イギリスの大人気自動車番組「Top Gear」でおなじみのジェレミー・クラークソンが英「The Sunday Times」に寄稿した試乗レポートを日本語で紹介します。
今回紹介するのは、2004年に書かれたアウトデルタ・147 GTAのレビューです。

メーカーの規模が大きかろうと小さかろうと、ここで酷評を書くことを躊躇うことはない。しかし、私は基本的には弱くて意気地がないので、私同様に弱々しいワンマンバンドを酷評するのはどうも苦手だ。
おそらく、このワンマンバンドは何年もかけて冷暖房すらまともに使えない工房でプロジェクトを進めてきたはずだ。妻も息子も相手にせず、新しい「子供」を生み出すことだけに人生を捧げたはずだ。
そこで、私が乳母車の中を覗き込んで「こいつは醜い子供だ」なんて言おうものなら、彼は相当に落ち込んでしまうことだろう。しかし残念ながら、こういった車は醜くなる傾向にある。それに危険で実用性にも欠けていることが多い。
市販の工具で作られたような車はオーストラリアの砂漠や北極の氷上でテストされることはない。それに、安全性を確認するためにわざと衝突事故を起こすこともないし、信頼性を確認するために何千kmも延々とテストコースを走ることもない。
実のところ少数生産の車はほとんどテストなどされていない。私がこういった車を試乗したがらない理由はここにもある。もし事故が起こってしまえば、何が起きるかなどまったく想定できない。
しかしどうしたわけか、先日私の家に少数生産のチューニングカーがやって来た。アウトデルタという会社によってチューニングが施されたアルファ ロメオだ。他に運転できる車がなかったため、細心の注意を払って運転することにした。
もし車をチューニングするのであれば、アルファが一番適しているだろう。なぜなら、アルファ ロメオは自分で自分の車をチューニングすることがないからだ。ご存知の通り、イタリアのほとんどの自動車メーカーはフィアットに支配されており、それぞれのメーカーにそれぞれの役割が与えられている。
フェラーリの仕事は最後の最後までF1で勝ち続けることだ。マセラティの仕事は、中年のビジネスマンのためにソフトで実用的なフェラーリを作ることだ。フィアットの仕事は農民のための車を作ることだ。ランチアの仕事は、デザインにこだわるような成功者のためのフィアットを作ることだ。
そうして、イタリア全国民のための車が完成する。しかし、そうなるとアルファ ロメオの役割がなくなってしまう。他社と競合することも許されていないため、速すぎず、スポーティーすぎず、高級すぎず、スタイリッシュすぎず、かといってチープすぎない車を作らなければならない。別の言い方をすれば、わざと平凡な車を作るのがアルファの仕事だ。
幸い、アルファは平凡な車を作るのが下手だ。先週も166に試乗したのだが、この車はスペック的にはお話にならない。BMW 5シリーズよりも遅いし、固体ロケットブースターよりも燃費が悪いし、装備はほとんど何もない。
カップホルダーさえも付いていないので、リセールバリューは信じられないような勢いで落ちていくことだろう。明日この車を2万9,900ポンドで買うとしたら、1年後には1万3,000ポンドまで値落ちしているはずだ。今年のイギリスでの販売台数がわずか2台だけなのも当然の話だ。
しかし、政治的な平凡さの裏側は、本気で考え抜かれて設計されている。この車には魂がある。この車には個性がある。運転する一瞬一瞬が楽しい経験になる。もし私が大型セダンを買うとしたら、一切躊躇わずに166を購入するだろう。
しかし、こういった個性的な車に真っ当なパフォーマンスまで伴っていたらどうだろうか。フィアットの枷が外れたアルファが生まれたらどうなるのだろうか。そんな車が現実に誕生した。それこそがアウトデルタ・147 GTAだ。
この車の心臓であるエンジンにはアルファのV6が使われており、特別に手が入れられている。排気量は3.7Lとなり、ステンレススチールエグゾーストやフェラーリのスロットルシステムが採用され、マッピングも変更され、最高出力は実に333PSを発揮する。
それは実に結構なのだが、そもそも標準車は250PSの3.2Lエンジンにも対処できていない。アクセルをちょっとでも踏み込もうものならタイヤが暴れ始め、高価なピレリ製のタイヤがただの煙と化してしまう。
なので、どうして1.6Lモデルを買わなかったのだろうかと後悔することしかできない。しかも、いかに慎重に運転しようとしても、トルクステアがあまりに酷いため、どちらにしても木に突っ込んでしまう。
結局のところ、前輪だけでは大出力に対処することができない。操舵の仕事に集中できなくなってしまうため、結局はイタリアの怒れる馬力を切り離してやるしかない。
以前サーブの技術者に聞いたのだが、前輪駆動車が現実的に対処できるのはせいぜい220馬力くらいだそうだ。実際、サーブは250PSのエアロという扱いづらいFF車を生み出し、それを身をもって証明した。
にもかかわらず、アウトデルタは前輪駆動車に333PSのエンジンを載せた。頭がおかしいのだろうか。顧客だけでなく、車の近くにいる人達まで含めて皆殺しにしたいのだろうか。333PSのFFハッチバックを運転するのは、フル充填した銃を使ってロシアンルーレットをするようなものだ。酔っ払った状態で攻撃ヘリコプターを操縦するようなものだ。間違いなく事故を起こすし、間違いなく死ぬ。
この問題を回避するため、この車にはLSDが装着されている。となると嫌な予感がしてくる。フォードもフォーカスRSにLSDを装着したのだが、この車はコンディションの優れたサーキット以外で走らせると突然右に急旋回してしまう。前輪駆動車にLSDを装着しても無駄だ。冷や汗まみれになりながらフォーカスRSを運転して理解した。
なので、来世に思いを寄せつつ、感傷的な気分でアウトデルタに乗り込んだ。妻に涙ながらの別れを告げ、子供たちにハグをして家を出た。
事故が起これば大事故どころでは済まないだろう。この車はすごく速いどころの次元ではない。フェラーリのスロットルを使っているなんてことは関係ない。アクセルを踏み込むとミレニアム・ファルコンのハイパードライブ起動時のように加速する。空に点々と輝く星々が突如直線へと変わる。
0-100km加速は5秒、最高速度は282km/hだ。これほどまでにホットなハッチバックは前代未聞だ。
コーナーが近付いてきた。直後、コーナーはルームミラーの遥か後ろになってしまう。ステアリングを回し、絶大なグリップに驚いている暇もなくコーナーを抜けてしまった。まさにフジツボのグリップだ。
普通、前輪駆動車はタイトコーナーで内輪がスピンしてしまうため、外輪だけが操舵と出力伝達の両方の仕事をしなければならなくなってしまう。当然、そんな両立などできるはずもなく、アンダーステアになってしまう。しかし、アウトデルタのディファレンシャルが作動すると、内輪がスピンすることはなく、グリップし、もっとグリップし、さらにグリップする。
確かに、バンプに当たればタイヤはそれなりに暴れるし、低速でバックをする際には挙動がおかしくなってしまうのだが、それでもこの車は物理法則を大きく歪めてしまう。
そろそろ車の話はやめて、これだけの車を生み出した男の武勇伝でも語ったほうがいいのかもしれない。しかし、その前にいくつか欠点についても触れなければならない。
エアロパーツもなかなか酷いのだが、それ以上に乗り心地が酷い。私の試乗した車は22歳の若者の愛車で、ぜひとも保険料がいくらかということも聞いてみたいのだが、彼はセッティングを見事に間違えていた。この車に乗るのは、杭打ち機の先端に座るのと同じくらいに苦痛だ。
ただ、カタログを読むと、鋼鉄のダンパーとスプリングしか選べないわけではなさそうだ。まともなサスペンションを選択することもできる。それに、エアロパーツを取り外すこともできる。
これは値段にも関係する。私が試乗した車は4万ポンドで、スピードやグリップを考えれば今世紀最高のバーゲン品と言えるだろう。しかも、エンジンとディファレンシャルとタイヤだけを専用品にするなら、これ以上に安くなる。
それどころか、アウトデルタはアルファのほとんどのモデルにチューニングを行っている。166も、156も、GTVもだ。これは実に魅力的だ。アウトデルタが弄ったアルファは本物のアルファ ロメオだ。アルファ ロメオのバッジの付いたフィアットではない。
Autodelta 147 GTA
今回紹介するのは、2004年に書かれたアウトデルタ・147 GTAのレビューです。

メーカーの規模が大きかろうと小さかろうと、ここで酷評を書くことを躊躇うことはない。しかし、私は基本的には弱くて意気地がないので、私同様に弱々しいワンマンバンドを酷評するのはどうも苦手だ。
おそらく、このワンマンバンドは何年もかけて冷暖房すらまともに使えない工房でプロジェクトを進めてきたはずだ。妻も息子も相手にせず、新しい「子供」を生み出すことだけに人生を捧げたはずだ。
そこで、私が乳母車の中を覗き込んで「こいつは醜い子供だ」なんて言おうものなら、彼は相当に落ち込んでしまうことだろう。しかし残念ながら、こういった車は醜くなる傾向にある。それに危険で実用性にも欠けていることが多い。
市販の工具で作られたような車はオーストラリアの砂漠や北極の氷上でテストされることはない。それに、安全性を確認するためにわざと衝突事故を起こすこともないし、信頼性を確認するために何千kmも延々とテストコースを走ることもない。
実のところ少数生産の車はほとんどテストなどされていない。私がこういった車を試乗したがらない理由はここにもある。もし事故が起こってしまえば、何が起きるかなどまったく想定できない。
しかしどうしたわけか、先日私の家に少数生産のチューニングカーがやって来た。アウトデルタという会社によってチューニングが施されたアルファ ロメオだ。他に運転できる車がなかったため、細心の注意を払って運転することにした。
もし車をチューニングするのであれば、アルファが一番適しているだろう。なぜなら、アルファ ロメオは自分で自分の車をチューニングすることがないからだ。ご存知の通り、イタリアのほとんどの自動車メーカーはフィアットに支配されており、それぞれのメーカーにそれぞれの役割が与えられている。
フェラーリの仕事は最後の最後までF1で勝ち続けることだ。マセラティの仕事は、中年のビジネスマンのためにソフトで実用的なフェラーリを作ることだ。フィアットの仕事は農民のための車を作ることだ。ランチアの仕事は、デザインにこだわるような成功者のためのフィアットを作ることだ。
そうして、イタリア全国民のための車が完成する。しかし、そうなるとアルファ ロメオの役割がなくなってしまう。他社と競合することも許されていないため、速すぎず、スポーティーすぎず、高級すぎず、スタイリッシュすぎず、かといってチープすぎない車を作らなければならない。別の言い方をすれば、わざと平凡な車を作るのがアルファの仕事だ。
幸い、アルファは平凡な車を作るのが下手だ。先週も166に試乗したのだが、この車はスペック的にはお話にならない。BMW 5シリーズよりも遅いし、固体ロケットブースターよりも燃費が悪いし、装備はほとんど何もない。
カップホルダーさえも付いていないので、リセールバリューは信じられないような勢いで落ちていくことだろう。明日この車を2万9,900ポンドで買うとしたら、1年後には1万3,000ポンドまで値落ちしているはずだ。今年のイギリスでの販売台数がわずか2台だけなのも当然の話だ。
しかし、政治的な平凡さの裏側は、本気で考え抜かれて設計されている。この車には魂がある。この車には個性がある。運転する一瞬一瞬が楽しい経験になる。もし私が大型セダンを買うとしたら、一切躊躇わずに166を購入するだろう。
しかし、こういった個性的な車に真っ当なパフォーマンスまで伴っていたらどうだろうか。フィアットの枷が外れたアルファが生まれたらどうなるのだろうか。そんな車が現実に誕生した。それこそがアウトデルタ・147 GTAだ。
この車の心臓であるエンジンにはアルファのV6が使われており、特別に手が入れられている。排気量は3.7Lとなり、ステンレススチールエグゾーストやフェラーリのスロットルシステムが採用され、マッピングも変更され、最高出力は実に333PSを発揮する。
それは実に結構なのだが、そもそも標準車は250PSの3.2Lエンジンにも対処できていない。アクセルをちょっとでも踏み込もうものならタイヤが暴れ始め、高価なピレリ製のタイヤがただの煙と化してしまう。
なので、どうして1.6Lモデルを買わなかったのだろうかと後悔することしかできない。しかも、いかに慎重に運転しようとしても、トルクステアがあまりに酷いため、どちらにしても木に突っ込んでしまう。
結局のところ、前輪だけでは大出力に対処することができない。操舵の仕事に集中できなくなってしまうため、結局はイタリアの怒れる馬力を切り離してやるしかない。
以前サーブの技術者に聞いたのだが、前輪駆動車が現実的に対処できるのはせいぜい220馬力くらいだそうだ。実際、サーブは250PSのエアロという扱いづらいFF車を生み出し、それを身をもって証明した。
にもかかわらず、アウトデルタは前輪駆動車に333PSのエンジンを載せた。頭がおかしいのだろうか。顧客だけでなく、車の近くにいる人達まで含めて皆殺しにしたいのだろうか。333PSのFFハッチバックを運転するのは、フル充填した銃を使ってロシアンルーレットをするようなものだ。酔っ払った状態で攻撃ヘリコプターを操縦するようなものだ。間違いなく事故を起こすし、間違いなく死ぬ。
この問題を回避するため、この車にはLSDが装着されている。となると嫌な予感がしてくる。フォードもフォーカスRSにLSDを装着したのだが、この車はコンディションの優れたサーキット以外で走らせると突然右に急旋回してしまう。前輪駆動車にLSDを装着しても無駄だ。冷や汗まみれになりながらフォーカスRSを運転して理解した。
なので、来世に思いを寄せつつ、感傷的な気分でアウトデルタに乗り込んだ。妻に涙ながらの別れを告げ、子供たちにハグをして家を出た。
事故が起これば大事故どころでは済まないだろう。この車はすごく速いどころの次元ではない。フェラーリのスロットルを使っているなんてことは関係ない。アクセルを踏み込むとミレニアム・ファルコンのハイパードライブ起動時のように加速する。空に点々と輝く星々が突如直線へと変わる。
0-100km加速は5秒、最高速度は282km/hだ。これほどまでにホットなハッチバックは前代未聞だ。
コーナーが近付いてきた。直後、コーナーはルームミラーの遥か後ろになってしまう。ステアリングを回し、絶大なグリップに驚いている暇もなくコーナーを抜けてしまった。まさにフジツボのグリップだ。
普通、前輪駆動車はタイトコーナーで内輪がスピンしてしまうため、外輪だけが操舵と出力伝達の両方の仕事をしなければならなくなってしまう。当然、そんな両立などできるはずもなく、アンダーステアになってしまう。しかし、アウトデルタのディファレンシャルが作動すると、内輪がスピンすることはなく、グリップし、もっとグリップし、さらにグリップする。
確かに、バンプに当たればタイヤはそれなりに暴れるし、低速でバックをする際には挙動がおかしくなってしまうのだが、それでもこの車は物理法則を大きく歪めてしまう。
そろそろ車の話はやめて、これだけの車を生み出した男の武勇伝でも語ったほうがいいのかもしれない。しかし、その前にいくつか欠点についても触れなければならない。
エアロパーツもなかなか酷いのだが、それ以上に乗り心地が酷い。私の試乗した車は22歳の若者の愛車で、ぜひとも保険料がいくらかということも聞いてみたいのだが、彼はセッティングを見事に間違えていた。この車に乗るのは、杭打ち機の先端に座るのと同じくらいに苦痛だ。
ただ、カタログを読むと、鋼鉄のダンパーとスプリングしか選べないわけではなさそうだ。まともなサスペンションを選択することもできる。それに、エアロパーツを取り外すこともできる。
これは値段にも関係する。私が試乗した車は4万ポンドで、スピードやグリップを考えれば今世紀最高のバーゲン品と言えるだろう。しかも、エンジンとディファレンシャルとタイヤだけを専用品にするなら、これ以上に安くなる。
それどころか、アウトデルタはアルファのほとんどのモデルにチューニングを行っている。166も、156も、GTVもだ。これは実に魅力的だ。アウトデルタが弄ったアルファは本物のアルファ ロメオだ。アルファ ロメオのバッジの付いたフィアットではない。
Autodelta 147 GTA