イギリスの大人気自動車番組「Top Gear」でおなじみのジェレミー・クラークソンが英「The Sunday Times」に寄稿した試乗レポートを日本語で紹介します。

今回紹介するのは、2010年に書かれたパガーニ・ゾンダRのレビューです。


Zonda R

またクリスマスDVDを作ることになったので、たくさんの車で遊ぶことができる。メルセデス・ベンツ SLS AMG、フェラーリ・458イタリア、フェラーリ・599GTO、ポルシェ・911 GT3 RS、ランボルギーニ・ガヤルド LP570-4 スーパーレジェーラ、アリエル・アトム500 V8……口が乾いてしまいそうだ。けれどまだ、最大の目玉の車の名前を出してはいない。それこそが、つい先日にニュルブルクリンクの新記録を生み出したパガーニ・ゾンダRだ。

これらの獰猛で魅力的なスーパーカーたちを走らせる遊び場として選ばれたのは、イタリア・イモラにあるエンツォ・エ・ディーノ・フェラーリ・サーキットだ。イモラはほかのどんなサーキットとも違う。二輪車で走るなどもってのほかで、普通の車で走ろうものなら大怪我をしてしまう。ゾンダのような300km/hオーバーのミサイルにしか走ることが許されない。

まず私は、テレビゲームで走りを学んだレーシングドライバーの横に乗って1周した。タンブレロを通過するときには「ここでセナが死んだんですよ」と説明してくれた。ここでは私の友人もポルシェをクラッシュさせているし、ラッツェンバーガーがクラッシュしたのもここだ。不安でコースのレイアウトを覚えるどころではなかった。

イモラで大事故を起こしたドライバーの数は計り知れない。YouTubeで検索してみれば、怒涛のクラッシュ、タイヤスモーク、大炎上、無残な跡を見ることができるはずだ。

ゲルハルト・ベルガーが壁に激突して炎上した事故を覚えているだろうか。これもイモラで起きた事故だ。バリチェロが意識不明になって病院に担ぎ込まれた時のことを覚えているだろうか。これもイモラだ。それに、イモラはヴィルヌーヴの因縁の地でもある。イモラは数多くのレーサーの自我の墓場だ。そして1994年5月1日午後2時17分にはセナがここで命を落としている。

セナの死後、少しだけ危険が取り除かれたのだが、依然としてあまりにも危険だ。ラストコーナーを抜け、最終ストレートに入れば誰だってアクセルを踏み込む。しかし、イモラのストレートは実は直線ではない。コーナーだ。

そのため、セナの聖地に向かって全開の状態でステアリングを右へ左へと切ることになる。メルセデス・SLSのような車に乗っていればこの時点で265km/hは出ているはずだ。すると、サスペンションは癇癪を起こした子供のように暴れはじめる。タイヤはリムから剥がれかけ、ストレートになったらブレーキをかけなければならないと思うのだが、イモラにはストレートなど事実上存在しない。

イモラの怖いところは、広大なランオフエリアを有するアブダビやシルバーストンと違って、イモラのランオフエリアは数mほどしかなく、すぐ先には壁がそびえ立っているという点だ。セナが突っ込んだ壁。ベルガーが突っ込んだ壁。アルボレートが、ピケが、パトレーゼが突っ込んだ壁。

イモラ・サーキットは全周が壁に取り囲まれている。なぜなら、すぐその周りをイモラの街が取り囲んでいるからだ。イモラはストリートサーキットではないのだが、壁越しには木や民家が立ち並び、現実感を麻痺させる。

もちろん安全フェンスもあるにはあるのだが、フェンスの端が木の幹に繋がっていたりして、これが果たして有効なのかと疑問に思ってしまった。こんな場所では危険を冒すことなどできない。それに、閉塞感があるため、走っていると非常に速く感じる。コーナーはあまりにも多く、地獄への入り口のように思えてしまう。

ピラテッラ。リバッツァ。ヴィルヌーヴ。これらのコーナーを通り抜けるとき、ドライバーは車を運転しているのではなく、神に祈っている。コースアウトしてしまえばひとたまりもない。壁か木か、あるいは民家に突っ込んでしまう。イモラではちょっとしたミスが大事故に繋がる。大きなミスが致命的になる。

私はイモラを気に入った。最近のサーキットは多くが安全性を配慮して設計されている。けれどイモラは真逆だ。危険で、楽しく、挑戦的だ。私はそんなイモラが大好きだ。

それだけではない。普通なら、サーキットの周辺住民は騒音の苦情を言ったりするものなのだが、イモラの住人はサーキットに集まってフェンスに顔を押し付けている。それを見れば、走っている側もやる気が出てくる。

私は3日間、300km/hの平凡な車に乗ってイモラを走り回った。しかし、ゾンダRだけは非凡なマシンだった。

外見からは想像しがたいのだが、この車はレースのために作られているわけではない。なので、エンジンの排気量やらウイングの大きさやらといった面倒な規則に縛られる必要もない。しかし、この車は公道を走るために設計されているわけでもない。なので、方向指示器やらタイヤサイズやらといった規則に縛られているわけでもない。

この車は単純に速さを追求するためだけに作られている。130万ポンドという金額をただのおもちゃに払える人のために作られた車だ。

しかし、エンジンをかける時に別の疑問が頭に浮かんでくる。大半のサーキットには騒音規制がある。そういう場所にゾンダRで乗り付ければすぐに帰らされてしまう。要するに、このおもちゃはろくに遊ぶことすらできない。

ただ、幸いイタリアは騒音を好むのでゾンダRを走らせても大丈夫だ。それに、AMG製のV12 6Lエンジンを点火すると、フェンスの向こう側に集まっていた住人は雷が落ちてきたのかと一目散に逃げていった。

パガーニの創設者であるオラチオ・パガーニと対談することもできた。彼曰く、ゾンダRは「運転しやすい」そうだ。それは事実だ。無印のゾンダは見た目から想像するよりははるかに運転しやすい。

しかし、ゾンダRは無印のロードモデルとコンポーネンツをわずか10%しか共有していない。3,270点もの部品が新調されており、その中には、カーボンチタン製のモノコックボディやXtrac製のマグネシウムトランスミッションも含まれている。もはやレーシングカーだ。

しかし、室内に乗り込むとレーシングカーではないということに気付く。エンジンカバーにはレザーのストラップが付いている。ドアハンドルもレザーで包まれている。にもかかわらず、車重はミニと変わらずわずか1,070kgだ。それでいて、最高出力は750PSだ。まるでサイエンス・フィクションから飛び出してきたかのような数字だ。

右側のパドルを引くと1速に入り、アクセルに少し力を加えるとわざとらしさなどなく見事に走りはじめる。2速に入れ、3速に入れている間にピットレーンは通り過ぎる。4速に入れて最初の加速を行う。やりすぎないように落ち着いて。けれど、このエンジンにはモーターばりのトルクがある。4速で65km/hからアクセルを踏んでも、圧倒的な加速を得ることができる。うまくすれば0-100km/h加速を2.6秒でこなすことができる。

最高速度は誰も知らない。ただ、355km/h程度になると予想されている。私はファーストラップで320km/h近くを出したのだが、それでも岩のようにがっちりとしていた。見事な安定性だった。それに、ブレーキも驚異的だった。

専用設計のピレリ P ZERO スリックタイヤのおかげでシケインをほかのどんな車よりも20~30km/hほど速く通り抜けることができた。ただ、どれほど速くコーナーを抜けられるのだろうかという疑問には答えられなかった。そんなことは不可能だった。

私はパガーニ氏の意図が分かった気がした。この車はどれだけ飛ばそうとも余裕が感じられた。実際、この車がニュルブルクリンクで樹立した6分47秒という最速ラップはわずか2周して記録した数字だ。しかも、ドライバーはその日初めてゾンダRに乗ったそうだ。つまり、6分47秒というのはまだ全力ではない。

この車に並ぶことのできる車はフェラーリ・FXXくらいしかいないだろう。ただ、こちらはまだ運転したことがない。FXXはミハエル・シューマッハの運転でTop Gearテストトラックで1分9秒を記録している。では、ゾンダRはそれに勝つことができるのだろうか。この点についてパガーニ氏に問うたところ、彼はさも当然のように即答してくれた。「勝つに決まっている」と。

私はゾンダRが大好きになった。別に狂気ぶりや一点突破の潔さが気に入ったわけではない。舗装の凸凹だとか、悪天候だとか、交通渋滞だとか、交通法規だとか、レギュレーションだとか、そういったあらゆる枷から解き放たれた気分が味わえるからこそ、私はこの車を気に入った。天気のいい日にイモラでゾンダRに乗れば、ユートピアに足を踏み入れたような気分になれる。


The Clarkson review: Pagani Zonda R (2010)