今回は、米国「Car and Driver」によるポンティアック・ソルスティスの試乗レポートを紹介します。

※内容は2005年当時のものです。


Pontiac-Solstice

ソルスティスのコンセプトカーは2002年のデトロイトオートショーで発表されたのだが、市販版はコストカットされて薄味のモデルになってしまうのではないかと心配していた。

デザインがスケッチの落書きから金属製の試作品へと進化するまでにはわずか4ヶ月しかかからなかった。優秀なソルスティスのデザインは、ポンティアックが同時期に生み出した劣悪なデザインの車(エルナン・コルテスが1521年に征服した帝国に由来する名前を持つ某モデル)から人々の目を背けさせるのにも一役買っている。それに、このコンセプトカーの完成は、クライスラーからGMに引き抜かれたボブ・ラッツの功績でもある。

初期のプロトタイプモデルを試乗した際には完成とは程遠く感じられた。開発が遅れれば、コンセプトカー発表時にあったような勢いはなくなるだろうし、インパクトも薄れてしまうだろう。完成間近、試乗会の予定がキャンセルになった時には心配になった。マツダ・MX-5ミアータ(日本名: ロードスター)ではなく、初代コルベットのような、中身の伴わない見た目だけのモデルになってしまうのではないかと不安だった。心配事は留まることを知らず、我々は憔悴しきっていた。

現グローバル製品開発部副部長のラッツ氏いわく、ソルスティス発売までには2億5,000万ドルもの大金が注ぎ込まれたそうだ。GMはソルスティスのためにカッパプラットフォームという新設計の後輪駆動車用プラットフォームの開発まで行っている。ソルスティスの目標価格は2万ドルだったので、このプラットフォームは製造コストを抑えることまで考えられている。

開発陣はコルベットを参考にし、裸のコルベットのような構造を生み出した。ハイドロフォーム成形された鋼材を使用することにより高い剛性を確保しており、サスペンションの設計も見直されている。MIG溶接という溶接方式が採用されており、溶接はすべて手作業で行われる。構造強化により、静粛性や安定性も高められている。

しかし、コルベットのようなコストのかかる軽量化戦略はとっていない。実際、ソルスティスは1,310kgとそれなりに重い。1,126kgのMX-5とは、あるいは同じ土俵で戦うことすらできないかもしれない。しかし、どちらも2万ドルで購入できるお手軽なオープンカーであることを考えれば、消費者に比較されるライバルと言えるだろう。

搭載されるのは、179PSを発揮する2.4L DOHC 4気筒エンジンであり、これはGMのモデルに幅広く搭載される2.2Lエンジンをベースに排気量を拡大したものだ。この系列のエンジンが縦置きされるのはソルスティスが初めてだ。

エンジンの後方にはピックアップトラックのシボレー・コロラドと共通の5速MTが搭載される。スポーツカーらしくするため、シフトストロークは抑えられており、シフトフィールを改善するために一部の部品には改良も施されている。そのため、変速はしやすいし、ホンダ・S2000のようなダイレクト感こそないものの、それでも意に沿った働きをしてくれる。

ラッツ氏によると、コーナリング時のスポーツカーらしいペダル操作を可能とするため、ペダル間距離の自主規制(踏み間違い防止のためのもの)をあえて無視したそうだ。その結果、ヒール&トーをするのにちょうどいいペダル配置となっている。

ブレーキを踏んだ状態でアクセルをトップエンドまで吹かすと、エグゾーストから大いなる咆哮が響いてくる。ルーフを上げると(鍵を使ってトランクを開き、手動でルーフを上げて固定を行う)4気筒サウンドが前から聞こえてくる。ただ、試乗した個体は特定の回転域で唸るような騒音を響かせた。とはいえ、ポンティアックいわく、市販モデルではこの問題も解決しているそうだ。

ルーフの開閉は複雑だし、MX-5のように運転席の中だけで完結するわけでもないのだが、練習すれば簡単だし、リアデフロスターも付いている。ルーフを下げてもそれなりの静粛性は確保されているのだが、左右のヘッドレストの間にウインドディフレクターを付けるべきかもしれない。また、ルーフを下げた際の荷室の狭さも気になる。ポンティアックはトランクの中にゴルフバッグを2つ入れるという実演をしてくれたのだが、その時に使われたゴルフバッグは普通のものとは到底違っていた。

この車は必ずしも走り屋が乗る車ではないかもしれないが、飛ばしても大きな問題はない。高速道路のスピードに至るのも簡単だ。179PS/23.0kgf·mのエンジンではタイヤスモークを発するには足りないかもしれないが、ドライバーを笑顔にするだけの実力はある。ただし、加速性能を求めるのであれば、登場が噂されるターボ版を待つべきだろう。

ソルスティスにはコーナー出口でテールを滑らせるほどのパワーはないかもしれないが、限界付近でターンインしてテールを滑らせるのは簡単だ。ステアリングは正確だし、245/40R18のグッドイヤー Eagle RS-A オールシーズンタイヤは動きを掴みやすい。限界を越えたスピードでコーナーへと侵入するとアンダーステアを呈してノーズが暴れてしまうのだが、アクセルを少し緩めてやると荷重移動により走行軌道をうまく戻すことができる。ホイールベースは2,416mmなのだが、非常に扱いやすいため、2,000mmくらいに感じられる。

座席は快適だし、クッションも適度にあり、視界も素晴らしい。計器類はシボレー・コバルトと共通で、エアコンの操作系はハマー・H3と共通だ。ステアリングは中立域でもちゃんとしたフィールがあるし、足回りも優秀だ。ただ直進するだけなら非常に落ち着いており、ホイールベースは2,800mmくらいに感じる。

ソルスティスはラッツ氏の個性が滲み出た車だ。完璧とは言えないながらも純粋で、2万ポンドで買えるオープンカーとしては十分満足できる。ポンティアックの2シーター史上最高の出来だろう(フィエロ以上だ)。ポンティアックというブランドに不信感を抱いている人もいるだろうが、この車の実力は確かに高い。


Pontiac Solstice