今回は、人気自動車番組「Top Gear」でもおなじみのリチャード・ハモンドが2011年に英「Mirror」に寄稿したクライスラー・デルタのレビューを日本語で紹介します。


Delta

時間に余裕が無いなら、「この車はクライスラーのハッチバックだ」とだけ言えばいい。時間に余裕があるのなら、「このクライスラー・デルタという車は本当はランチア・デルタという名前で、アメリカ風のバッジに交換されているんだ」と説明すればいい。相手が真の車好きならきっと話に花が咲くことだろう。

ランチアは1994年以来イギリスで販売されておらず、最後に売られたのはデルタ インテグラーレという至高の車だ。それ以前も、ランチアのモデルすべてが販売されてきたというわけではない。

ランチアは素晴らしい車を何台も生み出してきた。以前のTop Gearで我々は、ランチアが名車を史上最も多く生み出した自動車メーカーであると結論付けた。これはあながち間違っていないかもしれない。

そして今回紹介するデルタは、本国でランチア・デルタとして発売されてから2年が経ってようやく、イギリスにおいてクライスラーブランドの右ハンドルモデルが発売された。

クライスラーいわく、この車の強みは、個性的なエンジンと高い品質、そしてコストパフォーマンスの高さだそうだ。では早速、20,495ポンドのデルタ 1.4 MultiAirに試乗してみることにしよう。

デルタのデザインは他の車とは一線を画しており、特にフロントグリルやテールランプの形状は個性的だ。デルタを買ったら車の話題には事欠かないことだろう。

ボディサイズも大きく、リアのレッグルームは広大だし、荷室の広さは小さめのステーションワゴンにも肉薄する。

試乗したSRというモデルにはレザーシートが備わっており、センターコンソールにはシルバーのプラスチックが、ダイヤルにはメッキが用いられていた。しかし、いかに操作系が豪華絢爛だったところで使いづらければ元も子もない。エアコンやオーディオの操作系を設計した人間の指を見てみたいものだ。きっとピンセットのような指なのだろう。実際、ピンセットでも使わなければまともに操作することはできない。

それに、あらゆる素材がまともそうには見えなかった。レザーやアルカンターラが使われていたにもかかわらず、デルタのインテリアはむしろチープに見えた。

しかし、悪いことばかりではなく、特にエンジンはなかなかだ。試乗車には1.4LのMultiAirエンジンが搭載されていたのだが、低価格モデルには同じく1.4Lの別のガソリンエンジンが搭載されるし、それ以外にディーゼルエンジンも設定される。

MultiAirエンジンは140PSを発揮し、0-100km/h加速タイムは公称で9.2秒だ。実際に乗ってみるとどの回転域でも力強くて驚かされる。ディーゼルエンジンに匹敵するくらいにトルキーだ。

クラッチは軽いし、6速MTのギアも軽い。ステアリングも含め、あらゆる操作が軽い。

落ち着いて運転すれば(つまり、イタリア人風に運転しなければ)ディーゼルに匹敵するくらいの燃費性能を実現することもできる。15km/Lくらいなら十分に達成できる。

フィアットはアルファ ロメオ・ジュリエッタにも同じMultiAirエンジンを載せている。アルファはフォードやヴォクスホール、フォルクスワーゲンなどといった普通の車とはひと味違った車を求めている人にぴったりだ。それに、ジュリエッタはよりパワフルな170PS版のエンジンを載せており、外見も中身も優れている。

デルタとジュリエッタの価格は近いのだが、装備内容はデルタのほうが充実している。変な帽子をかぶるような目立ちたがり屋はデルタを購入することだろう。しかし、もう少し上質で個性的な車を求めるなら、デルタを選ぶことはないだろう。


Chrysler Delta's an undercover Italian - the Richard Hammond test drive