今回は、米国「Car and Driver」による新型 アキュラ NSXの試乗レポートを日本語で紹介します。


NSX

そもそも、アキュラにこの車は必要なのだろうか。どん底にあるアキュラというブランドには、下からの変革が必要だと思う。アキュラの顧客が真に望んでいるであろうインテグラを復活させた方がいいのではないだろうか。しかし、ホンダの高級ブランドは15万ドル超えのハイブリッドスーパーカーを生み出した。現時点で最も高価なモデルが5万1,870ドルのショールームの見栄えを良くするにはいいのかもしれないが、ブランド力を上げるにはもう手遅れではないだろうか。

既にコンセプトカーをはじめとしてNSXに関する様々な情報が飛び交っているが、ついに本物のアキュラ NSXのキーが我々の手に渡った。なので、ブランドの議論などやめ、実際に走り始めようではないか。

我々が運転しようとしているのは、現時点のホンダのあらゆる感情を蒸留した製品だ。長らくの暗黒期を経て、かつての栄光―アイルトンやアランが駆けるマールボロマクラーレン、楕円ピストンを備えたレーシングバイク、洗練された芝刈り機―に想いを馳せた結果だ。ホンダは再び畏怖の念を向けられたがっている。技術とパフォーマンスの先進集団が復活したと世界から思われたがっている。

ミニバンのオデッセイと同じ横置きV6エンジンを搭載したプロトタイプの開発は関心を持たれぬまま2011年中頃に中止された。そして、新たなるNSXの開発計画が立ち上がった。開発は主にオハイオ州の少数精鋭集団が行い、そうして誕生したのが4WDハイブリッドカーだ。

パッケージングは85万ドルのポルシェ 918スパイダーに類似しており、モーターは3つ(フロントアクスルに2つ、ツインターボV6エンジンと9速デュアルクラッチトランスミッションの間に1つ)搭載されていて、より低価格でポルシェと同等の技術の恩恵を被ることができる。この恩恵の中には、即時的なトルクベクタリングやターボラグを補助するモーター、ある程度の燃費性能が含まれており、望むならばほぼ無音で走行することもできる。いずれこの技術がシビックに使われるかもしれないが、現時点でも20万ドル未満でポルシェの技術が手に入る。

アキュラのデザイナーはイタリア的な個性にも、BMW i8 のような斬新さにも傾倒せず、より従来的で鋭角的なデザインを生み出した。悪い見た目ではないし、威圧的とも言える。ロングホイールベースで鼻先の短いボディはどう見てもミッドエンジンのプロポーションだし、飾りもたくさん付いている。フロントのメッキアクセントによりラジエーターやコンデンサーが隠されており、サイドにもインタークーラー・吸気用のダクトが存在する。

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エンジンの後方には113Lの荷室がある。後ろから見ると排気管はフィットのそれに似ている。0-100km/hまで3秒未満で加速するような車にしては小さすぎるように思えるが、4本の排気管が並んでおり、普通のスポーツカーとは違う雰囲気を醸し出している。

3.5Lのドライサンプ75度V6エンジンはレーシングカーの遺伝子を持っている。しかし、その音は周囲の人間を総じて振り向かせるほどのものではない。やはり、日本の文化は礼儀を重視している。控え目なNSXはそれを如実に表している。

ドライブモードは4種類存在する。"Quiet"ではアクセルを緩く踏む限り65km/hまでモーターのみでの走行が可能だ。NSXのチーフエンジニアであるテッド・クラウス氏いわく、静かなスーパーカーは恰好良いそうだ。アキュラの方針はフェラーリとは全く違うらしい。

"Sport"はデフォルトのモードで(別のモードをデフォルトに設定することもできる)、ステアリングのアシストも強くなっている。アキュラはNSXを日常使用のできる車にすることを目標としているのだが、だからといって凸凹に乗り上げるたびにステアリングがとられてしまうこともない。ステアリングの重さやトランスミッションのセッティングを個別に設定することはできないが、ドライブモードを変えることでそれぞれのセッティングが変更される。Sportモードでは変速が燃費重視で行われ、10km/L程度の燃費を実現するそうだ。

標準装着タイヤはコンチネンタル ContiSportContact 5 P で、サイズはフロントが245/35ZR19、リアが305/30ZR20だ。これは、悪天候にも対応できるし、ある程度の寿命も期待できるそれなりに実用的なタイヤだ。その代償として、開けた道で飛ばすと、かなり早い時点でフロントのグリップが失われてしまう。オプションのミシュラン Pilot Sport Cup 2 はポルシェ・911 GT3に装着されるものとほとんど共通で、こちらではかなりのグリップを得ることができる。ただし、2万5,000kmも走れば交換が必要だ。

コンソールのダイヤルを回して"Sport Plus"モードにすると、状況は一変する。バーチャルタコメーターが回転し、高回転域(出力ピークは7,500rpmだ)が12時の方向に変わる。そして、ステアリングの重さはシステム出力581PSの車に合った重さへと変わる。"Sport Plus"モードにしてからコンチネンタルを履いた車で飛ばすと、安全志向のアンダーステア気味になっていることに気付く。このモードだとスタビリティコントロールが介入してドライバーのラインを修正する。

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ダイヤルを"Track"モードにすると、ようやくホンダの夢見た車へと変貌する。ミシュランを履いているモデルは特に素晴らしく、圧倒的な衝撃と共にコーナーをかなりタイトに抜けることができる。ブレーキはあくまでもスイッチでしかない(バイワイヤ)のだが、感覚は十分に自然だ。それに、踏みしろの変化にも敏感で、非常に効率的だ。ブレーキは標準だと鉄製だが、試乗車にはオプションのカーボンセラミックブレーキが装備されていた。

走行中には様々なセンサーがデータを取っている。状況に応じ、前後のモーターが稼働もしくは回生を行う。コーナー出口ではモーターが全力で稼働し、NSXの重い車体を力強く加速させる。シフトアップはほとんど体感できないし、ギアチェンジのたびにフロントモーターが補助を行うため、加速カーブはほぼ均一で、リアモーターはターボのブースト(最大15.2psi)と協調して相乗効果を発揮する。

非常にシームレスな走りは未来の車の姿を映しているようにも思える。それに、静粛性も高い。V6エンジンには腹に響くような音もないし、傍観者もがっかりしてしまうことだろう。NSXに追い越されるとき、聞こえてくるのはほとんどタイヤが発するノイズだけだ。ステアリングはポルシェ・911に比べてフィールやフィードバックに欠けているし、全体的にNSXにはドラマが足りない。

問題は他にもある。コルベットZ06のような車では、モードを変えるにつれてドライバーの自由度も上がっていくのだが、NSXではあくまで速く走ることだけが目的となっている。Trackモードにするとスライドすることなど不可能になる。スライドすれば遅くなってしまうからだ。介入がかかって進路が修正されてしまう。確かにラップタイムは速くなるのだろうが、楽しくはない。スタビリティコントロールをオフにすることもできるのだが、そうするとクラッシュの危険性が上がってしまう。NSXには、ドライバーの自由度を高めつつ、いざというときには補助してくれるようなモードも必要だろう。そうすれば、NSXが運転を学ぶツールとしてより優れた車になれるだろう。

しばらくスポーツカーを作ってこなかったホンダという会社は、限られた時間の中で慎重に複雑な新製品を作ったのだろう。実際、基本はしっかりできている。それに、ソフトウェアをいじればさらに良い車になるはずだ。発売は春なので、それまでに夢の車に変えることも不可能ではないだろう。


2017 Acura NSX