イギリスの大人気自動車番組「Top Gear」でおなじみのジェレミー・クラークソンが英「The Sunday Times」に寄稿した試乗レポートを日本語で紹介します。

今回紹介するのは、2004年に書かれたMG ZT 260のレビューです。


MG ZT 260

12歳のロシア人がTVRを買収したというニュースが流れ、もうイギリスの自動車産業は終わったかのように思えた。イギリス車は死んだ。

しかし、何か忘れてはいないだろうか。喉までは出かかっている。何かあったはずなんだ…。ああ、そうだ。ローバーだ! ブリティッシュ・レイランドという墜落機から唯一残った無傷な翼だ。

ミニやランドローバーは剥ぎ取られてしまったし、ライレーやウーズレーといったブランドの商標権は現在BMWが所有している。しかし、MGローバーはまだロングブリッジにちゃんとある。何千人もの従業員がいる。現役のメーカーだ。

しかし、今やもう瀕死の状態にある。販売台数は急降下している。ローバーの販売台数は年間で19%減少しているし、MGも6%減少している。

問題なのは、MGローバーの販売している車が購入者よりも年季が入っているという点だ。例えば、ローバー・45はラムセス3世が即位していた時代に登場したモデルだし、MG TFは草木染めでボディカラーが塗られている。それに、MGローバーは車の開発に本来必要な金額の10分の1しか捻出できていない。

MGローバーは既にインドとタイアップして高価な駄作、シティローバーを生み出しているし、中国との提携話も現実味を帯びてきている。上海汽車 (SAIC) が買収するのではないかという噂もあるのだが、どうしてMGローバーなんかを欲しがっているのかはよく分からない。

上海汽車は既にフォルクスワーゲンやゼネラル・モーターズと合弁事業を行っている。これはジョージ・ベストがチェルシーと契約するような話だ。中国人がイギリスの自動車技術を欲しているなら、ただ技術者を何人か引き抜けばいい話だ。ヨーロッパに工場を手に入れたいにしても、どうしてバーミンガムのロングブリッジなんかにある工場を買収するのだろうか。サン・トロペにでも新しく工場を建てたほうがいいのではないだろうか。

もちろん、私は半袖シャツもゴルフクラブもフリーメイソンのローブもブリティッシュ・エアウェイズのロイヤリティカードも持っていない。つまり、私はビジネスについて何の知識もない。私はあくまでもローバーの新型車を批評する立場にある。というわけで、本題に移ろう。

試乗車に乗り込もうとすると、どこか見覚えがあるように感じる。それも当然のことだ。このドアはローバー・75とまったく一緒だ。それどころか、車の大部分は購入者の平均年齢から名付けられたことでもおなじみの75そのままだ。

インテリアにも同じことが言える。おなじみの巨大なステアリングがあり、昔ながらのパブのような雰囲気も変わらない。あちこちがアンティークでハーフティンバー様式だ。

ここまで見ればもう車から降りて代わりにアウディを買いたくなるはずだ。しかし、もう少し我慢して欲しい。Radio 4のような外套の内には、フォード・マスタングと共通の4.6L V8エンジンが眠っている。

1気筒あたり2バルブのこのエンジンは、別に先進的というわけでもなければ相当にパワフルというわけでもないし、かといって経済性が高いわけでもない。しかし、ローバーの技術者は見事なチューニングを施し、素晴らしい音とフィールが生み出されている。

P-51戦闘機に使われていたマーリンエンジンと同じく、英米の共同作業はドイツ製品ほどには優秀ではないものの、非常にカリスマ的で愛すべきものに仕上がっている。

それに、ベース車が前輪駆動なのでトルクステアがありそうなものなのだが、このモデルの場合、プロペラシャフトを介して後輪に駆動力が送られる。要するに、フランク・フィンレーのような外見にもかかわらず、その中身は実質的に後輪駆動のV8マッスルカーだ。

後輪駆動であることは重要だ。BMW 1シリーズの人気の理由は後輪駆動であるからにほかならない。BMWの人間は、1シリーズの見た目が最悪だということも、実用性が全くないということも知りながら、それでも後輪駆動というだけの理由で1シリーズにゴーサインを出した。

MGローバーにも似たような哲学がある。ボディも、シートも、ステアリングすらも75と共通にした。そして、なけなしの予算を後輪駆動に改造することだけに費やした。

結局、後輪駆動に勝る車は存在しない。前輪駆動車の場合、前輪が駆動と操舵という2つの仕事を同時にしなければならないので、うまくいくはずがない。マルチタスクに長けた雌の前輪であろうと、どうしても不調和は感じ取れてしまう。前輪駆動車はピュアではない。

一方、後輪駆動車の場合は仕事が前後輪に平等に振り分けられる。これで成功が約束されるわけではないのだが、少なくとも成功の基礎は整う。

そして、MG ZTではこれが成功している。見事だ。この車で飛ばせば、この車の内側、奥底に自分が入り込み、車と同化することができる。ステアリングからは余計な信号は伝わらず、必要な情報だけがしっかりと伝わってくるため、自信を持って踏み込むことができる。そして、踏めば踏むほどに味わい深くなる。

ハンドリングには相当な鋭さがある。まるで駆逐艦のようだ。実に見事だ。2度、Top Gearの収録前に目覚まし代わりにこの車を運転した。この車に乗るとアドレナリンが湧き出てきて、自分が車を愛しているということを改めて実感することができる。

では、この車を買うべきなのだろうか。実のところ、そうは思えない。この車には欠点がたくさんある。左足を置く場所がないし、50馬力ほど物足りない。

それに、ローバーの未来自体にも不安がある。車を買っても、その5分後にもう保証も点検も受けられなくなってしまうかもしれない。

しかし、一番の問題は、かつてボルボに乗っていた下手糞どもがこぞってローバーに乗り換えているという点だ。オックスフォードで長い渋滞にはまったら、その先頭ではほぼ確実にローバー・216が右ウインカーを出しながら延々と右折待ちし続けている。

私がよく行く町にはダブルラウンドアバウトがあるのだが、そのど真ん中にはほぼ必ず恐怖に震えて立ち往生しているローバー・416がいる。私はこんな人間と同類になりたくはない。

なので、ローバーの上層部に言いたい。新興国の企業と合弁事業をしようなんて考えるべきではない。レッド・ロッボや無能な経営陣、BMWのせいで傷付いた会社を立て直すためには、独力でやるべきだ。チャーチルのポーズをして「我々は断じて降伏しない」と宣言するべきだ。

そして、帽子をかぶるような人間にローバーを売ることをやめるべきだ。

先に書いたように、私はビジネスマンではないし、私の意見はまともではないかもしれない。しかし、もう後がないのは事実だ。


MG ZT 260