今回は、人気自動車番組「Top Gear」でもおなじみのリチャード・ハモンドが2014年に英「Mirror」に寄稿したフォード・フィエスタ レッドエディションのレビューを日本語で紹介します。


Fiesta Red Edition

今回試乗したフォード・フィエスタ レッドエディションに搭載されるエンジンは、ブガッティ・ヴェイロンに搭載される8.0L W16 クワッドターボエンジンよりも排気量1Lあたりの馬力が勝っており、フォードはこれを非常に誇らしく思っているようだ。

実際、自分でも計算してみたのだが、間違いはなかった。ヴェイロンは1000PSで、排気量の8.0Lで割ると125PS/Lとなる。一方、フィエスタに搭載される1.0L EcoBoostエンジンは140PSを発揮する。計算機を使うまでもなく、140PS/Lと計算することができる。

しかし、これ以上に凄いのは、フィエスタの場合、毎日のように使っても長年にわたって使えるように設計されているという点だ。ヴェイロンの場合、20秒以上の間フルスロットルにできる道を探すだけでも大変だ。ヴェイロンは大半の人生をガレージの中で過ごし、ごくたまにレースのために使われる。つまり、信頼性など重要ではない。

一方のフィエスタは、エンジンが滑らかに回らなければならないし、渋滞でもちゃんとオーバーヒートしたりすることなく動かなければならない。20年前だったら、1,000ccで140PSを発揮するエンジンなど、ろくに実用性もなく、やかましく音を響かせただろうし、ターボラグは数ヶ月にも及んだことだろう。

要するに、フィエスタ レッドエディションに搭載されている1.0 EcoBoostは非常に賢いエンジンだ。

レッドエディション以外にブラックエディションというモデルもある。こちらはレッドエディションとは逆で、ボディカラーがブラックで、ドアミラーとルーフがレッドだ。

価格はいずれも1万5,995ポンド(試乗車にはオプションがいくつか付いていたが、さして重要なものは付いていなかった)で、1万7,250ポンドのフィエスタSTのエントリーモデルより安い。

自動車評論家は182PSのフィエスタSTと140PSのレッドエディションを比較する意味などないと言うだろうが、こういった人種はめったに車を買わない。それに、STは日常的に使うにはスパルタンすぎるし、保険料も高く、若年者には大きな負担になってしまう。

1.0 EcoBoostはホットハッチの下位互換的存在だ。かつてもこのような車は存在した。1980年代後半にはプジョーが205 GTIという名車を作り上げたのだが、同時に保険料の安い205 XSというモデルも作っていた。これはGTI同様に楽しかったのだが、エンジンのパワーは少なかった。

フィエスタもこれと同じだ。1.0 EcoBoostは、低価格でそれなりの楽しさを実現していた1.6Lモデルに代わる存在として登場した。

レッドエディションに使われているサスペンションは従来のZetec S 1.6と基本的には変わらない。地上高は標準車よりも10mm低くなっているし、スプリングはフロントが12%、リアが6%それぞれ強化されているという点も同じだ。なお、リアのスプリングの変更幅がフロントに比して小さいのは、リアのトーションビームも強化されているからだ。

ステアリングは少し重くなっている。3気筒エンジンは従来の4気筒 1.6Lエンジンより30kg以上軽量化されており、おかげで敏捷性を増して活き活きとした感じになっている。

サスペンションはSTよりも明らかにしなやかなので、子供を乗せるなら断然こちらの方が適しているし、STほどの鋭いハンドリングが不要ならばぴったりだろう。

インテリアは普通のフィエスタと変わらない。ダッシュボードは面白いデザインだし、質感も(ポロやアウディには劣るが)十分だし、遊び心も感じられる。

STが6速なのに対し、レッドエディションは5速MTなので、高速巡航時はSTよりもやかましい。ただ、多段化すれば当然コストもかさむだろうし、どちらにしても22km/Lの燃費は実現している。

再びヴェイロンの話題に戻ろう。ブガッティは450台のヴェイロンを製造したのだが、顧客は350人しか存在しない。つまり、2台以上購入した顧客が複数いるということだ。それどころか、中には1人で9台購入した強者もいるそうだ。

しかし、フィエスタ レッドエディションなら、1台買うだけで十分に楽しむことができる。


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