イギリスの大人気自動車番組「Top Gear」でおなじみのジェレミー・クラークソンが英「The Sunday Times」に寄稿した試乗レポートを日本語で紹介します。
今回紹介するのは、2011年モデルの日産 GT-Rのレビューです。
※関連リンク
・2008年モデルの試乗レポート
・2014年モデルの試乗レポート

あなたは真の車好きだろうか。物理法則の許す限り速くコーナーを走り抜けようとしているだろうか。内燃機関のパワーに陶酔するため、いつでもアクセルを全開にしているだろうか。GフォースはGスポットを刺激するだろうか。パーティーではいつもトルクについて語っているだろうか。そんな人達にとって、日産 GT-Rはぴったりの車だ。
GT-Rは目立つためにデザインされた車ではない。手縫いのレザーシートやらがあるわけでもない。そもそも、これは日産車だ。ドルチェ&ガッバーナが支配する世界におけるモーフィー・リチャーズだ。
見た目が良いわけではない。誰もが振り向くデザインではない。そもそも、人間の首の筋肉はこの車を追いかけられるほど速くは回らない。
GT-Rはあらゆる科学法則が真剣に検討されて設計されている。可能な限り速く走り、物理法則の許す以上のグリップを確保し、瞬き以上に早くギアチェンジし、顔が外れるほどに獰猛に制動するように設計されている。そこに美の追求はない。全てが計算し尽くされている。
この車は密閉されたクリーンルームで製造されている。組み立て時の各部品の熱膨張の度合いが変わらないよう、クリーンルーム内は温度や湿度が完全にコントロールされている。また、フェラーリやアストンマーティンのような平凡な車のタイヤに充填されている普通の空気では不安定すぎるため、タイヤには窒素が充填されている。普通の空気はタイヤの温度に応じて収縮してしまうが、窒素ではそうならない。それに、横方法に強い力がかかってもタイヤが外れてしまわないように、ホイールの縁にはギザギザが付いている。フェラーリにはそんなこだわりなどない。そんなことをする必要もない。
2011年モデルとなった新型GT-Rは製造こそ従来と同じラインで行われているものの、パワー、グリップ、ダウンフォースのどれもが向上し、より速くなっている。この車は乗員を驚かせるために作られているわけではない。あくまで、乗員を傷付けるだけだ。
スタンディングスタートで全力疾走してみよう。トランスミッションをレースモードにして、トラクションコントロールボタンを長押しし、左足でブレーキを踏んで右足を床まで踏み込む。回転数が落ち着くと530PSの3.8Lツインターボエンジンが叫び出し、ここでブレーキから足を離す。次の瞬間、信じられない加速が起こる。ホイールスピンなど生じない。クラッチが滑ることもない。さっきまで止まっていたはずなのに、次の瞬間には160km/hで走っている。
夏のある日、庭でデッキチェアに座っている光景を想像してみて欲しい。あなたは静けさや平穏さを堪能しながら、鳥のさえずりを楽しんでいる。次の瞬間、あなたの背中にボーイング747が突っ込む。GT-Rの加速はそんな感じだ。常軌を逸している。
もちろん、世の中にはカタログスペックでGT-Rと同等の0-100km/h加速を叩き出している車もある。軽量で着座位置の低いサーキット向けの車だ。しかし、GT-Rのように凶暴に0-10km/h加速をする車は他に存在しない。
それに、サーキット向けの車は160km/hにもなるともう息切れしてしまうが、GT-Rは違う。まだまだ加速し続け、レッドゾーンに入ってからパドルを引くとすぐに次のギアに入る。この変速の早さは初期モデルにはなかった。正直なところ、こんな車にはこれまでに乗ったことはない。野蛮で、冷酷で、蠱惑的で、驚異的な車だ。
ヘッドレストに頭をしっかり固定していない状態では決してローンチコントロールを使ってはいけない。鞭打ち症になって病院送りになってしまう。それに、コーナーではステアリングがシートから投げ出されるのを防ぐための手すりになる。GT-Rに乗っている時は素人目でレントゲン写真を見ているような気分になる。Gがあまりにきついため、心臓がどうなっているかもよく分からない。
Top Gearテストトラックを数周した私は、自棄になってトラクションコントロールをオフにした。こうすることで車がスライドし、a) より楽しくなり b) 私の首にかかる負担が減少することだろう。しかし、安全装置を切るべきではない。GT-Rでスピンしてしまえば、GT-Rの複雑な部品を壊してしまいかねない。
GT-Rは非常に優れた車だが、読者の方が考えていることも分かる。GT-Rよりもフェラーリ・599やアストンマーティン・DBSの方が良いと思っていることだろう。しかし、だとしたらまだ私の言いたいことは伝わっていない。日産は他の車を食べ尽くす。よく噛んで吐き出してしまう。どんな車で対抗しようと、あっさりと敗れてしまう。先日、GT-Rはニュルブルクリンクで7分24秒を記録した。ナンバープレートの付いた車でこれほどまでに速い車を私は他に知らない。
もちろん、フェラーリの方が、所有する満足感も、見た目も、質感も優れている。しかし、走りという機能だけに着目すれば、あるいは、A地点からB地点までいかに迅速に移動するかという点に着目すれば、フェラーリはGT-Rに遠く及ばない。フェラーリがマンチェスター・ユナイテッドだとすれば、GT-Rはバルセロナだ。
ただ、いくらか問題点もある。まず、見た目が非常に悪い。筋肉質の用心棒がタキシードを着て無理に派手さを抑えようとしているのと同様、GT-Rのデザインにも無理がある。タトゥーやホールケーキの太さの首のせいで、どうやってもその派手さは抑えられない。しかも、新型GT-Rには従来よりもさらに巨大なスクープや排気管が付いてしまっている。
インテリアはなお悪い。日産がインテリアをシンプルにまとめようとしたことは理解できる。しかし、センターコンソールのカーボンファイバーパネルは不似合いだ。それに、車のあらゆる情報やコーナリング時のGを教えてくれる機能など、速すぎて見ている暇もない。
かつてのスカイラインのようにもっとうまく中身の凄さが隠されていたら文句はない。そうはいっても、GT-Rは広いトランクの付いた真っ当な4シーターだ。それに、静粛性も高いし、イギリスの舗装の悪い道でも快適に乗ることができる。もちろん、時にサーキットさながらのハーシュネスや騒音を感じることはあるが、ちゃんと抑えられてはいる。私はこの車が好きだ。
それに価格も素晴らしい。確かに、価格は1万ポンドも値上がりして6万9,950ポンドになってしまったし、これは日産車にしては高い。しかし、これはGT-Rよりも遅くて刺激も少ないフェラーリ・458の半額以下だ。それに、セールスマンがオプションのリストを掲げて迫って来ることもない。オンラインコンフィギュレーターを見てみたのだが、そもそもオプションなど存在しなかった。
新型GT-Rは従来よりも確実に進歩している。速くなっているし、なによりトランスミッションが格段に良くなっている。確かに見た目は酷いし、不必要なギミックにも溢れているが、この車の実力は驚異的だ。車が好きなら、運転が好きなら、機械が好きなら、GT-Rを買うべきだ。単純な話だ。
The Clarkson review: Nissan GT-R (2011)
今回紹介するのは、2011年モデルの日産 GT-Rのレビューです。
※関連リンク
・2008年モデルの試乗レポート
・2014年モデルの試乗レポート

あなたは真の車好きだろうか。物理法則の許す限り速くコーナーを走り抜けようとしているだろうか。内燃機関のパワーに陶酔するため、いつでもアクセルを全開にしているだろうか。GフォースはGスポットを刺激するだろうか。パーティーではいつもトルクについて語っているだろうか。そんな人達にとって、日産 GT-Rはぴったりの車だ。
GT-Rは目立つためにデザインされた車ではない。手縫いのレザーシートやらがあるわけでもない。そもそも、これは日産車だ。ドルチェ&ガッバーナが支配する世界におけるモーフィー・リチャーズだ。
見た目が良いわけではない。誰もが振り向くデザインではない。そもそも、人間の首の筋肉はこの車を追いかけられるほど速くは回らない。
GT-Rはあらゆる科学法則が真剣に検討されて設計されている。可能な限り速く走り、物理法則の許す以上のグリップを確保し、瞬き以上に早くギアチェンジし、顔が外れるほどに獰猛に制動するように設計されている。そこに美の追求はない。全てが計算し尽くされている。
この車は密閉されたクリーンルームで製造されている。組み立て時の各部品の熱膨張の度合いが変わらないよう、クリーンルーム内は温度や湿度が完全にコントロールされている。また、フェラーリやアストンマーティンのような平凡な車のタイヤに充填されている普通の空気では不安定すぎるため、タイヤには窒素が充填されている。普通の空気はタイヤの温度に応じて収縮してしまうが、窒素ではそうならない。それに、横方法に強い力がかかってもタイヤが外れてしまわないように、ホイールの縁にはギザギザが付いている。フェラーリにはそんなこだわりなどない。そんなことをする必要もない。
2011年モデルとなった新型GT-Rは製造こそ従来と同じラインで行われているものの、パワー、グリップ、ダウンフォースのどれもが向上し、より速くなっている。この車は乗員を驚かせるために作られているわけではない。あくまで、乗員を傷付けるだけだ。
スタンディングスタートで全力疾走してみよう。トランスミッションをレースモードにして、トラクションコントロールボタンを長押しし、左足でブレーキを踏んで右足を床まで踏み込む。回転数が落ち着くと530PSの3.8Lツインターボエンジンが叫び出し、ここでブレーキから足を離す。次の瞬間、信じられない加速が起こる。ホイールスピンなど生じない。クラッチが滑ることもない。さっきまで止まっていたはずなのに、次の瞬間には160km/hで走っている。
夏のある日、庭でデッキチェアに座っている光景を想像してみて欲しい。あなたは静けさや平穏さを堪能しながら、鳥のさえずりを楽しんでいる。次の瞬間、あなたの背中にボーイング747が突っ込む。GT-Rの加速はそんな感じだ。常軌を逸している。
もちろん、世の中にはカタログスペックでGT-Rと同等の0-100km/h加速を叩き出している車もある。軽量で着座位置の低いサーキット向けの車だ。しかし、GT-Rのように凶暴に0-10km/h加速をする車は他に存在しない。
それに、サーキット向けの車は160km/hにもなるともう息切れしてしまうが、GT-Rは違う。まだまだ加速し続け、レッドゾーンに入ってからパドルを引くとすぐに次のギアに入る。この変速の早さは初期モデルにはなかった。正直なところ、こんな車にはこれまでに乗ったことはない。野蛮で、冷酷で、蠱惑的で、驚異的な車だ。
ヘッドレストに頭をしっかり固定していない状態では決してローンチコントロールを使ってはいけない。鞭打ち症になって病院送りになってしまう。それに、コーナーではステアリングがシートから投げ出されるのを防ぐための手すりになる。GT-Rに乗っている時は素人目でレントゲン写真を見ているような気分になる。Gがあまりにきついため、心臓がどうなっているかもよく分からない。
Top Gearテストトラックを数周した私は、自棄になってトラクションコントロールをオフにした。こうすることで車がスライドし、a) より楽しくなり b) 私の首にかかる負担が減少することだろう。しかし、安全装置を切るべきではない。GT-Rでスピンしてしまえば、GT-Rの複雑な部品を壊してしまいかねない。
GT-Rは非常に優れた車だが、読者の方が考えていることも分かる。GT-Rよりもフェラーリ・599やアストンマーティン・DBSの方が良いと思っていることだろう。しかし、だとしたらまだ私の言いたいことは伝わっていない。日産は他の車を食べ尽くす。よく噛んで吐き出してしまう。どんな車で対抗しようと、あっさりと敗れてしまう。先日、GT-Rはニュルブルクリンクで7分24秒を記録した。ナンバープレートの付いた車でこれほどまでに速い車を私は他に知らない。
もちろん、フェラーリの方が、所有する満足感も、見た目も、質感も優れている。しかし、走りという機能だけに着目すれば、あるいは、A地点からB地点までいかに迅速に移動するかという点に着目すれば、フェラーリはGT-Rに遠く及ばない。フェラーリがマンチェスター・ユナイテッドだとすれば、GT-Rはバルセロナだ。
ただ、いくらか問題点もある。まず、見た目が非常に悪い。筋肉質の用心棒がタキシードを着て無理に派手さを抑えようとしているのと同様、GT-Rのデザインにも無理がある。タトゥーやホールケーキの太さの首のせいで、どうやってもその派手さは抑えられない。しかも、新型GT-Rには従来よりもさらに巨大なスクープや排気管が付いてしまっている。
インテリアはなお悪い。日産がインテリアをシンプルにまとめようとしたことは理解できる。しかし、センターコンソールのカーボンファイバーパネルは不似合いだ。それに、車のあらゆる情報やコーナリング時のGを教えてくれる機能など、速すぎて見ている暇もない。
かつてのスカイラインのようにもっとうまく中身の凄さが隠されていたら文句はない。そうはいっても、GT-Rは広いトランクの付いた真っ当な4シーターだ。それに、静粛性も高いし、イギリスの舗装の悪い道でも快適に乗ることができる。もちろん、時にサーキットさながらのハーシュネスや騒音を感じることはあるが、ちゃんと抑えられてはいる。私はこの車が好きだ。
それに価格も素晴らしい。確かに、価格は1万ポンドも値上がりして6万9,950ポンドになってしまったし、これは日産車にしては高い。しかし、これはGT-Rよりも遅くて刺激も少ないフェラーリ・458の半額以下だ。それに、セールスマンがオプションのリストを掲げて迫って来ることもない。オンラインコンフィギュレーターを見てみたのだが、そもそもオプションなど存在しなかった。
新型GT-Rは従来よりも確実に進歩している。速くなっているし、なによりトランスミッションが格段に良くなっている。確かに見た目は酷いし、不必要なギミックにも溢れているが、この車の実力は驚異的だ。車が好きなら、運転が好きなら、機械が好きなら、GT-Rを買うべきだ。単純な話だ。
The Clarkson review: Nissan GT-R (2011)