イギリスの大人気自動車番組「Top Gear」でおなじみのジェレミー・クラークソンが英「The Sunday Times」に寄稿した試乗レポートを日本語で紹介します。

今回紹介するのは、2014年に書かれたフォルクスワーゲン・ゴルフエステート 2.0 TDI GTのレビューです。


Golf Estate

テレビ局は縮小傾向にあるとはいえ、BBCのオフィスは今でもかなり大規模だ。BBCでは何千人もの人間が働いており、局の近くで昼食を食べるのは不可能だ。

1987年からワインバーはあるのだが、ちゃんとしたレストランは存在しない。とはいえ、BBCは出勤時刻がどこよりも遅く、退勤時刻もどこよりも遅い今時のテレビ局なので、あえてランチタイムに外出するような人間はいない。わざわざスパゲッティ・ボロネーゼを食べに行くような人間はデイリー・メールの内通者だと誰もが知っている。

自分のデスクでランチを食べることもできない。そもそも私の口に合う食べ物を購入することさえできない。テイクアウトの弁当屋やサンドイッチ屋が売っているのは自民党員が買うような食べ物ばかりだ。そこでは豆とか土のスムージーとか「素材」入りのパンしか売っていない。ここで言う「素材」は足の爪みたいな味がする。

以前、エコで持続可能なテイクアウト店の女性店員に、チキンスープの豆なしを作ってもらえるだろうかと頼んだことがある。彼女は完全に困惑してしまった。その店では豆は入っていて当然のものだ。料理の90%を占めるものを抜きにすることなどできない。

BBCの社員の多くは顎髭を生やし、自転車に乗り、喜んで不味い食事を食べている。しかし、こんな食事は食べたくないと思うような一般人も同じようにたくさんいるし、そんな我々はいつも、どうして普通のベーコンサンドイッチが売っていないのか不満を言い続けている。
お客さん、ベーコンサンドイッチなら売っていますよ。パンはこだわりのアボカド入り足の爪味で、具材にはなんとレタス、雑草、豆も入っています。

どうしてこんなことになってしまったのだろうか。一体誰が普通の食事をぶち壊してしまったのだろうか。一体誰が、普通のコーンビーフやチキンやマヨネーズに嘔吐物のような食材を加えようと思ったのだろうか。これが、自動車界のコーンビーフサンドイッチであるフォルクスワーゲン・ゴルフの話に繋がる。

試乗したのは、ディーゼルエンジンを搭載するBlueMotionという5ドアステーションワゴンだ。これはあらゆる面で非常に真っ当で健康的なファミリーカーだ。120年間の試行錯誤の末、あらゆるものが正しい場所に収まっている。

メカニズム面にも何の問題もない。これは7代目のゴルフであり、これまでの6世代が積み重ねてきた経験が生かされている。1.6LのBlueMotionには、例えば低フリクションのピストンリングや低転がり抵抗タイヤなど、様々なエコ装備が含まれており、エコ信者も喜ぶし、お金を節約することもできる。実際、36km/L以上の燃費を実現することができる。

しかし私は2Lモデルに試乗した。このモデルも質素ではあるのだが、0-100km/h加速は9秒未満でこなす。それに、静粛性は高いし、洗練されているし、装備内容も充実しているし、神が創造したあらゆる生命体に合わせることのできる無限のドライブポジションが選択できる。犬でも快適に運転できるはずだ。

なにより、ゴルフには100年以上の大量生産のノウハウが活かされており、1万5,000のパーツが合わさって出来ているのではなく、頑丈な塊が削られて作られているかのような感じだ。何かが取れたりすることはないという安心感がある。それに、ワイパーにしろライトにしろオーデにしろ、スイッチはちゃんとあるべきところに配置されている。ゴルフ以上に真面目に、ゴルフ以上にしっかりと作られている車はないだろう。

ところが、基礎がいかにしっかりしていたとしても、その周りをでたらめな電子制御が覆ってしまっている。これは会議の席では素晴らしいものなのかもしれないが、現実世界では何の役にも立たない。

最初の問題は電動パーキングブレーキだ。解除するためにスイッチを押してみるのだが、ライトが消えないので今度は引いてみる。しかし、その時ようやく最初の操作が正しかったことに気付く。電気は非常に速く進むはずなのに、どうしてライトが消えるまでにこれほど時間がかかるのだろうか。

そして再びスイッチを押すのだが、やはり何も起こらない。ブレーキペダルを踏んでいないとパーキングブレーキを解除することができないのだ。しかし何故だろうか。レバーのパーキングブレーキではそんな必要はないのに。馬鹿げている。

それに、信号に引っかかるとエンジンを停止させ、クラッチを踏むとエンジンが再始動するアイドリングストップシステムも付いている。このおかげでお金を(せいぜい年間10ペンスか15ペンスくらい)節約できるので、馬鹿げているとは言えない。しかしこれは鬱陶しいので、私は常にオフにしている。

鬱陶しいといえば、ゴルフには時々エコドライブのためのアドバイスを表示する機能が付いている。窓を開けるとすぐに閉めるように忠告される。ラウンドアバウトでクラッチを踏みながら惰性走行していると、次からはクラッチから足を離すようにと忠告される。怒りで目が充血するまで忠告が止むことはない。

しかし、何より最悪なのはレーンアシスト機能だ。理論的には、前方の車線を検知して自動的に操舵を行い、車線逸脱を防止するという素晴らしい装備だ。このおかげで、居眠りをしても車がガードレールに激突することはない。

勝手に操縦してくれる車は素晴らしい。しかし永遠に操縦してくれるわけではない。このシステムは10秒そこらで停止してしまう。とはいえ、急カーブでさえ自動で曲がることができるというのは凄い。

ただ、起きているときには常時ステアリングに引っ張られ続けることになる。神経質の親が助手席に座っており、常にステアリングに手をかけているかのような気分だ。

ステアリングやフロントサスペンションの設計に注ぎ込まれた労力を思うとなおのこと悲しくなる。この車をより良い車とするため、どれだけの汗が流されたのだろうか。そんな努力が、くだらない安全装備のせいで台無しになってしまう。

いずれ、運転の邪魔にならない車線維持システムができることだろう。電動パーキングブレーキやパーキングセンサーもいつかはまともになるだろう。しかし、少なくと現代の技術には1926年レベルの未熟さを感じてしまう。

ゴルフは現代的で優秀な車だ。しかし、もっと古臭ければなお良い車になっただろう。


The Clarkson review: VW Golf estate 2.0 TDI GT (2014)