イギリスの大人気自動車番組「Top Gear」でおなじみのジェレミー・クラークソンが英「Top Gear」に寄稿した試乗レポートを日本語で紹介します。
今回紹介するのは、1996年に書かれた日産・スカイラインGT-Rのレビューです。

日本の自動車メーカーはリンフォード・クリスティやバーバラ・カートランドに学ぶべきだ。クリスティは陸上100mで勝とうと思っていたわけではないし、カートランドは別にピンクのカラスの恰好をしようと思っていたわけではない。
世界最高のデザインのヨーロッパ車やアメリカ車をコピーしようとしても、スープラのようなろくでもない車が生まれるだけだということを理解するべきだ。そして、自分たちが「魂」という概念を理解していないことを自覚し、他の真似をするのをやめるべきだ。
「魂」とは、F1世界選手権で勝利したとき、ル・マンで99回勝利したときに生まれるものだ。「魂」や「キャラクター」はデザインするものではない。生み出すものだ。
車は友達だ。私にはたくさんの知り合いがいるが、友達と呼べるのは長らく付き合ってきた一部の人達だけだ。「魂」のある友人関係は、一緒に飲み、一緒に逮捕されてようやく生まれるものだ。
とはいえ、近道はある。私は自分に大金をくれる人となら簡単に仲良くなれる。それに、ダイアナ妃から電話がかかってきたらそれを邪険にすることなどできない。
日産・スカイラインGT-Rはそんな近道を辿ることができた車だ。日産は自分たちにヨーロッパ人に敵うセンスが無いことを自覚したうえで、自分たちにあってヨーロッパ人にないものを伸ばし、神もピニンファリーナも存在しないサイバーゾーンで勝負に出た。
その試みは成功した。スカイラインはヨーロッパ車のコピーではない。任天堂のゲームボーイと同じくらいに日本らしさのあるものだ。しかも、ゲームボーイよりも面白い。
私はかつてのスカイラインGT-Rをかなり気に入っていたのだが、ついに新型が登場した。1週間にわたって遊びまくった結果、疑いようのない結論が出た。
フェラーリ・355など忘れていい。ロータス・エリーゼも忘れていい。パフォーマンスだけを求め、デザインや快適性などどうでもいいと思っている人にとって、スカイラインは最上の車だ。
この性能が4WDシステムのおかげなのか四輪操舵システムのおかげなのかデフのおかげなのか電子制御のおかげなのかなんてことは知らないが、そんなことはどうでもいい。
スカイラインは何物よりも速くコーナーを抜ける。たとえ少し危うさが出てきても、立て直すのは非常に簡単だ。
残念なことに、価格はスカイラインの適正価格を大きく上回るようになってしまった。旧型は2万5,000ポンドだったのだが、新型は一気に5万ポンドまで値上がりしている。
しかし、最大の問題は価格ではない。問題は英国日産だ。英国日産はこれまで同様公式にスカイラインを輸入するつもりはないそうだ。というのも、ヨーロッパの法規に適合させるためには相当なコストが掛かるらしい。ただ、もし100人以上が本気で購入を考えるなら、輸入を検討するかもしれないそうだ。
世の中には、ゴルフ用のズボンなんかに大金を費やしている人がたくさんいるし、模型の飛行機ごときに大枚をはたいている人さえたくさんいる。そう考えると、ポルシェやM3やフェラーリの代わりにスカイラインを買ってみようと考える賢明な人が100人くらいいてもおかしくないはずだ。
もちろん、日産のバッジがマイナスだということは理解しているのだが、例えばボルボのバッジだってT5の名前が一緒になければ大した意味を持たない。
もし、スカイラインが売れるようになってその実力が明らかになれば、スカイラインのオーナーは賢くて運転技能の高い人だと思われるようになるはずだ。きっと女性にもモテるようになるだろう。
それに、取引先からは飾り気のない落ち着いた人だと思われるようになるだろう。そうなれば営業実績は倍増するだろうし、そうすれば車にさらにお金をかけられるようになり、エンジンを420馬力にできるかもしれない。
信頼性に関しては何の問題もないだろう。実際、390馬力の旧型スカイラインに乗っていた人に聞いたのだが、6万km酷使しても大きな問題は起こらなかったそうだ。
そのオーナー曰く、スカイラインほど実用的で、スカイラインほど落ち着いていて、しかも雪道を走ることまでできる車はないそうだ。しかも、最高速度は290km/hだ。
まだこの車について語ることはできるのだが、そうするときっと止まらなくなってしまうだろう。ワーズワースが花に魅入られたように、私は日産に心を奪われてしまった。
Clarkson on: the Nissan Skyline GT-R
今回紹介するのは、1996年に書かれた日産・スカイラインGT-Rのレビューです。

日本の自動車メーカーはリンフォード・クリスティやバーバラ・カートランドに学ぶべきだ。クリスティは陸上100mで勝とうと思っていたわけではないし、カートランドは別にピンクのカラスの恰好をしようと思っていたわけではない。
世界最高のデザインのヨーロッパ車やアメリカ車をコピーしようとしても、スープラのようなろくでもない車が生まれるだけだということを理解するべきだ。そして、自分たちが「魂」という概念を理解していないことを自覚し、他の真似をするのをやめるべきだ。
「魂」とは、F1世界選手権で勝利したとき、ル・マンで99回勝利したときに生まれるものだ。「魂」や「キャラクター」はデザインするものではない。生み出すものだ。
車は友達だ。私にはたくさんの知り合いがいるが、友達と呼べるのは長らく付き合ってきた一部の人達だけだ。「魂」のある友人関係は、一緒に飲み、一緒に逮捕されてようやく生まれるものだ。
とはいえ、近道はある。私は自分に大金をくれる人となら簡単に仲良くなれる。それに、ダイアナ妃から電話がかかってきたらそれを邪険にすることなどできない。
日産・スカイラインGT-Rはそんな近道を辿ることができた車だ。日産は自分たちにヨーロッパ人に敵うセンスが無いことを自覚したうえで、自分たちにあってヨーロッパ人にないものを伸ばし、神もピニンファリーナも存在しないサイバーゾーンで勝負に出た。
その試みは成功した。スカイラインはヨーロッパ車のコピーではない。任天堂のゲームボーイと同じくらいに日本らしさのあるものだ。しかも、ゲームボーイよりも面白い。
私はかつてのスカイラインGT-Rをかなり気に入っていたのだが、ついに新型が登場した。1週間にわたって遊びまくった結果、疑いようのない結論が出た。
フェラーリ・355など忘れていい。ロータス・エリーゼも忘れていい。パフォーマンスだけを求め、デザインや快適性などどうでもいいと思っている人にとって、スカイラインは最上の車だ。
この性能が4WDシステムのおかげなのか四輪操舵システムのおかげなのかデフのおかげなのか電子制御のおかげなのかなんてことは知らないが、そんなことはどうでもいい。
スカイラインは何物よりも速くコーナーを抜ける。たとえ少し危うさが出てきても、立て直すのは非常に簡単だ。
残念なことに、価格はスカイラインの適正価格を大きく上回るようになってしまった。旧型は2万5,000ポンドだったのだが、新型は一気に5万ポンドまで値上がりしている。
しかし、最大の問題は価格ではない。問題は英国日産だ。英国日産はこれまで同様公式にスカイラインを輸入するつもりはないそうだ。というのも、ヨーロッパの法規に適合させるためには相当なコストが掛かるらしい。ただ、もし100人以上が本気で購入を考えるなら、輸入を検討するかもしれないそうだ。
世の中には、ゴルフ用のズボンなんかに大金を費やしている人がたくさんいるし、模型の飛行機ごときに大枚をはたいている人さえたくさんいる。そう考えると、ポルシェやM3やフェラーリの代わりにスカイラインを買ってみようと考える賢明な人が100人くらいいてもおかしくないはずだ。
もちろん、日産のバッジがマイナスだということは理解しているのだが、例えばボルボのバッジだってT5の名前が一緒になければ大した意味を持たない。
もし、スカイラインが売れるようになってその実力が明らかになれば、スカイラインのオーナーは賢くて運転技能の高い人だと思われるようになるはずだ。きっと女性にもモテるようになるだろう。
それに、取引先からは飾り気のない落ち着いた人だと思われるようになるだろう。そうなれば営業実績は倍増するだろうし、そうすれば車にさらにお金をかけられるようになり、エンジンを420馬力にできるかもしれない。
信頼性に関しては何の問題もないだろう。実際、390馬力の旧型スカイラインに乗っていた人に聞いたのだが、6万km酷使しても大きな問題は起こらなかったそうだ。
そのオーナー曰く、スカイラインほど実用的で、スカイラインほど落ち着いていて、しかも雪道を走ることまでできる車はないそうだ。しかも、最高速度は290km/hだ。
まだこの車について語ることはできるのだが、そうするときっと止まらなくなってしまうだろう。ワーズワースが花に魅入られたように、私は日産に心を奪われてしまった。
Clarkson on: the Nissan Skyline GT-R