今回は、米国「Autoblog」によるジャガー・XFR-S スポーツブレークの試乗レポートを日本語で紹介します。


XFR-S

ニュルブルクリンクで運転できるなら、臓器を売り払うことさえやぶさかでない車はたくさんある。スーパーカーもそうだし、レーシングカーもそうだし、ホットハッチだってそのカテゴリーに入れていいかもしれない。しかし、ステーションワゴンはどうだろうか。あまりステーションワゴンを選ぼうとは思わないかもしれないが、このワゴンはただのワゴンではない。ジャガー・XFR-S スポーツブレークだ。

この名前を聞いてピンと来ないのも当然だ。残念なことにスポーツブレークが北米で販売される予定はないのだが、そんなことよりそもそも、ジャガーがステーションワゴンを作ろうとしたことや、そのワゴンにコヴェントリーで最もハードコアな「R-S」という名前を付けたことに納得がいかないのではないだろうか。

話は2012年まで遡るのだが、ジャガーはその年のジュネーヴモーターショーでXF スポーツブレークを発表した。厳密にはスポーツブレークがジャガー初のワゴンというわけではないのだが、Xタイプ エステートという異端作を無視すれば、このXF スポーツブレークこそがジャガー初のステーションワゴンだ。

ジャガーの購入層にワゴンという選択肢を提示したり、あるいは逆に、ワゴンの購入層にジャガーという選択肢を提示したXF スポーツブレークには当初、パフォーマンスモデルが設定されていなかった。しかしその2年後、2014年のジュネーヴショーでXFR-S スポーツブレークが発表された。XF スポーツブレークには普通のガソリンモデルすら設定されていなかったのだが、セダンに設定されるXFRすらもすっ飛ばしてXFR-Sが登場してしまった。我々はこの車に興味を持ち、実際に運転するためにはるばるドイツまで向かった。

ディーゼルのXF スポーツブレークも含め、一般的な欧州車のステーションワゴンを見れば、真っ先に気になるのはその室内空間や荷室の広さだ。しかしXFR-Sの場合、真っ先に意識が向くのはリアではなくフロントだ。そこにはお馴染みのエンジンが収まっているのだが、未だ飽きることはない。搭載されるのは1990年代中頃にフォードのプレミア・オート・グループと共同で開発されたAJ-V8だ。このエンジンはリンカーン、アストンマーティン、ランドローバー、それからフォード・サンダーバードにまで搭載されてきたのだが、そもそもはジャガーのエンジンだ。

エンジンは改良されており、排気量が5.0Lとなって、スーパーチャージャーも付いている。XFスーパーチャージドが470PS、XFRが510PSである一方で、究極モデルであるXFR-Sの最高出力は550PSで、最大トルクは69.4kgf·mだ。このスペックはXFR-Sセダンだけでなく、XKR-Sクーペおよびコンバーチブルや、FタイプRクーペ、XJRとも共通だ。ただし、車重はセダンよりも90kg重い1,967kgで、この6台の中で最も重いだけでなく、ジャガーのラインアップの中でも最も重い。それどころか、ランドローバーの一部モデル(フリーランダーやイヴォーク、ディフェンダー)よりも重い。0-100km/h加速は4.6秒で、セダンよりも0.2秒遅いものの、決して遅いわけではないし、540Lの荷室(リアシートを畳んだ場合は1670L)を持つ車としては圧倒的な速さだ。

パフォーマンスと実用性の両立という面で競合できるのは、メルセデス・ベンツ E63 AMG エステートやアウディ・RS6アバント、キャデラック・CTS-V スポーツワゴンくらいだろう(余談だが、各モデルとも「ワゴン」に別の呼称を使っている)。メルセデスとアウディはいずれもパフォーマンスで勝っており、いずれもターボの4WDだ。一方、スーパーチャージャーでFRのジャガーはキャデラックのような昔ながらのモデルだ。イギリスではXFR-S スポーツブレークの価格は82,495ポンドで、セダンよりも2,500ポンド高い。アメリカの値段に換算すると10万3,000ドルほどになるのだろうが、残念ながらアメリカで販売される予定はない。

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今回は、フランクフルト空港を出て山道やアウトバーンを走り、アイフェルを通って聖地、ニュルブルクリンクへと向かった。ジャガーは我々のために午前中まるごとニュルブルクリンクを貸し切りにしてくれ、一緒にXJRやXFR-Sセダン、FタイプRクーペにも試乗させてくれた。言うまでもなく、一番走りやすかったのはFタイプだったのだが、重さというハンデのあるスポーツブレークもかなり健闘していた。XFR-SのサスペンションはXFRやXJRのサスペンションよりも強化されており、スポーツブレークは車重増加に対処するためにさらに強化されている。

XFR-Sセダンから降りてスポーツブレークに乗り込んでも、大きな違いは感じられなかった。グリップの太いステアリングも、スポーティーなシートも、エレクトリックブルーのステッチも、レザーの表皮もすべて共通だった。万人に受けるようなセンスとは言いがたいのだが、少なくとも標準のXFとの差別化はしっかりできている。セダンとの唯一の違いはルームミラーから見た景色だ。

実際に走りだしても、重量の違いはほとんど感じられない。少なくともネガティブな面は見えてこない。増加分の車重はほとんどが後輪側にかかっているので、後輪駆動車であることも考慮すれば大きな問題がなくて当然だ。ニュルブルクリンクで問題が出ないということは、普通の道路で問題が出るはずもない。

ステアリングはもう少し重くてもよかったかもしれないし(フィールや応答性はほとんど申し分ない)、ブレーキペダルの初期応答をもう少し改善してもいいかもしれない。車重を考えればカーボンセラミックブレーキを選べると嬉しいのだが、現時点では設定されない。スーパーチャージドV8エンジンはかなりのパフォーマンスを発揮してくれるし、排気音は最高だ。ギアは8段と十分だし、マニュアルモードにすればパドルシフトを使ってレッドゾーンまで回すこともできる。

とはいえ、これだけ大きくて重い車を乗りこなすのは簡単ではないだろう。本来なら、これだけの大きさの車を運転するのは一苦労なはずだ。しかし、XFR-S スポーツブレークは、路面の悪い道路もそれほど苦労せずに走ることができた。それに、空いたアウトバーンでスピードメーターが280km/hを指してもかなり安定しており、最高速度300km/hを出すのもそれほど難しくはないだろうと感じた。

2日間の試乗を終え、我々はジャガー・XFR-S スポーツブレークの実力の高さを思い知った。この車ほどの実力を持つ車はそうそうないだろう。特に、友人や家族、ペットと一緒に移動したい場合はなおさらだ。アメリカの消費者はXFR-Sがアメリカで販売されないことを(そしてBMW M5にツーリングが存在しないことを)残念がることだろう。

どんなに素晴らしいことにも終わりはある(実際、スポーツブレークに試乗できたことはかなり素晴らしい経験だった)。そしてスポーツブレークとの別れの時がやって来た。XFR-S スポーツブレークは、パワー、安定性、威厳、実用性、どれをとっても魅力的で、是非ともまた乗ってみたいと思える車だ。ひょっとしたら、ジャガーが生み出してきた中で最も印象に残った車かもしれない。


2014 Jaguar XFR-S Sportbrake First Drive