イギリスの大人気自動車番組「Top Gear」でおなじみのジェレミー・クラークソンが英「The Sunday Times」に寄稿した試乗レポートを日本語で紹介します。

今回紹介するのは、2006年に書かれたケーニグセグ・CCXのレビューです。


CCX

今年のTop Gearは何もかもを刷新し、新コーナーも登場し、今までにないテレビ番組へと生まれ変わる…はずだった。我々は冬の間中ずっと知恵を振り絞って深夜まで残業し、BBC2で最も人気のある自動車番組に変化をもたらそうと努力していた。

具体的な内容を順を追って説明しよう。我々はコッツウォルズに新スタジオとトラックを建設することにしたのだが、車を走らせれば"汚染"が起きてしまうと地元住民に反対されてしまった。なのでこの計画は白紙撤回された。なので代わりの案を立てた。

別に反抗心を燃やしたわけではないのだが、イギリスで一番やかましい車は何かを決めようという案が出てきた。この決定戦は建設に反対した住人の住む村で毎週行う予定だった。実に素晴らしいアイディアだ。

また、旧式のスタジオを古臭く見せないため、同じ場所に新しいスタジオを建てることにした。しかも、建設される新スタジオは従来よりも50%大型化される。おかげで我々は俗に言う"クリスマスツリーシンドローム"に罹ってしまった。

ここで言うクリスマスツリーシンドロームとは何なのか、説明することにしよう。クリスマスツリーを購入するとき、自分の家を実際以上に大きいと思い込んでしまう。そして、家に入る大きさよりも4m以上大きなツリーを購入してしまう。

我々は新スタジオの大きさを過信して飾り物やらディスプレイやらを大量にスタジオに持ち込んでしまったのだが、実際にリハーサルをしてみると、オーディエンスどころかカメラすらスタジオに入らなくなってしまった。なのでいらないものをスタジオから出したのだが、するとなんと、前のスタジオとなんら変わらないスタジオが出来上がってしまった。

なので、今年のTop Gearは、The Cool Wallも、ニュースコーナーも、ロードテストも、司会者同士の諍いも、リチャード・ハモンドの歯も、何一つ変わっていない。唯一変わったのは、私に脂肪が増えて髪が減ったということくらいだ。

内容はどうだろうか。今年は、ミニバンのオープンカーという酷い車を自作した。車とカヌーで競争もしたし、それから、今回の主題の車に乗って"POWER"と叫んだ。その車こそ、ケーニグセグ・CCXだ。

ケーニグセグはスウェーデンのスーパーカーであり、米国で行われた公道レース、ガムボールラリーで389km/hという史上最高のスピード違反を記録した車だ。しかも、これを記録したのは旧式のパワーの少ないモデルだ。新型CCXはこれよりもかなり速くなっている。

ケーニグセグはクリスチャン・フォン・ケーニグセグという男により創設された。彼は技術的な知識こそなかったものの、ビジネスマンとしての情熱には燃えていた。そして、彼は一人の友人とともに自宅の部屋を改造し、ポケットマネーでFAXを購入し、会社を設立した。

ところが、彼の会社には製品が存在しなかった。2人はただ鳴らないFAXを見つめ続けることだけに時間を費やしていた。しかしある日、クリスチャンはエストニア人が金を余らせているということを突き止めた。そして、これこそがビジネスチャンスだと考えた。

彼はエストニア人が一番求めているのは鶏であると結論付けた。そして彼はアメリカのサプライヤーにFAXを送り、やがてバルト海のカーネルサンダースとなった。その後、今度は古紙から作った買い物袋を購入し、それをエストニア人に販売した。

彼は22歳の時点でかなりの財を成し、子供の頃のスーパーカーの夢を叶えることにした。しかも、スーパーカーを買うのではなく、紙とペンを取り出してスーパーカーを生み出そうとした。

エンジンとして選ばれたのはアウディのV8だったのだが、車が形になってきた頃になってアウディから零細企業に技術を供給するつもりはないと断られてしまった。その後、V12エンジンを製造しているイタリアのレーシング企業に目をつけた。しかし、その会社は倒産してしまい、結局ケーニグセグはフォードのV8エンジンを購入することにした。

ところが、今度は工場が燃えてしまった。その結果、クリスチャンの髪の毛がすべて失われてしまった。今や、クリスチャンに残された毛の数は、私の鼻毛の数よりも少ない。

それでもこの男は諦めることなく、美しい妻や自分の父親まで会社に引き入れ、2000年にCC8を発表した。それから、CCRを生み出し、そしてスウェーデン製の4.7L スーパーチャージャー付きV8エンジンを搭載したCCXが登場した。

このエンジンは非常にパワフルだ。普通のガソリンを入れると最高出力は817PSとなる。これだけでも凄いのだが、エコなバイオ燃料を入れた場合、最高出力は900PSを超える。要するに、この車はブガッティ・ヴェイロンと同列にある車だ。

ただし、完璧に同列とまでは言えない。400km/h超えの車を作るのはさほど難しいことではない。必要なのは、強大なパワーと滑らかなボディだけだ。しかし、400km/hの車を地面に留めておくのは難しい。それに、そこから減速させるのも難しい。これを実現するためには、多大なる予算と時間を費やさなければならない。

クリスチャンは金持ちといえど、1001PSのヴェイロンを生み出したフォルクスワーゲンと同列の金持ちではなかった。そのため、300km/hを超えると、ケーニグセグのリアエンドはよろめきはじめ、さらに加速を続けると次第に不安程度が増していき、スウェーデン製の火の玉に乗って天国の門をくぐることになってしまう。

なのでブレーキをかけざるをえないのだが、そうすると今度はフロントエンドもよろめいてしまう。そして、科学者ですら「恐怖の音」と形容するであろう音が響き始める。

クリスチャンはこれについて謝罪し、移動式ワークショップに戻ってブレーキバランスを調整した。すると、状況は劇的に変化した。それでも320km/hを出す気にはなれなかった。はっきり言うと、おそらくこの車はまだ未完成なのだろう。事実、コンピューターはオーバーヒートを繰り返し、何度もエンジンが不調になった。

しかし、数ヶ月もすればこんな問題は解決するだろう。そうであることを願いたい。とはいえ、もし問題が解決しなかったところで、この車にはスーパーカーとしての資質がある。

エンツォフェラーリはフル加速をするとクラッチを交換しなければならない。私の愛車でもあるフォード・GTは信頼性の面では目も当てられない。昨日エンジンスタートボタンを押したところ、リアのウインカーが点灯しただけに終わった。なのでまた工場に持っていく羽目になった。

では、ケーニグセグの良いところとは何なのだろうか。この車は320km/hでの空力性能が考慮されていないため、ウイングが付いておらず、見た目は非常に優れている。しかも、ルーフは脱着可能だし、室内は広く、クリスチャンが主要顧客層として見込んでいるアメリカのバスケットボール選手にも十分だ。

それに、運転していて非常に楽しい。この車が響かせる音はなんとも形容しがたい。大音量であり、311km/hでブレーキをかけた時に鳴る音をさらに増幅させたかのような音だ。ギャアアアアアアアアという感じの音だ。

しかも、火まで吹く。発進時には燃え残った燃料が熱によって着火し、エグゾーストから炎が吹き出す。私はこれが非常に気に入った。車間を詰めて煽ってくる人を遠ざけることができる。

この車はカーボンファイバーを使用しているため軽く、0-100km/h加速を3秒ちょっとでこなし、最高速度は402km/hとされている。ただし、コーナーで運試しをしてはいけない。グリップは確かに強大なのだが、それが失われればスピンしてしまう。グリップが失われた瞬間に一気にスピンしてしまうため、修正舵を入れている余裕など存在しない。この車で攻めれば死にかねない。

おかげで非常に刺激的だ。今や、スーパーカーの多くは洗練されすぎている。パガーニ・ゾンダにさえも年老いたラブラドールのような大人しさや優しさがある。しかし、ケーニグセグは違う。歯にドーベルマンの遺伝子を持ったテリアだ。スーパーチャージャーを持った恐怖の人間ハンターだ。


Koenigsegg CCX