イギリスの大人気自動車番組「Top Gear」の司会者の1人、ジェレミー・クラークソンが英「Top Gear」に寄稿した試乗レポートを日本語で紹介します。

今回紹介するのは、2006年に書かれたアルファ ロメオ・ブレラ 3.2 V6 Q4のレビューです。


Brera

この頃、環境活動家は世界中の専門家、世界中の科学者全員が環境問題に関して意見を同じくしていると言い張って議論を放棄している。しかし、彼らにとっては不都合な真実だろうが、そんなのは嘘だ。

真っ当な経歴を持つ真っ当な科学者の中には、人類が環境に与える影響は少ないと論じている人もたくさんいる。環境に対する影響など知り得ないとしている科学者はなお多い。

デンマークの著名な学者、ビョルン・ロンボルグは、長らくの研究の成果として『環境危機をあおってはいけない ―地球環境のホントの実態―』という本を著している。

エクソンバルディーズ号事故を例に挙げてみよう。この事故の直後、環境活動家がテレビの前に登場し、大きな災厄が起こるだろうと宣言した。油にまみれる海鳥がもがく映像がテレビで流された。それを見た視聴者は、燃費の悪い4WDに乗ったり、ちょっと寒くなっただけで暖房を付けている自分たちに非があるように思ったことだろう。

しかし、ロンボルグはニュースでは流されることのなかった事実を明らかにしている。確かにこの事故によって25万羽の鳥が死んだのだが、これはアメリカにおいて窓ガラスに激突して死ぬ1日あたりの鳥の数と変わらない。また、イギリスでは2日間で25万羽の鳥が猫によって殺されている。

京都議定書についても書くことにしよう。ジョージ・ブッシュがサインさえすれば世界が救われると信じている人も多いはずだ。しかしロンボルグはそれに異議を唱えている。

京都議定書は先進国の二酸化炭素排出量を2010年までに30%削減することを目標に掲げているのだが、ロンボルグいわく、これを実現しても2100年までの気温上昇を2106年まで先延ばしにすることしかできない。にもかかわらず、京都議定書の目標実現のためには年間1000億ポンドから3500億ポンドが必要だと言われているし、それ以外にも地球温暖化対策の名目で多額の金が使われている。

別の言い方をすれば、貧しい人、病気に苦しむ人に使うことができたはずの金を、2100年に海に沈むバングラデシュ人の家を守るために使っているということだ。それに、どちらにしてもその6年後に家は失われてしまう。

しかし、地球温暖化は人間のせいではないだとか、それほど悪いことではないだとか、技術の進歩により解決されるはずだとか、そんなことを言うような人間は、無視されるか、マスコミにこいつは狂人だと叩かれるかのどちらかだ。

環境活動の一部は平等を求める共産主義的視点から行われている。そういう人たちは決して怠け者の底辺層には攻撃を行わない。4WDで子供を送迎する母親や、飛行機でプロヴァンスに旅行に行くような中流階級だけをターゲットにしている。

当然、環境活動家が環境問題など大したことはないと発表してしまえば、研究費は集まらなくなってしまう。世界自然保護基金が1997年に世界の森林の3分の2が永遠に失われたという発表を行ったのもこのためだろう。この発表の根拠が求められた際、根拠となる研究報告など存在しないことが明らかになった。実際、地球上の森林は1950年よりも増えている。

しかし、不幸を求めることが大好きなマスコミはそんな事実などひた隠しにしている。人々の罪の意識を利用することで新たな税金を取れると踏んだ各国政府もその流れに乗った。文句を言うような人間はマスコミが狂人呼ばわりして排斥してくれる。

誰もが知っている通り、世界は絶えず移り変わっている。大陸は動き、時に氷河期も起こる。しかし、車に乗ること、暖房をつけること、旅行に行くことがまるで悪いことであるかのように思わせる風潮は留まることを知らず、お国に5,000ポンドの環境税を納めなければイナゴの大量発生や異常気象が起こるだろうと信じこまされている。

なので、車の買い方が大きく変わることは避けられないだろう。車の買い方はそれほど頻繁には変わらない。1970年代、イギリスは実質的共産主義国であり、誰にも個性など存在せず、誰もがフォード・コーティナのような4ドアセダンを買っていた。それから、4ドアセダンの実用性とジャガー・Eタイプのパワーを兼ね備えたホットハッチが流行りはじめた。その後、SUVが台頭した。

しかし、環境活動家の猛攻撃により、SUVなど目を離した隙に破壊されてしまうので、何か別の車を買わなければならない。しかし何を買うべきだろうか。子供の送り迎えに使うのであれば駄目だろうが、あくまでSUVをデザイン重視で買っているというのであれば、代わりにアルファロメオ・ブレラはいかがだろうか。

当然、この車は世界最速の車でもなんでもない。2.2(前輪駆動)のパフォーマンスは植物レベルだ。私が試乗した3.2(4WD)はまだましだが、アクセルを床まで踏み込んでも壊れているのではないかと疑ったくらいだ。この車は重く、100km/hまでは7秒で加速し、160km/hまで加速するためにはおよそ1週間かかる。

私にとってこのパフォーマンスは問題なのだが、三菱・ショーグン(日本名: パジェロ)のようなSUVの加速に慣れているのであれば、0-100km/h加速7秒でもユーロファイターに乗っているような気分になれることだろう。なので問題はない。

それに、快適性にも満足できるはずだ。大径タイヤを履いているにもかかわらず、乗り心地は見事だし、操作性も高い。実に優秀だ。

ただ、インテリアの出来はあまり褒められない。前席にも後席にも十分なスペースはないし、アルファロメオなのでまともに動いてくれることはない。例えば、ラジオの音量を下げるためには、ステアリングにある電話のマークの付いたスイッチを押さなければならない。それに、文字はすべてイタリア語で書かれている。

では、私はどうしてこんな車を勧めているのだろうか。理由は2つある。

まず、運転しているとアルファらしさを感じることができる。同じクラスの他の車では決して感じることのできないフィードバックを受け取ることができ、思わず疼いてしまう。車が本当に好きならブレラを愛することができるはずだ。それに、スピードを出せないのでこの車と過ごす時間が長くなり、そのたびにこの車が好きになっていく。

しかし、もう一つの理由のほうが重大だ。それは見た目だ。デザインはジョルジェット・ジウジアーロが手掛けている。私は名前のスペルを覚えられないという理由でジウジアーロのことが好きになれないのだが、ブレラは駐車場に停めて車から離れる前に、どうしても振り返ってもう一度見たくなる車だ。

試乗した車は赤だったのだが、これは駄目だ。ボディカラーはブラック、シートはブラウンこそが最高だ。三連ヘッドランプ、流れるような尻、気迫を感じさせるプロポーション、どれをとっても素晴らしく、なにより、エキゾチックなイタリア車でありながら、価格はそれほど高くない。

価格は2万2,800ポンドからで、フル装備の3.2L V6モデルでも3万ポンドを切る。この車には、環境活動家を怒らせるものも、罪悪感を感じさせるものもない。この車は威張り散らすこともなければやたらに飛ばすこともない。チンピラでもなければ、退屈でもない。この車を購入する理由は一つしかない。美しいからだ。

次に流行るのはこんな車だと思う。それに、4WDであるにもかかわらず、傍からは決してそう見えない。


Alfa Romeo Brera Coupé V6