今回は、米国「Car and Driver」による新型フォード・フォーカスRSの試乗レポートを日本語で紹介します。


Focus RS

まず、フォード・フォーカスRSについて軽く紹介しよう。フォードはこの1年間、フォーカスRSの広報活動に力を入れてきた。ネット上では数多くのバイラルCMが配信された。

従来のフォーカスRS同様、新型も基本的にはヨーロッパで設計されている。しかし、これまでのモデルとは異なり、アメリカを含め世界中で販売される。アメリカでは3万6,605ドルで販売され、フォルクスワーゲン・ゴルフRやスバル・WRX STIと直接対決することになる。これは米国フォードにとって未知の領域だ。

試乗はベルギーのロンメルにあるフォードのテストコースで行われた。その日のために他の開発車両はどこかへ追いやられ、現実世界を模した全長80km超のコースが我々のために開放された。

フォーカスRSと最初に対面したときには、特に目新しさを感じなかった。確かにフォーカスSTに比べればボディも筋肉質になっているし、リアウイングやエアベントも大型化されているのだが、果たして夜中にSTとRSを見分けられるだろうか。それは無理そうだ。

室内に関しても同様で、ところどころに"RS"と書かれていたり、青いアクセントがあったり、レッドゾーンが高くなっていたりする以外には、どこにも違いは見当たらない。なにより、トランスミッションの横にあるドライブモードセレクターがほとんど変わっていなかった。

最初、我々は助手席に乗り、運転席のフォードの技術者からコースの説明を受けつつ、暴力的なコーナリングを見せつけられて朝食を戻しそうになったりもして、それからようやく我々が運転する番となった。

試乗時間は限られていたので、できるだけ無茶な運転をしてやろうと思った。しかし、同乗したフォードのエンジニアは怖そうな人だったし、雨が降っていた上に道端にはほかのフォーカスRSが突っ込んでおり、危険だと判断したので少し慎重に運転することにした。

駐車場を出て100mも走ると、マスタングEcoBoostに搭載されているエンジンとRSのエンジンは別物だと理解した。いずれも基本的には同じエンジンなのだが、RSには横置きされている。また、RSにはよりパワフルなツインスクロールターボチャージャーが搭載されており、過給圧の増加・350馬力という驚異的な最高出力にも耐えられるように内部構造が変更されている。マスタングよりもずっとパワフルに感じたし、高回転域での息切れ感もなくなっていた。低回転域ではターボラグがあるのだが、一度ターボがかかってしまえば、6,800rpmで燃料カットが始まるまでずっと力強く加速していく。

各社が過給器による不自然さを消そうと躍起になっている現代の基準で考えると、フォーカスRSのエンジン特性には違和感を覚えるかもしれない。しかし、すぐに慣れるだろうし、慣れればとても楽しい。この車には実直さがある。昔のインプレッサWRX STIやランサーエボリューションに比べれば、フォーカスRSの方がずっとパワフルだしスロットルレスポンスも優れているのだが、その奥底にはこの2台と同じ魂を感じる。これは賛辞だ。

interior

普段使いのスピードで走らせれば、走りはSTとほとんど変わらない。ただ、STが可変ギアレシオステアリングを採用している一方で、RSは固定レシオを採用しているため、最初のレスポンスは少し鈍く感じる。6速MTのフィールはフォーカスSTとまったく同じで、実に見事だ。乗り心地は少し硬くなっているし(アジャスタブルダンパーが標準装備される)、排気音も少し過激になっている。

フォーカスRSでは、速さのためにシャシが強化され、4WD化されている。後輪には左右それぞれにクラッチが繋がっており、リミテッドスリップデフのように左右のトルク配分を変化させることができる。最大70%のトルクを後輪に送ることができ、そのうちで左右の駆動力配分は0:100から100:0まで自在に変えることができる。

ロングコーナーでペースを上げてみたのだが、前輪がグリップを失い始めると、後輪が見事に狙ったラインに押し戻してくれた。ハードなコーナリング中は後輪の方が前輪よりも速く回転しており、まるで後輪駆動車のようにきびきびと走ることができる。ここからさらに飛ばすと、ドライブモードによって起こることは変わってくる。ノーマルモードだとニュートラルな状態に保とうとするし、スポーツモードだと後輪が滑り出す。トラックモードだと見事なオーバーステアが起こる。

しかし、これだけでは満足できない人もいるかもしれない。そんな人のためにあるのがドリフトモードだ。これが発表された時にはインターネット上でかなり炎上が起きた。このモードはテストコースでは試させてもらえず、代わりに施設内の広大な敷地で試させてもらった。ドリフトモードを選択したら、ステアリングを大きく回しながらアクセルを踏み込むだけでいい。すると、最初に少しだけアンダーステアが起こり、それから駆動力の大半が外側の後輪に送られ、煙まみれのオーバーステアが引き起こされる。

やろうと思えばその場でぐるぐると回り続けることもできるのだが、高速域でドリフトモードにするとスタビリティコントロールが介入してドリフトはむしろやりづらくなる。数秒間以上スライドを維持するのは難しいのだが、大半のオーナーにはこれでも十分だろう。

テストコースでの試乗では、フォーカスRSは素晴らしい車だと感じた。現実世界でどれだけ活躍してくれるかはまだ分からない。新型フォーカスRSにはかつてのRSにあったような荒々しい魅力はないのだが、グローバル向けの車にしようという目標は達成できているように思う。

フォードはRSというモデルを50年近く作ってきたのだが、アメリカ人はその間ずっと自国での発売を待ち望んできた。大西洋を渡ってアメリカにやってくる最初のRSは、ひょっとしたらRSの最高傑作なのかもしれない。


2016 Ford Focus RS