優れているそうだ。

要するにこれは防弾ではないのだが、一見すると防弾に見えるし、それどころか爆弾にも耐えられそうだ。この不思議な車、ライノ・GXを生み出したのはUSSVという会社だ。ちなみに、将来的には別会社とパートナーを組んで本物の装甲車を作る計画もあるそうだ。しかし、実際に我々が乗った車は、見た目からは対戦車ミサイルすら軽くあしらえそうにも思えるのだが、あくまでそういうデザインなだけだ。

カリフォルニア州ランチョクカモンガに拠点を置くUSSVは普通のピックアップトラックを威圧的な車へと作り変えることに長けた会社であり、ライノ・GXはその製品の一つで、フォード・スーパーデューティーをベースとしている。

高速道路でもしバックミラー越しにこのモデルを見かけたとしたら、車線を譲るのは当然として、ひょっとしたらあまりの恐ろしさに高速道路を降りて近場の駐車場に身を隠そうとしてしまうかもしれない。まるで『ジュラシック・ワールド』に出てくる恐竜を見たような気分になる。恐竜がまだ近くにいないか、おそるおそる窓の外を見てみる。こいつは穏やかな草食恐竜ではない。お腹を空かせた肉食恐竜だ。

rear

サラザール氏はこんなことも話していた。
我々は18年間、リンカーンのストレッチリムジンを製造してきました。今ではリムジン事業の80%をSUVが占めています。

しかし、ライノ・GXはリムジンとは違う。ただ、サラザール氏いわく、室内は拡大されており、高級車であることも意識しているそうだ。

USSVは3年半前から中国向けにこのモデルを製造している。現時点でUSSVは月に10台から11台の製造を行っており、そのうちの8台が中国向けだそうだ。しかし今後は、ジープ・ラングラーがベースのライノ・XTも含め、アメリカ国内向けの製造も増やしていく方針だそうだ。

USSVはロサンゼルスから車で1時間の内陸部に大きな工場を有している。そこに荷台のないフォード・スーパーデューティーが輸送され、外装パネルはすべて剥がされる。それからヒーロー漫画に出てくるようなデザインの20ゲージ鋼板が装着される。基本的にボディはすべて20ゲージ鋼板なのだが、フェンダーの膨らんでいる部分はガラス繊維製だ。ボディはあちこち角張っており、小さな窓はまるで舷窓のようだ。

我々は2台のライノ・GXに試乗した。一台は最高出力390PS、最大トルク56.0kgf·mを発揮するガソリンV10モデルだ。車重は4,445kgで、パワーウェイトレシオは11.40kg/PSと遅そうだ(ちなみに、将来的にはスチールパネルの代わりにアルミパネルを使ったモデルも計画されている)。

interior

実際に走らせてみても遅かった。それに、ミッキートンプソン製の38x15R20LTタイヤはやかましかった。ただ、室内は広々としていた。5人乗りモデルと7人乗りモデルが用意されており、室内空間・高級感ともに十分だった。

サラザール氏いわく、パフォーマンス面ではディーゼルモデルの方が優れているそうなので、7週間後にディーゼルモデルの試乗を行った。フォードの「パワーストローク」6.7L V8ターボディーゼルエンジンは最高出力446PSを発揮し、最大トルクは驚愕の118.9kgf·mを発揮する。ガソリンモデルの倍以上だ。

アクセルを踏み込むと結構速い。スポーツカーのような速さはないのだが、車の性格を考えれば十分だ。6速ATがしっかりとキックダウンしてくれるので高速道路での追い越しもしやすい。周りも逃げるように避けてくれる。屋根から50口径の機関銃が飛び出してきてもおかしくない雰囲気を纏っているからだろう。

ステアリングもなかなか優秀だった。サスペンションはUSSVが独自にセッティングしている。フロントにはツインコイルのモノビームショックアブソーバーが採用され、リアのリジッドアクスルには油圧サスペンションシステムが追加されている。トーヨーのOPEN COUNTRY M/T 38x15.5R20LTは舗装路ではミッキートンプソンよりもずっと静かだった。全体的にバランスも良く、重さに圧倒されて車全体が駄目になっているということもなかった。

この車の価格は20万〜25万ドルなのだが、それだけの価値はあるのだろうか。そんなはずはない。論理的に考えれば、こんな車を所有する意味などどこにもない。しかし、何かをしたくなるとき、そこに論理的思考が介入する余地などあっただろうか。屋根から飛び降りて遊ぶ子供もいる。バーで隣の酔っ払いに話しかける人もいる。ストリッパーと結婚する人だっている。その行動に論理的な動機などないはずだ。ライノ・GXだって同じだ。それだけの魅力がある。自分の心に素直になればいい。


Rhino GX First Drive: Behold, for I have come to smite thee