今回は、米国「Car and Driver」による新型 キャデラック・XT5の試乗レポートを日本語で紹介します。


XT5

努力は必ず報われるわけではない。それは自動車業界においても言える。好例がキャデラックだ。数十億ドルかけて開発された2台の優秀なスポーツセダン(CTSとATS)よりも、顧客は旧時代的なエスカレードやSRX、XTSを好んだ。しかし、それでもキャデラックは考えを変えず、フルサイズセダンのCT6や今回の主題である2列シート中型クロスオーバーのXT5で高級輸入車に正面から挑もうとしている。

XT5の外寸はSRXと変わらないのだが、車重は130kgほど軽量化されており、室内空間は拡大している。それに、輸入車から買い替えても後悔しないくらいに機敏な走りを見せてくれる。

キャデラックのセダンはキャデラック専用の後輪駆動プラットフォームをベースに開発されることになっているのだが、XT5はGMの新設計C1XXプラットフォームを採用している。これは少し庶民的な前輪駆動プラットフォームであり、発表されたばかりの新型GMC アカディアにも使われているほか、おそらくはシボレー・トラバースやビュイック・アンクレイブの後継車にも使われるだろう。兄弟車との競合を避けるため、ホイールベースはSRXの2,807mmから51mm延長されており、リアシートのレッグルームは81mm拡大している。一方、アカディアは全長が102mm伸びており、3列目のシートが追加されている。

軽量化は最近では常套手段になっているのだが、キャデラックは高価な材質を用いずに軽量化を実現している。XT5のボディは4種類の等級の鋼から作られており、それぞれ剛性や衝突安全性を最大限に高めるように選定されている。接合部は接着剤により強化されており、アルミニウムエンジンフードのような高価な部品を使う必要もなくなっている。NVH性能を高めるため、フロントメンバーやリアクロスメンバーはゴムで覆われている。

パワートレインにも工夫が凝らされている。3.6LのV6エンジンはGMではお馴染みなのだが、XT5に搭載されるのは新設計のDOHC 24バルブの直噴エンジンであり、より滑らかかつパワフル(314PS)で、可変バルブタイミング機構や気筒休止機構、アイドリングストップ機構が付くことにより燃費性能も改善している。EPA基準の複合燃費は旧型SRXよりも15%以上改善している。

rear

前輪駆動車、四輪駆動車ともに、8速ATが標準設定となる。4WDシステムはトランスアクスル内にクラッチがあり、トラクションがそれほど必要でないときにはドライブシャフトが切り離される。リアアクスルにはさらに2つのクラッチがあり、左右それぞれの後輪にトルクを送る。スロットル開度や前輪のスリップ具合に応じ、制御コンピューターがリアのクラッチを繋げる。同じような4WDシステムを使うフォーカスRSが暴れ馬のような性格であるのとは対照的に、この4WDシステムの目的は安定性を高めることだ。

XT5は幅が広く、キャデラック共通の盾型のグリルは大きく突き出しており、エンジンフードとボディサイドは芸術的な造形となっている。前後のLEDライトは遠くまでキャデラックであることを主張する。テールランプ周辺にはかつてのキャデラックの面影も感じられる。細いルーフピラー、ドアミラーの配置、リアクォーターウインドウはいずれも視界の拡大に一役買っている。ルームミラーをHDカメラで代用するオプションもあり、これを選ぶとミラー越しの視界が3倍になる。

XT5のインテリアには、ダッシュボードからコンソール、ドアパネル、シートに至るまで、ステッチの入ったレザーが使われている。レザー、スエード、木目、アルミ、カーボンファイバーなど、使われている素材はすべてが本物だ。プラスチックも使われてはいるが、使われている場所は基本的に膝よりも下の部分に限られている。シフトレバーは電子式に変わり、おかげでコンソールに財布やタブレットを収納できる場所が生まれている。シガーソケットやUSBプラグだけでなく、携帯電話用のワイヤレス充電器も備わる。CUEインフォテインメントシステムはプロセッサの性能が向上しており、Apple CarPlayおよびAndroid Autoにも対応している。

XT5の凄いところはリアシートのシートアレンジの豊富さだ。リアシートは40:20:40分割可倒式で、倒すとほぼフラットな荷室が現れる。座面は140mm前後にスライドでき、リアシートは5段階に12度調整することができるため、リムジンのような快適空間を作ることもできる。リアドアは大きいので乗り降りもしやすいし、テールゲートはリアバンパーの下で足を振ることで自動的に開く。残念ながら、バックレストとセンターアームレストの位置関係はおかしく、使いづらい。また、バックレストを持ち上げるのは重労働だったのだが、その点についてはキャデラック側も問題を認識しており、4月の発売までには改善するつもりだそうだ。

ポルシェ・マカンに対抗するモデルだと公言されているわけではないのだが、XT5のシャシ性能は非常に高い。電動パワーステアリングは応答性も高いし重さも適度だ。ZFザックスのCDCと呼ばれる連続可変ダンピングシステムを使ったショックアブソーバーに頑丈なスタビライザーが組み合わせられたおかげで、乗り心地を悪化させずにコーナリング性能が高められている。スタイリッシュな20インチホイールに装着されているのはミシュランのタイヤで、グリップ性能は非常に高い。18インチモデルには同じくミシュランのオールシーズンタイヤが装着されるのだが、こちらにはCDCダンパーは選択できず、ステアリングの応答性はわずかに緩慢になり、走りも若干不安定になっている。

interior

1,800-1,950kgの車重に対して314PSのV6エンジンはいっぱいいっぱいだ。8速ATが採用されており、クルージング時には何の問題もないのだが、追い越しをしようとアクセルを踏んでもエンジンの存在感があまり感じられない。8速のギア比は0.67でトルクピークが5,000rpmなので、十分な力を出すためにはギアを下げる必要がある。ステアリングの3時と9時の場所にはマニュアル変速用のパドルが付いているのだが、これを使うためにはシフトレバーを操作してマニュアルシフトモードに変える必要がある。

このV6エンジンはレッドゾーンの6,500rpmまでよく回るのだが、中国仕様車にはほかの選択肢もある。2.0Lの4気筒ターボエンジンは馬力こそ劣るものの、トルクカーブは9%高く、トルクピークはV6よりも2,000rpm低い。しかし、燃費性能の優れた2.0Lターボが競合車では主流となる中、このエンジンは北米仕様や欧州仕様には設定されない。なお、ハイパフォーマンスモデルについては、現時点では設定されていないが、後々追加される予定だ。

XT5の価格設定は39,990ドルからとなり、4WDの最上級グレード「Platinum」にドライバーアシストパッケージ(アダプティブクルーズコントロール、自動ブレーキ、駐車アシスト)のオプションを付けると65,835ドルとなる。全4グレードが設定されており、装備の選択肢も多い。

キャデラックはインフィニティからヨハン・ダ・ネイシン氏を引き抜き、トップの座に据えている。彼はBMWで3年間、アウディで19年間の実績を積んでいる。ネイシン氏いわく、今後、キャデラックは他ブランドを後追いするのではなく、自らの道を行き、勇敢に革新していく挑戦者になっていくそうだ。XT5をはじめとして、今後登場する予定の11の新型車がどんな道を歩んでいくのか楽しみだ。


2017 Cadillac XT5 First Drive Review