イギリスの大人気自動車番組「Top Gear」でおなじみのジェレミー・クラークソンが英「The Sunday Times」に寄稿した試乗レポートを日本語で紹介します。

今回紹介するのは、1995年に書かれたジャガー XJRのレビューです。


XJR

今朝は非常に寒く、外を重い足取りで歩いていた郵便配達員を見て、自分の仕事は少なくとも彼よりはましだろうと感じた。私の机の上には自動車メーカーから送られてきた海外旅行への招待状が山積みになっていた。それに、家の外には試乗車として借りていたレンジローバーやポルシェ・911、フィアット・チンクエチェント スポルティング、ミニクーパー、ボルボ・T5、そしてジャガーがあった。

ただし、郵便局員にはちょっと仕事のこつさえ覚えればなれるのだが、自動車評論家になるためにはかなりの表現力が必要だ。車の評論とは史上最も不確実な仕事だ。結局は個人の好き嫌いの問題であり、残念ながら車それ自体の実力とはほとんどあるいはまったく関連しない。

私は基本的にジャガー・XJSが大好きなのだが、以前、雨の中、頭痛と肩こりに苦しみながらこの車に試乗したところ、この車が嫌いになってしまった。

トヨタ・スターレットもそうだ。これはかなりの駄作なのだが、この車の試乗をした時には道が空いていて空も晴れていて、まるで天国のような環境だった。ポルトガルの山道でスターレットを運転したときが、私の人生で最高のドライブだ。

ここまで読んでもらって、自動車の評論の不確かさを理解していただけたことだろう。もし自動車評論家が合理的な判断をすれば、世界最高の車を一台に絞ることができるだろう。しかし、我々はそんなことはしない。

自分自身の中ですら意見が一致していない。この2年間で私の一番のお気に入りの車は4台がせめぎ合っていた。ダッジ・バイパー、アストンマーティン・ヴァンテージ、エスコート コスワース、フェラーリ・355だ。そして、そこに5台目として加わったのがジャガー・XJRだ。

最初にこの車を試乗したとき、私はスコットランドにおり、お腹が空いていた。スコットランドの料理は料理とは到底言えず、大して食事を摂ることができなかった。

その時は雨が激しく降っており、325PSのエンジンと濡れた路面の相性はハギスとチョコレートの相性と同じくらいに最悪だった。その時点でもこれが良い車だということは分かったのだが、後にイングランドで再度試乗すると、この車の凄さは「良い車」なんて言葉では表現しきれないことを理解した。滅茶苦茶に楽しい車だ。

2回目の試乗時はもう深夜にほど近く、闇に包まれたM40は100km以上にわたってガラ空きだった。オーディオからはボブ・シーガーが流れ、空には星がきらめいていた。静かに、穏やかに、滑らかに、XJRはその強大な力を解き放ち、そして轟音を響かせた。ジャガーにしては珍しく、タイヤノイズもそれなりにあった。

一般道での実力も試したかったので、一度下道に降りることにした。頭の骨を外して中に泡立て機を挿入する状況を想像してみて欲しい。この車はそれくらいに衝撃的だ。

ステアリングは完璧で、前輪の状況が手に取るように分かるし、後輪の状況もはっきりと伝わってくる。まるでテレパシーだ。

もし万が一限界を超えてしまったとしてもトラクションコントロールが丁寧にアクセルを緩めてくれる。

それに、4Lの6気筒スーパーチャージャーエンジンは至高の逸品だ。燃費はせいぜい5km/L程度なのだろうが、タコメーターはレッドゾーンに向かって常に回りたがるし、ATの変速は滑らかなので、正直言って3km/Lだろうが我慢できる。ガソリン代の負担なんてなんでもない。

コーナーではまったくロールしないで曲がることができるし、アールズ・コート通りの凸凹も見事にいなしてくれる。

この車の域に少しでも近付ける車はBMW M5くらいしか存在しない。それに、M5は5万2,000ポンドである一方で、ジャガーはわずか4万5,000ポンドだ。

確かに、雨の中でXJRを運転するのに比べたら、晴れた日に素晴らしい道をもっと別の車で走ったほうがいいのかもしれない。しかし、それでも現時点において、ジャガー・XJRは世界最高の車だ。


20 years of Clarkson: Jaguar XJR review (1995)