Top Gearの元司会者、ジェレミー・クラークソンはAmazonプライム・ビデオで新番組を立ち上げます。その最初の企画として、フェラーリ・ラ フェラーリ、ポルシェ・918スパイダー、マクラーレン・P1の対決が行われる予定です。

今回は、ジェレミー・クラークソンが新番組の立ち上げまでの経緯を交えて著したマクラーレン・P1のレビューを日本語で紹介します。


McLaren-P1

水曜の朝、私はマクラーレン・P1の運転席に座り、巨大なエンジンに火を入れ、ギアをドライブに入れてホイールスピンしつつ轟音を響かせながら走り出した。Amazonプライムの新番組の収録が始まった。

私の一方の隣には、ジェームズ・メイの乗るフェラーリ・ラ フェラーリが、その反対側にはリチャード・ハモンドの乗るポルシェ・918スパイダーが並んでいた。そして、目の前には、ランドローバー・ディスカバリーから身体を乗り出した顎髭がトレードマークの大柄なカメラマン、ベンがスタンバイしていた。バンド全員が再集結できて非常に嬉しい。しかし、ここまでに至る道程は決して易しいものではなかった。

4月、BBCの役員であるアラン・イエントフが私に電話をかけてきた。「騒動」のけじめとして、契約は更新しないという内容だった。その時、私は自分がこれからどうしていくべきなのか分からなくなった。私の心の大半は「もう何もやらなくていいや」という気持ちが占めていた。あるいは、大きく方針転換して農業番組でもやってみようかという気持ちもあった。

ジェームズとリチャードが何を考えているのかも知らなかった。一緒に話すと2人は私を励ましてくれたのだが、我々はアメリカ海兵隊ではないので仲間を見捨てることもできる。要するに、2人にはBBCの甘い誘いに乗って保身に走ることもできた。

もちろんご存知のこととは思うが、実際は2人共私と一緒に新しい住処へと移ることを決断した。新しい住処を見つけるため、我々はボーグのような格好をしたアメリカ人たちと喧々囂々のオンライン会議をした。誰もがマイクを付けて叫び続けた。特にジェームズ・メイは大変そうだった。

しかし最終的に、元プロデューサーのアンディ・ウィルマンを含めた我々に対し、絶好の機会を用意してくれるという男が名乗り出てきた。しかし、ひょっとしたら、阿鼻叫喚の会議の中で聞こえた幻聴だったのかもしれない。

ところがそれは幻聴ではなかった。すぐにオファーが我々の元に流れ込んできた。ついに我々は、新しい放送の世界へと足を踏み入れた。そこでは、火曜日の午前7時などといった納入期限はなく、いつでも出来上がりさえすれば放送を納入することができる。

それに、その自由な世界には、OfSTED(教育水準監査局)の監視の目はない。ケヴィン・スペイシーが神を冒涜しようと、誰も顔色一つ変えなかった。インターネット上では、男女が愛を育む姿を詳細に映し出すことさえ許されている。

しかし、我々とインターネット世界の間には言語の問題が立ちはだかった。ジェームズ・メイは真っ先に諦めてしまった。私も諦めてしまいたかった。会議で使われていたのは英語のはずなのに、相手が何を言っているのか全く理解できなかった。

その後、Amazonから茶色のボール紙の封筒が送られてきた。その指示に従ってAmazonのロンドン本部へと赴くと、まともな英語でオファーの説明をしてくれた。我々に新しい住処ができた。

我々に課された仕事は新番組を立ち上げることだ。スティグも、有名人レースも、The Cool Wallも、すべてBBCが権利を持っているので、本当にゼロからの出発となった。

我々には創造力が要求された。今までに経験のないことの連続だった。しかしようやく完成した。新番組が始まる。新しい名前で。新しいコーナーとともに。新しいアイディアとともに。何もかもが新しくなった。ただし、まだ1953年に生きているジェームズ・メイは例外だ。それから、リチャード・ハモンドは何も理解していなさそうだ。そして私は、ハンマーさえあれば何でも解決できると思っている。

もちろん、車をテストするという主旨は変わらない。何より、このテーマは我々の出発点なのだから。

この番組のために私は先週ポルトガルに飛んだ。かすかに下水の臭いが漂うポルトガルで、オックスフォードシャーのパーティーで知り合った人達やアンドルー王子の友人などに会ってきた。

なぜポルトガルなのか。ポルトガルにはアルガルヴェという素晴らしいサーキットがあるからだ。世界中の自動車好き達が待ち望んでいた対決の場として、フェラーリも、ポルシェも、マクラーレンも、3社すべてが適していると判断したサーキットだ。その対決こそが、フェラーリ・ラ フェラーリ、ポルシェ・918、マクラーレン・P1のうちでどれが最速かを決める対決だ。

この3台のうちでどれが最速かという対決は、我々以前に行った人もおり、インターネット上で公開されている。番組の最初に二番煎じの企画をするのはいかがなものかとも思ったのだが、きっと我々の意見を聞きたい人もいるだろうと思い、ポルトガルへと飛んだ。

私はポルトガルに到着し、マクラーレンに乗って1日を過ごしたのだが、いまだに現実感が湧いていない。フェラーリは非常に美しい車だし、ポルシェのグリップ力は強靭なフジツボのごとく圧倒的なのだが、圧倒的な緊張感へとドライバーを誘ってくれる車としては、P1に敵うものはいない。

加速は普通の車とは違う。アクセルペダルはワームホールの入口だ。アクセルを踏むと、916PSの電気とガソリンの共同作業により、別の場所に一瞬で辿り着いてしまう。

いまだに驚きも恐怖感も醒めない。人類がこれほどまでに速い車を作れたことが信じられない。お金さえあれば、これだけ驚異的な車を誰でも、17歳の子供でも運転できるという事実が信じられない。

デザインは最高というわけではないが、そこには不吉なオーラがある。AK-47のごとく、機能性に徹している。そして、圧倒的な機能性は恐怖を誘発する。

しかし、音に比べればデザインなどなんでもない。ハイブリッドゆえ、車からはありとあらゆる音が発せられる。モーターの回転音も、ウェイストゲート音も、V8の怒声も、エグゾーストの轟きも、すべてが一緒になってドライバーを襲う。まるで地殻変動でも起きているかのようだ。

室内にはダイヤルや計器が溢れ、車をさらに速くすることのできるボタンもある。しかし、こんなものを見ている暇などない。あまりの速さに汗だくになり、リアスポイラーに鎮座する目には見えない重りだけを頼りにコーナーへと突入し、その重りが車から落ちてしまわないように気を遣い続けなければならない。

現時点ではポルトガルのサーキットにおいて3台のうちでどれが最速かをお伝えすることはできない。まだ何も始まってはいない。

けれど、結果がどうであれ、我々は未来に立っている。これまで立っていた過去とは全く違うかもしれない未来に。


The Clarkson review: 2015 McLaren P1