イギリスの大人気自動車番組「Top Gear」でおなじみのジェレミー・クラークソンが英「The Sunday Times」に寄稿した試乗レポートを日本語で紹介します。

今回紹介するのは、2012年に書かれたアウディ・RS4アバントのレビューです。


RS4 Avant

自動車評論家の視点から見ると、アウディのRS系の良い所は、実際に乗るまでそれがどんな車か予想できないという点だ。BMWのライバルと同じくらいに優秀な車もあれば、存在感の薄い車もあるし、酷い車もある。そして、今回の主題の車、RS4アバントの話だ。この車のせいで、私は最悪の一週間を送る羽目になってしまった。

「出来が悪い」という表現だけではこの車の酷さを表しきれない。この車の出来はあまりに酷く、これに乗るか地下鉄を使うかという選択肢を提示されたとしたら、迷わずエスカレーターを下ることだろう。いや、これは仮定の話ではない。実際、私は地下鉄を使った。

試乗初日にはストークニューイントンという場所まで運転した。ここは一応ロンドンということになっているのだが、ロンドン中心部からは1時間以上かかる。そしてこの日、すぐにRS4の重大な問題点に気づいた。

これまで、足の硬い車に乗ったことは何度もある。自分の愛車のメルセデスも非常に硬い。しかし、RS4はまったく別の次元にある。砂利の坂道を転がり落ちながら暴走する脱水機の中にいる気分だ。アウディの開発陣は一体何を考えているのだろうか。

インテリアはRSらしい。ありとあらゆるガジェットが付いている。あらゆる装備が付いている。なので、無駄が削がれたレーサーには到底見えない。にもかかわらず、路面の凸凹を踏むたび、それどころか道に落ちている紙切れを踏むだけでも、まるで画鋲を踏んでしまった時のような衝撃が走る。非常に不快だ

装備を使ってみようとも思ったのだが、振動が酷くてそれどころではなかった。指をボタンの方にやろうとするのだが、押す直前に道に落ちているチューインガムに乗り上げ、車が大きく揺れて指は別のところに触れてしまう。その時に触れるのが軽量化を目的に追加で装備されているカーボンファイバーだったりする。

ここにRS4の別の問題が潜んでいる。この車はコーナリング性能を高めるために足が硬くなっているのだろうが、それなのに非常に重く感じる。もちろん、V8エンジンを搭載しているのも重さの一因ではあるのだろうが、一番問題なのはこの車が太っているという点だ。

しかも、ブレーキは鬱陶しい。ブレーキをかけるたび、ワイングラスを濡らした指でなぞった時のような音がする。おかげで、近くを歩いていた人たちがこぞって不機嫌そうな目で睨んできた。

しかし、何よりも最悪だったのはステアリングだ。直進時には一切のフィールが存在しない。あまりに締まりがないため、壊れているのではないかと疑ってしまうほどだった。ところが、コーナーに突入すると、突然極端に重くなる。

なので、2日目には移動のためにタクシーと地下鉄を使った。しかし、3日目にはルートンとチッピングノートンに行く用事があった。なので私は学生時代に尻をぶたれてもいいようにと用意していたのと同じ下着を穿き、車に乗り込んだ。

下着のおかげで乗り心地はましになった…なんてことはなかった。乗り心地はあまりに酷く、ステアリングはあまりにシビアで、M1を走っていてもせいぜい90km/hしか出せなかった。しかも、Radio 2を聴きたかったのに、Radio 3を聴くことしかできなかった。スイッチに手を伸ばそうとしても、指は屋根に当たり、ワイパースイッチに触れ、結局選局をすることは叶わなかった。

ただ、不思議なことに、アウディ乗りをはじめとしてたくさんの人が車の周りに群がり、これは一体どんな車なのかと尋ねてきた。これほど人を惹きつけた車はこれまでになかった。そしてこれが酷い車だと説明すると、集まった人達はかなり落ち込んでいるように見えた。

その週末、私は一切車に乗らないつもりだった。乗るはずがない。しかし、日曜日の夜になって重い腰を上げ、車に乗り込んでロンドンへと向かうことにした。すぐに雨が降り始めたので、ワイパースイッチに手を伸ばした。しかし、手が届く前に白線を踏み越えてしまったため、誤ってドライブセレクトとやらに触れてしまった。

すると、全てが一変した。

ステアリングにはフィールが生まれた。乗り心地は落ち着いた。回転数も下がった。RS4は野生動物から自動車へと変身した。ドライブセレクトは車のキャラクターを完全に変えてしまうようだ。エンジンも、ステアリングも、サスペンションも、それどころかテールパイプから発せられる音さえも変える。

つまり、気分によって車を一変させることができるということだ。しかしここで疑問が生じる。試乗車を私の家まで届けた人は、一体どんな気分であんなセッティングにしていたのだろうか。RS4で「ダイナミックモード」を選びそうな人など私の知る限りどこにも存在しない。そんな生物が存在するとは思えない。

ダイナミックモード以外のセッティングであれば普通に良い車だ。なので、RS4について尋ねて来た人達に酷い車だと話してしまったことを後悔し、反省したほどだった。この車に乗るくらいなら、ディーゼルのBMWに、いや、ホッピングに乗ったほうがよっぽどましだと言ってしまった。それどころか歩いた方がましだとまで言ってしまった。

コンフォートモードにすると静粛性は高いし、ステアリングは軽くなるし、乗り心地も素晴らしいし、デュアルクラッチトランスミッションは滑らかかつスムーズだ。なので、リラックスしてV8の力強さを楽しむことができる。

最近のハイパワーエンジンとしては珍しく、このエンジンにはターボチャージャーが付いていない。そのため、ダイレクト感があり、高回転域では非常に官能的だ。ただしその代償として、遠い未来にホッキョクグマが軽い喘息に罹る危険がある。これは6年前の登場時、世界トップレベルのエンジンだった。それは今でも変わらない。

ハンドリングの話に移ろう。かつて、アウディ車は例外なくアンダーステアに苦しんでいた。これはノーズの重さや4WDシステムに起因していた。しかし、このモデルでは重心を後ろに移すために様々な工夫がされている。それに、後輪にはデフロックが備わる。そのため、グリップは十分にあるのだが、それでもフロントよりリアが軽く感じられる。しかし、後方視界が悪く、バック時に木に衝突するかもしれないので、リアが軽いのはむしろ良いことなのかもしれない。

もしこの車を購入したとしても、ダイナミックモードにさえしなければきっと気に入ることだろう。それに、荷室は犬がうまく乗れるような形になっているため、愛犬もさぞ喜ぶことだろう。買い物でも活躍するはずだ。

しかし、初代RS4に乗った時に感じたことと全く同じことがこの車にも言える。初代RS4は素晴らしい車だったのだが、BMW M3ほどに良い車ではなかった。BMWのような活発さや、何よりスピードが欠けていた。

新型RS4も正常に進化し、魅力的な車に仕上がっている。しかし、アウディ以上にBMWも進化している。新型RS4もすぐにM3に追い越されてしまうことだろう。残念ながらこれがアウディの常だ。


The Clarkson review: Audi RS4 Avant (2012)