イギリスの大人気自動車番組「Top Gear」でおなじみのジェレミー・クラークソンが英「The Sunday Times」に寄稿した試乗レポートを日本語で紹介します。

今回紹介するのは、2013年に書かれたマクラーレン・12Cスパイダーのレビューです。


12C Spider

MP4-12Cという変な名前の車について最初にレビューしたとき、科学的にはあらゆる点でフェラーリ・458イタリアに勝っていると言った。しかし、この車にはきらめきが、魅力が、楽しさが欠けている。あまりにもハイテクで、魂が抜けている。なので、私ならフェラーリを選ぶ。

私と同じような考えの評論家は多く、マクラーレンも早急に解決策を練り上げた。そして、排気系をチューニングしてより下品な音を響かせるようにした。それに、パワーも向上したし、使い物になるドアハンドルが取り付けられた。さらに、12Cスパイダーという、MP4-12Cよりは多少ましな名前の屋根なしモデルが登場した。

この結果、車は大変身した。まるで、成人向け映画でよくいる、普段は大人しいが、ベッドでは性獣へと豹変する女性のようだ。

イギリス人はオープンカーが好きだ。ヨーロッパの中ではおそらく最もオープンカーが売れている。その理由は単純明快だ。イギリスでは晴れの日が極端に少ないため、せっかくの晴れの日を屋根のついた車に乗って無為に過ごしたがらない。明日になれば太陽がなくなってしまうと知っているので、可能な限り堪能したがる。

ただし、制限は存在する。38歳を超えるような男は他人の目がある中でルーフの開いた車になど乗るべきではない。太陽の中、オープンカーを駆ける自分の姿は恰好良いと勘違いしているかもしれない。優雅に見られていると思うかもしれない。しかし、周りから見れば、こいつはアソコが使い物にならなくなっているのだろうとしか思われない。

しかし、そんなことはどうでもいい。私は屋根を開けて運転したい。オープンカー特有の音も好きだし、時間や空間を突き抜けるような感覚も好きだ。オープンカーに乗ると興奮できるので、車自体の出来などどうでもよくなる。髪の毛が逆立っている状態でハンドリングについて考えるのは、ミツバチの群れに襲われている時に足の爪の長さについて考えるようなものだ。

一般に、屋根のない車の乗り心地やハンドリングは屋根のある車に比べると劣る。最近の車がモノコック構造をとっているのもこれに関係している。昔は車の前後が2本のレールだけで繋げられていたが、今の車はフロアとルーフで繋げられている。その接続部分の50%をなくしてしまうということは、補強材を追加しなければならないということであり、そうなれば a) 車重が増加する b) 十分な強度は確保できない。オープンカーは剛性感に欠ける。オープンカーに乗るような人も同じくらいに軟弱だ。

しかし、マクラーレンは違う。基となる車の屋台骨が非常に強固なため、補強材を追加する必要性が存在しない。つまり、電動ルーフの追加分を除けば車重は増加しないし、剛性が低下することもない。結果、屋根付きのモデルとほとんど同じ走りを実現している。非常に不思議な感覚だ。魔法の力でも使っているかのようだ。

この車以上に優秀なステアリングなど存在しない。このステアリングは非常に軽く、となるとステアフィールなどなさそうに思える。しかし、ステアフィールはかなりあり、スズメバチを踏んだ場合、オスかメスかまで判別することができる。結果、グリップがいつ失われるかも正確に感じ取ることができる。つまり、完璧に車を操作することができる。

しかし、主役はドライバーではない。コンピューターだ。コンピューターをオフにすることもできるのだが、スペースシャトルの船長が30分かけてようやくできるような作業だし、そんなことをする意味もない。コンピューターはしっかりと訓練された執事のごとく、見事に補佐をしてくれる。この車のトラクションコントロールは史上最も出来が良い。

この車の骨格は非常に強固で、スタビライザーが付いていないため、車輪間には一切の接続が存在しない。すべてがコンピューターによって制御されている。この結果、相当に高いコーナリングスピードを実現している。サーキットでこの車の域に近づけるような車は存在しない。

フェラーリ・458イタリアに乗っているとしても、マクラーレン・12Cを追いかけようなどとは考えてはいけない。恥をかくか、あるいは死ぬかのいずれかだ。

この車が本当に凄いのはここからだ。物理法則を捻じ曲げ、コーナリングのGフォースで首を痛めたあと、サーキットを出て帰路につくと、12Cはロールス・ロイス ファントムと同じくらいに快適になる。マッハ3でコーナリングできる一方で、あらゆる凹凸を浮くようにいなしてくれる。上でも書いたが、まるで魔法だ。

要するに、この車は技術的には素晴らしい。驚異的だ。圧倒的だ。しかし、車として考えればどうだろうか…。

この車には問題点がいくつかある。例えば、車内に入るために跳ね上げ式のドアを開けるたび、窓が目に直撃してしまう。それに、背が高い人にとっては車内が狭い。ナビは使いものにならない。2時間は鯖を読んでいるし、ルーフを開くとスクリーンが見えなくなってしまう。

この車ではあらゆるものが調節できる。ウェイストゲート音の音量すら調節できる。ただし6歳児にしか使えない。メニューの文字が2ptなので普通の大人には読むことができない。600馬力のオープンカーで300km/hを出している状態ではルーペだって使えない。

これだけ欠点があればフェラーリを選びたくなるはずだ。ただ、フェラーリのステアリングは理解不能だし、計器類のデザインも異常だ。結局、どちらを選ぼうと長所と同じくらいに短所がある。スーパーカーとはそういうものだ。

そう考えると、どちらを購入するべきか選ぶのは難しいように思える。しかし、実際はそれほど難しくない。2台とも似たような車で値段も同じくらいなのだが、中身はまったく違う。

マクラーレンはいわば三ツ星レストランだ。料理は素晴らしいし、サービスもきめ細やかで、トイレは綺麗だし、冷暖房も完璧だ。細部にわたって配慮されており、個性を出すために魅力的なウェイターを雇っている。

一方、フェラーリはウェイターが馬鹿でかいペッパーミルを持ち歩いている騒々しいイタリアンレストランだ。どちらもレストランであることに変わりはない。どちらも良い店であることに変わりはない。しかし、両者はまったく違う店だ。なので、どちらが良いかなんて判断できない。それぞれが好きな方を選べばいいし、どちらを選ぼうと、決して後悔することはない。


The Clarkson review: McLaren 12C Spider (2013)