今回は、人気自動車番組「Top Gear」でもおなじみのジェームズ・メイが2009年に英「The Telegraph」に寄稿した愛車フェラーリ・F430の購入記を日本語で紹介します。

フェラーリに支払った金額はすべてエンジンの代金であり、それ以外は全部タダだ、という話はよく聞く。しかし、現実はそれよりも酷いと思う。私が大枚を叩いて買ったのは、ひょっとしたらただの鞄だったのではないだろうか。
車を買う前にカラーについてさんざん時間をかけて悩み、ようやく高級コーヒーマシンの置かれたディーラーに足を踏み入れたのだが、その時点でもまだ4年落ちのF430を買うだけのお金など持っていなかった。
言い訳をするようだが、私は史上最高のフェラーリを買ったと自負している。グリージョティタニオという名前は確かワインかヴェニスの商人の登場人物の名前だったような気がするのだが、実のところこれはシルバー系グレーのボディカラーの名称だ。インテリアはグリージョスクーロという名の別の青みがかったグレーだ。ダッシュボードとカーペットはブラックだ。
レブカウンターはイエローで、ブレーキキャリパーはシルバーだ。珍しいことに、フェンダーにはスクーデリアのバッジが付いていない。シートは普通の手動式スポーツシートで、ブレーキディスクは理由はよく分からないがカーボンセラミック製で、つまり色はグレーだ。しかし、キーはレッドだ。どこにもレッドのないフェラーリは存在しないようだ。それでも、私の買ったフェラーリはかなり上品だと思う。
ただ、まだ後悔は残っていた。なので私は24時間部屋に引き篭もり、自分を責め続けた。そうすることで後悔は消え失せ、純粋な心持ちでフェラーリのオーナーになったことを受け入れられるようになった。
では、F430について紹介したい。しかし、あまり語れることはない。この車を受け取ったのは雪が降ったあとだったので、2,500rpm以上回さないように家までの24kmを走った。これでは、私のもう1台の愛車であるフィアット・パンダと大して変わらないパワーしか出ない。まるで骨董品の陶器で安酒を飲むような話だ。私の後ろには常に少なくとも10台の車が列をなしていたし、ラウンドアバウトでは15分以上ずっと道を譲り続けた。当然、高回転域で開いて素晴らしい排気音を響かせるフラップが作動することなどなかった。
ここで私はあることに気付いた。むしろこれまでに気付かなかった自分が馬鹿らしくて仕方ないのだが、私の家の秘密のガレージにフェラーリを入れると、左右それぞれ5cmずつしか余裕がなかった。なので、現時点まででは、フェラーリを運転していた時間よりも、フェラーリを駐車していた時間のほうが長い。
それからホコリを払ってカバーを掛けた。それからまたカバーを外してホコリを払ってカバーを掛け、またカバーを外してフェラーリを眺め、それからカバーを掛けてようやくロックし、家に入った。
ところで、取扱説明書を見てみよう。この分量がまた凄い。ある冊子には、エグゾーストがオーバーヒートすると"slow down"と書かれた警告灯が点灯すると書かれていた。さすがにこんな警告は見たくない。
別の冊子には、フランスでの車の点検・修理のやり方についてイタリア語で書かれていた。この冊子を参考にするような日は来てほしくないものだ。
それから、オプションに関する冊子、保証に関する冊子、ラジオの関する薄い冊子などもあった。冊子はすべて上質なレザーのケースに入れられており、非常に良い雰囲気だった。ただし、グローブボックスには収まらなかった。
それから、ツールキットも観察してみた。これは結構地味で、ヒューズやペンチ、六角レンチ、スパナなどが入っているだけだった。しかし、スパナにまでフェラーリのエンブレムが入っており、どこか凄みがあった。部屋に飾りたいくらいだ。
こういった細かいところにも"違い"がある。フィアットのハッチバックにはこんなものはない。取扱説明書とスパナとバッテリーチャージャーとタイヤインフレキットを並べるだけで、まるで自分が特別な人間のように感じられる。非常に気分が良い。
F430は素晴らしい車なのだろうが、現時点ではその実力はよくわからない。いずれお伝えできたらと思う。
No regrets after buying a Ferrari F430

フェラーリに支払った金額はすべてエンジンの代金であり、それ以外は全部タダだ、という話はよく聞く。しかし、現実はそれよりも酷いと思う。私が大枚を叩いて買ったのは、ひょっとしたらただの鞄だったのではないだろうか。
車を買う前にカラーについてさんざん時間をかけて悩み、ようやく高級コーヒーマシンの置かれたディーラーに足を踏み入れたのだが、その時点でもまだ4年落ちのF430を買うだけのお金など持っていなかった。
言い訳をするようだが、私は史上最高のフェラーリを買ったと自負している。グリージョティタニオという名前は確かワインかヴェニスの商人の登場人物の名前だったような気がするのだが、実のところこれはシルバー系グレーのボディカラーの名称だ。インテリアはグリージョスクーロという名の別の青みがかったグレーだ。ダッシュボードとカーペットはブラックだ。
レブカウンターはイエローで、ブレーキキャリパーはシルバーだ。珍しいことに、フェンダーにはスクーデリアのバッジが付いていない。シートは普通の手動式スポーツシートで、ブレーキディスクは理由はよく分からないがカーボンセラミック製で、つまり色はグレーだ。しかし、キーはレッドだ。どこにもレッドのないフェラーリは存在しないようだ。それでも、私の買ったフェラーリはかなり上品だと思う。
ただ、まだ後悔は残っていた。なので私は24時間部屋に引き篭もり、自分を責め続けた。そうすることで後悔は消え失せ、純粋な心持ちでフェラーリのオーナーになったことを受け入れられるようになった。
では、F430について紹介したい。しかし、あまり語れることはない。この車を受け取ったのは雪が降ったあとだったので、2,500rpm以上回さないように家までの24kmを走った。これでは、私のもう1台の愛車であるフィアット・パンダと大して変わらないパワーしか出ない。まるで骨董品の陶器で安酒を飲むような話だ。私の後ろには常に少なくとも10台の車が列をなしていたし、ラウンドアバウトでは15分以上ずっと道を譲り続けた。当然、高回転域で開いて素晴らしい排気音を響かせるフラップが作動することなどなかった。
ここで私はあることに気付いた。むしろこれまでに気付かなかった自分が馬鹿らしくて仕方ないのだが、私の家の秘密のガレージにフェラーリを入れると、左右それぞれ5cmずつしか余裕がなかった。なので、現時点まででは、フェラーリを運転していた時間よりも、フェラーリを駐車していた時間のほうが長い。
それからホコリを払ってカバーを掛けた。それからまたカバーを外してホコリを払ってカバーを掛け、またカバーを外してフェラーリを眺め、それからカバーを掛けてようやくロックし、家に入った。
ところで、取扱説明書を見てみよう。この分量がまた凄い。ある冊子には、エグゾーストがオーバーヒートすると"slow down"と書かれた警告灯が点灯すると書かれていた。さすがにこんな警告は見たくない。
別の冊子には、フランスでの車の点検・修理のやり方についてイタリア語で書かれていた。この冊子を参考にするような日は来てほしくないものだ。
それから、オプションに関する冊子、保証に関する冊子、ラジオの関する薄い冊子などもあった。冊子はすべて上質なレザーのケースに入れられており、非常に良い雰囲気だった。ただし、グローブボックスには収まらなかった。
それから、ツールキットも観察してみた。これは結構地味で、ヒューズやペンチ、六角レンチ、スパナなどが入っているだけだった。しかし、スパナにまでフェラーリのエンブレムが入っており、どこか凄みがあった。部屋に飾りたいくらいだ。
こういった細かいところにも"違い"がある。フィアットのハッチバックにはこんなものはない。取扱説明書とスパナとバッテリーチャージャーとタイヤインフレキットを並べるだけで、まるで自分が特別な人間のように感じられる。非常に気分が良い。
F430は素晴らしい車なのだろうが、現時点ではその実力はよくわからない。いずれお伝えできたらと思う。
No regrets after buying a Ferrari F430