イギリスの大人気自動車番組「Top Gear」でおなじみのジェレミー・クラークソンが英「The Sunday Times」に寄稿した試乗レポートを日本語で紹介します。

今回紹介するのは、2008年に書かれたキャラウェイ・コルベットのレビューです。


Callaway Corvette

今や、商業的に成功したいのであれば世界を見据える必要がある。ハンバーガーだろうが、おもちゃだろうが、イチゴだろうが、ウェブサイトだろうが、スポーツだろうが、アリススプリングスでもコロンビアでも受けるようにしなければならない。

しかし、意外かもしれないが最大の問題はアメリカにある。ここは世界で唯一フットボールのことをサッカーと呼ぶ国で、ラウンダーズやネットボールの方がサッカーよりも盛んだ。なので、真っ当な枕を開発したとしても、アメリカ人よりもピグミー族に売る方が簡単だろう。

これは、トニー・ブレアがよく言うところの「特別な関係」にも通ずるところがある。アメリカ人は自国の防衛のためにイギリスに核ミサイルを備えた基地を作ることができるし、イギリスがそのミサイルの標的になることだってありうる。それに、アメリカ人はイギリスに犯罪者の引き渡しを要求することもできる。しかし、イギリス人にその逆をすることはできない。要するに、アメリカと世界の関係はいつも一方通行だ。

我々はアメリカのコンピューターを買わされ、ジーンズを買わされ、食習慣を押し付けられているのだが、それでもサウスダコタにはイギリス製品などほとんど輸出されない。一般的なアメリカ人にとって、「外国」とはカナダかメキシコのことをいう。それよりも遠い国はNASAの領分だ。イギリスなど宇宙の最果てだ。

アメリカ人がイギリスの自動車番組を見ることもないだろう。Top Gearはヒマラヤの村からレバノンの紛争跡地に至るまで、世界中で放映されている。輸出に大成功した番組だ。しかし、アメリカでTop Gearを見ているのは、BBCアメリカしか見ないイギリス出身者と、違法ダウンロードでオンライン動画を見ている人くらいだ。

その理由の一つは、こと自動車という分野においては、英語という言語が英米でまったく違うことにある。motorwayも、pavementも、bonnetも、bootも、roofも、bumper barも、petrolも、coupéも、saloonも、people carrierも、cubic centimetreも、cornerも、アメリカではまったく通じない。

英米の戦闘機パイロット同士が話しても、必要な情報はちゃんと通じる。しかし、フィアット・プント「ハッチバック」を「バイパス」で試乗したという表現はまったく通じない。アメリカでは"centre"という綴りは通用しないし、ガロンという単位に至ってはそもそもの定義が違う。

それから、発音の違いも問題になる。ジャグワー、テーヨーダ、ニーサーン、ホンディ、ミツブーシ、BMドゥビャ、Vドゥビャ…どれも通じない。

しかも、番組の内容が理解できないだけでなく、車の進行方向すらも真逆だ。アメリカの自動車メーカーを販売台数で追い越した海外メーカーが登場したのはつい最近の話だ。

では、アメリカで売られている車とはどんな車なのだろうか。チェシャーは例外だが、ヨーロッパ人ならばビュイックに乗るくらいなら梅毒に罹ったほうがましだと思うはずだ。

我々はアメリカのコカ・コーラを買い、アメリカのiPodを買い、モータウンの楽曲を購入しているのだが、では車はどうだろうか。遠慮しておきたい。アメリカ車を購入するのは、他に選択肢があるのにわざわざジェイド・グッディとセックスをするようなものだ。

これは妙だ。ビル・ゲイツが世界中に二進数を売りまくっている一方で、どうしてゼネラル・モーターズが車を売ることはできないのだろうか。私もその理由を知りたい。それが分かれば、先日ロサンゼルスで乗ったキャラウェイ・コルベットを欲しいと思わなかった理由も分かるだろう。

キャラウェイは昔からコルベットのチューニングを行っている企業なのだが、必ずしも優れた仕事をするわけではない。大昔、私が最初に乗ったキャラウェイのモデルにはターボチャージャーが2つ付いていた。おかげでエンジンはかなり強力になっていた。あまりに強力だったので、車を走らせようとした時にクラッチが粉々になった。

しかし、それからキャラウェイは努力を続けた。そして今やル・マンで戦うコルベットを作っている(ただし、まともに戦えているわけではない)。しかも、今やキャラウェイはアメリカ中に工房を持っており、ドイツにまで進出している。

キャラウェイの規模はかなり拡大した。それに、嬉しいことに、パワーだけ上げてそれ以外の部分には手を付けない、という手法はもうやめている。

私が運転したのはワンオフのデモ車両で、アンティグアと同じくらいの大きさのイートン製スーパーチャージャー(当然メッキ加工だ)が付いていた。あまりに巨大なので、ボンネットには大きく膨らんでいた。この車は過去に一度だけ0-100km/h加速をすることができたのだが、その際にシャシが半分に割れてタイヤが外れてしまった。

この車にはストップテック製のレーシングブレーキやアイバッハ製マルチプロサスペンション、マグネシウムホイール、カーボンファイバーなどが用いられており、全身のコンポーネンツが強化されている。この車はパワーアップしたV8エンジンが発揮する625PSの出力に耐えられるように設計されている。

625PSという数字は莫大だ。フェラーリ・599にも並ぶレベルの出力だ。にもかかわらず、この車は9万2,500ドルをわずかに上回る程度で買える。これは現在の為替レートを考慮すると、およそ35ペンス相当だ。

最初、時差ボケのせいで運転どころではなかったので、同乗者に運転してもらった。ところが、発進しようとしたらエンストして、それからおよそ600km/hまで加速してジグザグに暴走しはじめた。

なので帰り道には鍵を奪い取ったのだが…自分で運転しても同じことが起きた。クラッチはまるでスイッチのようだったし、トランスミッションはまるでマンチェスター船舶運河の閘門だった。もし奇跡的にまともに変速できたとしても、ハリウッド超大作のような爆音轟く極超音速の世界に放り込まれ、耳からは血が流れ、スピードメーターの数字など信じられなくなる。私はこの車を猛烈に気に入った。

最近の欧州車や日本車は電子制御という名のカーテンでスリルを覆い隠してしまっており、排気音も人工的に調律されている。M5のような車を運転すると、コンドームを着けてセックスをしているような気分になる。コルベットを運転すると生でしている気分になれる。

もちろん、この車にはコルベット全モデルに共通してある問題がある。ダッシュボードは煙草の箱の包装に使われているようなセロハンから作られているし、猿が組み立てたとしか思えないし、技巧だの絶妙だのという言葉とは無縁だ。しかし、キャラウェイが注入したパワーのおかげで、こんな問題など気にも留まらない。傷んだ肉に激辛ソースをかければ気付かないのと同じだ。

独立記念日に他国に攻撃されて以来使われていないエルトロの飛行場跡で走らせると、まるで名馬と野生のライオンの間の子のごとく吠え駆け回る。そこからロサンゼルスまでの帰り道は渋滞していたのだが、他の車を威圧するかのように唸り声を上げ、道を開けさせた。

ロサンゼルスの中心部に入り、さらに道が混んでくると、この車に魔法がかかった。ジンバブエもびっくりの道の凹凸を見事にいなした。バンプを乗り越える時にはスケートボードのような乗り心地になったコルベットZ06よりも、車としてよっぽど優秀だ。

キャラウェイは凄い車だ。この車はあまりに安く、馬鹿みたいにパワフルで、予想を遥かに上回るほどに快適で、見た目は美しい。それだけでなく、「コーナー」という単語が存在しない国で設計されたにもかかわらず、ハンドリングは実に見事だ。それに、この車は楽しさという概念を再定義している。

もし私がアメリカに住んでいたとしたら、迷わず購入していたことだろう。この車はアメリカに合った車だ。タンクトップを着たブルース・ウィリスだ。しかし、ここイギリスなら、ウェットスーツを着て仕事に行ったほうがまだましだ。

ステアリングの位置が間違っている以外、この車には何の問題もない。それに、楽しいだろう。速いだろう。一般的なアメリカ車とは違い、さほど巨大なわけでもない。

しかし、世間体を考えると、コッツウォルズでこの車を持つのは、E・M・フォースターの小説にシルベスター・スタローンを出すようなものだ。確かに、ランボルギーニほどには派手ではない。しかし、アメリカ車というものはイギリスではえてして場違いだ。それに、間抜けにも見える。

結局のところ、アメリカ車はどうあがいても国外では通用しないのかもしれない。おかしな話だ。