イギリスの大人気自動車番組「Top Gear」でおなじみのジェレミー・クラークソンが英「The Sunday Times」に寄稿した試乗レポートを日本語で紹介します。
今回紹介するのは、2013年に書かれたシトロエン・DS3カブリオ DSportのレビューです。

太陽は燦々と輝いている。今年は記録的な寒春ながら、田舎はエコ信者の心の中と同じくらいに緑色だ。田舎の景色はあまりにも美しく、すぐにでもスポーツカーに乗ってドライブに出掛けたい気分だ。しかし問題がある。今はスポーツカーなど購入できない時代だ。
マツダ・MX-5(日本名: ロードスター)という車もあるのだが、年々肥大化し、エンジンも巨大化し、挙句リトラクタブルメタルルーフまで装備されてしまった。確かに今でも楽しい車ではあるのだが、速すぎるし、合理的すぎるし、グリップ力がありすぎる。
ケータハム・7という車も悪くはない。しかし、今ケータハムに乗っているのは、ただ太陽の光のもとでオックスフォードシャーを駆けたいという人ではなく、サーキット好きのオタクだ。それゆえ、ケータハムに乗るのはあまりにダサい。
新型ジャガー・Fタイプは見た目こそ悪くないものの、高価すぎるしパワフルすぎる。BMW Z4にはそんな問題はない。けれど、スムーズすぎるし洗練されすぎている。見た目も良いし、実際優秀な車なのだが、スポーツカーとは言えない。
アルファ・ロメオ スパイダーはスポーツカーだった。フィアット・124スパイダーやMGもスポーツカーだった。トライアンフ・TR6も、サンビーム・アルパインもそうだ。こういった車たちはどれもただ楽しむために、ただ笑うためだけに作られていた。当時の基準で考えても速い車ではなかったのだが、どれも恰好良く、どれもシンプルなキャンバストップだった。そんな車が恋しくてたまらない。
ハンドリングが重視され、グリップは重視されなかった時代が恋しい。今の車はコーナーを可能な限り速く抜けることが重視されている。要するに、今の車では30km/hで四輪ドリフトをすることはできない。それに、安全性が追求され、どんどん重くなっている。スポーツカーは軽くなければならない。
スポーツカーは暖かい夏の午後のための車だ。そんな日に食べたいのは軽めのサラダだ。がっつりしたミートパイを食べたいとは思わない。なので私はシトロエン・DS3カブリオの登場を楽しみにしていた。
私は屋根付きのDS3の大ファンで、特にレーシングが大好きだ。正直なことを言えば、この車はあまりドライバーズカーだとは言えない。トランスミッションはあまり優秀ではなく、シフトチェンジは面倒だ。
サスペンションもあまり優秀ではない。しかし、こんな欠点も、面白いデザインや楽しげなデカール、そしてあらゆる遊び心によって覆い隠されてしまう。
レーシングのコンバーチブルモデルも登場する予定だが、今回は標準モデルのコンバーチブルに試乗した。いずれにしても、太陽が輝き、美しい景色が広がる中ではスピードなど不要だ。
それに、試乗車が来る前にシトロエンからメールを貰ったのだが、それによるとDS3カブリオは世界唯一の5人乗れるオープンカーだそうだ(ジープ・ラングラーという残念な車は例外だが)。荷室はミニコンバーチブルの2倍近く、120km/hでもルーフを開けることができる。これは期待できそうだ。
しかし、試乗車が家に来てすぐ、DS3カブリオがオープンカーでないことに気付いた。これは布製のサンルーフが付いただけの普通の車だ。1970年代に父が乗っていたローバー・3.5にはヘバスト社製のサンルーフが付いていた。これもオープンカーではない。
しかし、サンルーフのボタンをもう一度押すとバックウインドウが下降し、畳まれたキャンバスルーフも一緒に下がっていった。ただし、下がりきるとルーフのせいで後方が全く見えなくなってしまう。シトロエンはこれでいいと思ったのだろうか。
きっとこれでいいと思ったのだろう。そもそも、シトロエンが最後に作ったコンバーチブルはC3プルリエルだ。この車は30分かけて爪をボロボロにしないと屋根を外すことができなかった。それに、外した屋根を収める場所もなかった。屋根を置いて出発し、雨が降らないことを願うしかなかった。
そもそも、自動車の歴史を紐解いてみても、フランスが作ったスポーツカーは…ええと…一切存在しない。
フランスにおいて、車は安さが第一だ。確かにフランスはモータースポーツに熱心だ。F1はフランス製のエンジンが支配している。ラリーでも大活躍している。しかし、それでもスポーツカーを作ることはない。それはDS3カブリオに関しても例外ではない。
まあそんなことは置いておこう。巨大なサンルーフの付いた素敵なハッチバックだと思えばいい。するとどうだろうか。この車はさほど高くはない。シトロエンのパンフレットには、0%金利ローンとか、1,000ポンドキャッシュバックとか、付加価値税免除とか、ディーラーの店長の娘とのデート権付きとかの文字が踊っている。実際、車の出来自体がさほど良くないので、このくらいの優遇は必要だ。
最初の問題はドライビングポジションだ。ステアリングはペダルの真上にあるため、腕と脚の長さが同じ人間しか快適に運転できない。しかもシートはローションでも塗られているかのように滑る。なので操作性についてお伝えすることもできない。どうコーナーを曲がろうとしてもシートから滑り落ちてしまう。
問題は他にもある。カップホルダーは付いていない。オーディオはまともにラジオを選局することもできない。ナビは理解不能だ。奇跡的に目的地を入力できたとしても全く違う目的地に案内されてしまう。
公平を期するために良いところも書いておくが、155PSのエンジンは非常に優秀だし、荷室は十分に広い。ただ、これは郵便ポストが十分に広いと言っているようなものだ。確かに空間は存在するのだが、入り口が狭過ぎでまともに活用することはできない。
妙なことに、これほどまでに運転したくないと思った車はない。ガソリン代を他人が負担してくれようと、巨大なサンルーフが付いていようと、太陽が輝いていようと、自分でガソリン代を払い、サンルーフの付いていないに愛車に乗って出掛けた方がましだった。
The Clarkson review: Citroën DS3 cabrio DSport (2013)
今回紹介するのは、2013年に書かれたシトロエン・DS3カブリオ DSportのレビューです。

太陽は燦々と輝いている。今年は記録的な寒春ながら、田舎はエコ信者の心の中と同じくらいに緑色だ。田舎の景色はあまりにも美しく、すぐにでもスポーツカーに乗ってドライブに出掛けたい気分だ。しかし問題がある。今はスポーツカーなど購入できない時代だ。
マツダ・MX-5(日本名: ロードスター)という車もあるのだが、年々肥大化し、エンジンも巨大化し、挙句リトラクタブルメタルルーフまで装備されてしまった。確かに今でも楽しい車ではあるのだが、速すぎるし、合理的すぎるし、グリップ力がありすぎる。
ケータハム・7という車も悪くはない。しかし、今ケータハムに乗っているのは、ただ太陽の光のもとでオックスフォードシャーを駆けたいという人ではなく、サーキット好きのオタクだ。それゆえ、ケータハムに乗るのはあまりにダサい。
新型ジャガー・Fタイプは見た目こそ悪くないものの、高価すぎるしパワフルすぎる。BMW Z4にはそんな問題はない。けれど、スムーズすぎるし洗練されすぎている。見た目も良いし、実際優秀な車なのだが、スポーツカーとは言えない。
アルファ・ロメオ スパイダーはスポーツカーだった。フィアット・124スパイダーやMGもスポーツカーだった。トライアンフ・TR6も、サンビーム・アルパインもそうだ。こういった車たちはどれもただ楽しむために、ただ笑うためだけに作られていた。当時の基準で考えても速い車ではなかったのだが、どれも恰好良く、どれもシンプルなキャンバストップだった。そんな車が恋しくてたまらない。
ハンドリングが重視され、グリップは重視されなかった時代が恋しい。今の車はコーナーを可能な限り速く抜けることが重視されている。要するに、今の車では30km/hで四輪ドリフトをすることはできない。それに、安全性が追求され、どんどん重くなっている。スポーツカーは軽くなければならない。
スポーツカーは暖かい夏の午後のための車だ。そんな日に食べたいのは軽めのサラダだ。がっつりしたミートパイを食べたいとは思わない。なので私はシトロエン・DS3カブリオの登場を楽しみにしていた。
私は屋根付きのDS3の大ファンで、特にレーシングが大好きだ。正直なことを言えば、この車はあまりドライバーズカーだとは言えない。トランスミッションはあまり優秀ではなく、シフトチェンジは面倒だ。
サスペンションもあまり優秀ではない。しかし、こんな欠点も、面白いデザインや楽しげなデカール、そしてあらゆる遊び心によって覆い隠されてしまう。
レーシングのコンバーチブルモデルも登場する予定だが、今回は標準モデルのコンバーチブルに試乗した。いずれにしても、太陽が輝き、美しい景色が広がる中ではスピードなど不要だ。
それに、試乗車が来る前にシトロエンからメールを貰ったのだが、それによるとDS3カブリオは世界唯一の5人乗れるオープンカーだそうだ(ジープ・ラングラーという残念な車は例外だが)。荷室はミニコンバーチブルの2倍近く、120km/hでもルーフを開けることができる。これは期待できそうだ。
しかし、試乗車が家に来てすぐ、DS3カブリオがオープンカーでないことに気付いた。これは布製のサンルーフが付いただけの普通の車だ。1970年代に父が乗っていたローバー・3.5にはヘバスト社製のサンルーフが付いていた。これもオープンカーではない。
しかし、サンルーフのボタンをもう一度押すとバックウインドウが下降し、畳まれたキャンバスルーフも一緒に下がっていった。ただし、下がりきるとルーフのせいで後方が全く見えなくなってしまう。シトロエンはこれでいいと思ったのだろうか。
きっとこれでいいと思ったのだろう。そもそも、シトロエンが最後に作ったコンバーチブルはC3プルリエルだ。この車は30分かけて爪をボロボロにしないと屋根を外すことができなかった。それに、外した屋根を収める場所もなかった。屋根を置いて出発し、雨が降らないことを願うしかなかった。
そもそも、自動車の歴史を紐解いてみても、フランスが作ったスポーツカーは…ええと…一切存在しない。
フランスにおいて、車は安さが第一だ。確かにフランスはモータースポーツに熱心だ。F1はフランス製のエンジンが支配している。ラリーでも大活躍している。しかし、それでもスポーツカーを作ることはない。それはDS3カブリオに関しても例外ではない。
まあそんなことは置いておこう。巨大なサンルーフの付いた素敵なハッチバックだと思えばいい。するとどうだろうか。この車はさほど高くはない。シトロエンのパンフレットには、0%金利ローンとか、1,000ポンドキャッシュバックとか、付加価値税免除とか、ディーラーの店長の娘とのデート権付きとかの文字が踊っている。実際、車の出来自体がさほど良くないので、このくらいの優遇は必要だ。
最初の問題はドライビングポジションだ。ステアリングはペダルの真上にあるため、腕と脚の長さが同じ人間しか快適に運転できない。しかもシートはローションでも塗られているかのように滑る。なので操作性についてお伝えすることもできない。どうコーナーを曲がろうとしてもシートから滑り落ちてしまう。
問題は他にもある。カップホルダーは付いていない。オーディオはまともにラジオを選局することもできない。ナビは理解不能だ。奇跡的に目的地を入力できたとしても全く違う目的地に案内されてしまう。
公平を期するために良いところも書いておくが、155PSのエンジンは非常に優秀だし、荷室は十分に広い。ただ、これは郵便ポストが十分に広いと言っているようなものだ。確かに空間は存在するのだが、入り口が狭過ぎでまともに活用することはできない。
妙なことに、これほどまでに運転したくないと思った車はない。ガソリン代を他人が負担してくれようと、巨大なサンルーフが付いていようと、太陽が輝いていようと、自分でガソリン代を払い、サンルーフの付いていないに愛車に乗って出掛けた方がましだった。
The Clarkson review: Citroën DS3 cabrio DSport (2013)
