今回は、米国「Car and Driver」によるスバル・バハの試乗レポートを日本語で紹介します。

※内容は2002年当時のものです。


Baja

スバルはかつて、BRAT (Bi-drive Recreational All-terrain Transporter) という車を販売していた。多くの人がこの車を笑ったのだが、スバルは気にかけなかった。そしてブラットは10年間にわたって販売が続けられた。それから15年が経過し、復活の時が来た。そうして誕生したバハという車は、まるで工業学校の学生作品のような車だ。

スバル・ジャスティの存在を覚えているだろうか。個性的な窓のSVXを覚えているだろうか。AMC イーグルを覚えているだろうか。いや、最後の車に関してはスバルが作ったわけではないのだが、つい連想してしまった。スバルは時にこういった車を作り出す。

バハのデザインに疑問を呈したところで誰も怒りはしないだろうが、どうしても疑問に思うことがある。ボディに付いている巨大なプラスチックのプロテクターを外すことはできないのだろうか。ドライヤーとナイフを使えばなんとかならないだろうか。そもそも、まともなセンスのあるデザイナーがこんな安っぽいプロテクターをボディに付けようと思うだろうか。富士重工の社員はプロテクターの適正なサイズをちゃんと検討したのだろうか。

スバルに言いたい。キャデラック・エスカレードEXTのCピラーの処理を是非参考にしてほしい。そうすれば、ケツを失ったアウトバックだと思われることはないだろう。正直なところ、今のデザインを見るとケツを失ったアウトバックに見えてしまう。

バハはアメリカのCAFE基準ではライトトラックに分類されており、エンジンフード、ヘッドランプ、フロントフェンダー、ドア、ホイールベース、それから167PSのSOHC 4気筒ボクサーエンジンはすべてアウトバックと共通だ。しかし、リアドアより後方はトラックと残念な融合をしてしまっている。

バハの走りはアウトバックと変わらない。これは褒め言葉だ。重さ1,624kgのこのトラックは地球上で最も操作性の高いピックアップトラックと言える。ステアリングは軽いが正確だし、荒い路面でも直進性が高い。変速もクイックかつ正確だし、クラッチは軽く、ペダルはヒールアンドトーがしやすい配置となっている。こんなものは普通のピックアップトラックのユーザーは求めないだろう。

バハの一番の利点は乗用車のような乗り心地の良さにあるのかもしれない。そもそも、バハはトラックというよりもむしろ乗用車だ。足回りはしなやかで、路面の凹凸をしっかりといなしてくれる。ロールはそれなりにあるのだが、グリップを損なうほどではない。16インチのPOTENZAが鳴くまでアクセルを踏み込むのは楽しい。

砂利道を走るのはなお楽しい。バハの応答性は非常に高く、車からは周りの注目をあつめるほどの砂煙が出た。警官すら我々のことが気になったようで、ある警官は「そのワゴンはどうしてケツの部分が欠けているんだい?」と尋ねてきた。

2年前、スバルは2.5Lの水平対向4気筒エンジンの設計を刷新し、その際にカムシャフトが2本失われた。高音域の音が足りないと思う人もいるかもしれないが、それでもボクサー特有の音は健在だ。このエンジンはずっと4,000~5,000rpm程度で回していても何の問題も起こらない。

バハは軽やかですばしっこく、応答性も高いため、街中の足としてもぴったりだ。0-100km/h加速は9.3秒とさほど速いわけではないが、ホンダ・シビックLXと同等だ。別の例を挙げれば、22年前のフォルクスワーゲン・ラビットより11.8秒も速い。

試乗車にはオプションのHELLA製ルーフライト(395ドル)が装備されていた。走行中にこのライトを点灯させるのはほぼ全米で違法なので、パーキングブレーキ作動時にしか点灯しないようになっている。ただ、ライトを下向きに格納することもでき、サンルーフ越しに助手席の彼女のブラウスにスポットライトを当てることもできる。それに、エンジンをかけずとも点灯させることができる。

インテリアは基本的にアウトバックと変わらない。あるべき場所にあるべきものが配置されているし、シートは快適だし、操作系の配置はシンプルかつ効率的だ。ただ、気になる点が2つだけあった。カーゴランプスイッチとシルバーレザーのアクセントの入ったステアリングの2点だ。エクステリアのプロテクター同様、ほかとうまく調和していない。

一見するとバハの荷台は使いやすそうだ。しかし、実際のサイズは全長1,055mm、横幅1,245mmだ。荷室の全長はブラットよりも550mmも短い。ちなみに、一般的なスノーショベルの長さは1,270mmだ。いろいろ試してみたのだが、載せられたのはせいぜい小型の手押し式芝刈り機くらいだった。

bed extender

ホイールアーチ部分が邪魔で物を斜めに載せるのも難しく、自転車を載せるためにもテールゲートを開けたままにしなければならない。つまり、普通に使おうとしても、しばしばテールゲートを開けたままの状態で使わなければならないということになる。幸い、荷室を拡張できる柵も用意されているのだが、治安の悪い地域では使えないだろう。

荷台とリアシートの間には非常に重いハッチ(金属製で、縦305mm、横762mm)がある。これは車内からしか開けることができない。リアシートはフラットに畳むことができるが、ヘッドレストは後ろの壁に固定されている。その状態で後部ハッチを開けると最大で1,900mmの物を載せることができるので、嫌いな義母の遺体を運ぶにはいいのかもしれない。

ハッチの右側には収納スペースがあるのだが、何を置く場所かはよく分からない。お菓子だろうか、鍵だろうか、それとも義母の死亡診断書だろうか。ちなみに、荷台の振動はシボレー・シルバラードほど酷くはなく、その点は歓迎できる。

リアシートは大人でも快適に座れるくらいには広いのだが、前席下への足入れ性が高ければなお良かった。リアドアも十分大きく、快適に乗り降りすることができる。ただし、リア中央には人を乗せることができない。もっとも、プラスチック製のセンターコンソールの上に乗っても構わないのであれば話は別だが。ブラットやダッジ・ランページにはリアシートがないことを考えると、この点はバハの強みだろう。

スバルは年間販売台数2万台を計画しているのだが、マーケティングチームすらどんな人が購入するのかまったく予想できていないそうだ。この正直さには拍手を送りたいし、運転の楽しい小型軽量の4気筒ピックアップの誕生を素直に喜びたいとも思う。しかし、この車にはどこか愛らしさがある。それはアメリカ人男性がピックアップに求めるものとは違う。愛らしいトラックはいわば花飾りの付いた男性用下着のようなものだ。

バハの価格は2万4,520ドルからとなり、この値段でレザーやサンルーフ、ルーフラック、ABS、クルーズコントロール、80Wオーディオが付いてくる。4速AT車は800ドル高くなる。また、試乗中には雪が降ったのだが、4WDだったおかげで職場に一番乗りすることができた。

しかし、さらに950ドル節約する方法がある。セールスマンに対し、荷台を屋根とガラスで覆ってほしいと頼めばいい。その条件を見事に満たす車があるはずだ。


Subaru Baja - Road Test