イギリスの大人気自動車番組「Top Gear」でおなじみのジェレミー・クラークソンが英「The Sunday Times」に寄稿した試乗レポートを日本語で紹介します。

今回紹介するのは、2011年に書かれたジープ・グランドチェロキー 3.0 CRD V6のレビューです。


Grand Cherokee

先週、A.A.ギルがニューヨークについて印象的な記事を書いており、それを読んだ私は仕事も放り出してニューヨークに行きたい気分になった。もちろん、記事には夏季には湿気が酷く、冬季の気候はかなり厳しいということも書かれていた。しかし、その記事によると、秋にはセントラル・パークが紅に染まり、頭上には一面の青空が広がるそうだ。

ニューヨークが世界でも有数の素晴らしい都市であることは間違いないだろう。ニューヨークに比肩できるのは、サンフランシスコ、ローマ、東京、ケープタウンだ。しかしよく考えてみると、このどの都市も世界一の都市であるロンドンには到底及ばないことに気付いた。

ExCeLという展示場で仕事をしているときに上記の結論に至った。ここは街中から西に1万kmほど行ったところにあり、ボリス・ジョンソンいわく、ここまでの移動手段としてはライトレールが最適だそうだ。しかしそれは間違っている。フェアライン・タルガ47という高級ボートでテムズ川沿いを行くのが最適だ。

まず明言しておくが、ロンドン中心部でボートを操縦するのは非常に難しい。かつて、土木技師のジョセフ・バザルゲットがテムズ川に下水道網を整備した頃からそれは変わらず、今でも個人所有の船を停泊させることは例外なく禁止されている。通過することはできるのだが、停まることは許されない。

2年前、ロンドン港務局は河川の一部領域で12ノットの制限速度を設定したのだが、この決定も当然の帰結だった。現に人が住んでいる場所のすぐそばを、まるで海を走るかのような気分でボートを操縦する人達が通り抜ければ、事故が起こりかねないという懸念も当然生まれるはずだ。

しかしそれでも、ロンドンをボートで駆け抜けるのは楽しい。死ぬまでに一度は経験しておくべきだ。雲一つない秋晴れの日に、ボートに乗ってロンドン中心部を走ってみて欲しい。そうすれば、ロンドンが圧倒的に最高な都市である理由が理解できるはずだ。

ロンドンには多様性がある。一方、ニューヨークは単調だ。サンフランシスコも、ローマもそうだ。しかし、ロンドンは違う。何千年も前に建てられた塔があったかと思えば、そのすぐ隣には資本主義の生み出した最新のガラスと金属の巨大建築物がそびえ立っている。19世紀の倉庫と、17世紀の大聖堂が同居している。左手にはウェストミンスター寺院が、右手にはロンドン・アイが見える。

いずれ、映画『エクソシスト』に出てきた少女のように首を回しながら、ハエのような広い視野があったらいかに素晴らしいかと思うようになることだろう。第二次世界大戦期の軽巡洋艦ベルファストを通り過ぎたかと思えば、すぐにロンドンのランドマーク、タワーブリッジが見えてくる。

これはただの河川クルージングではない。旅行だ。発電所を見て興奮できるような都市はロンドンのほかにはないはずだ。バタシー発電所にはそれだけの魅力がある。それに、往路だけでなく、夜の復路にも楽しみは残っている。大抵の都市は特別な日にしか着飾ることはない。しかし、ロンドンは常に大晦日のごとき様相だ。非常に美しい。

グリニッジから放たれる本初子午線を示すレーザー光線、カナリー・ワーフのビルの灯り、タワーブリッジの青白いライトアップ。ウエストミンスターではグリーンとオレンジの光が混ざり合い、その向かいにあるロンドン・アイはまるで宇宙空間への入り口のようだ。そんなロンドンにおいては、満月すら霞んでしまう。それに、アルバート橋は鮮やかにライトアップされ、その両側にはガラス張りの高級マンションが並んでいる。

1時間でこれだけ多種多様なものを見るという経験は他では決してできない。ロンドンでは毎日のように違った風景を見ることができる。ヴィクトリア朝時代の遺産も、産業革命期の倉庫も、現代のマンションも。確かに、ニューヨーク5番街も凄い場所だろう。けれど、現代と過去が同居するロンドンには遠く及ばない。

このボートがあまりに素晴らしいため、ExCeLへの移動にはいつもボートを使うようになってしまった。その結果、今回批評する予定になっていたジープ・グランドチェロキーはほとんど車庫の中で眠ることになってしまった。

この車の誕生に際しては一悶着あった。かつて、クライスラーはメルセデス・ベンツを擁するダイムラーと結婚していたため、基礎部品の多くをメルセデス・MLと共有している。ところが、誕生の直前になって母親がフィアットと駆け落ちしてしまった。その結果、イタリア製の3.0Lディーゼルエンジンを搭載することとなった。これ以外のエンジンは設定されていない。

スペック自体はそれほど悪くないし、現代の都市型クロスオーバーSUVに比べれば、オフロードの走破性は高い。しかし、少し運転しただけでも、アウトドア以外の場面においてはまったくもって古臭い車だとすぐに分かった。オートマチックトランスミッションは古代レベルだし、エンジンは建築現場と同じくらいに垢抜けない。それに、アメリカ車らしくインテリアには贅沢装備がてんこ盛りされているのだが、結局は見掛け倒しでしかない。

エクステリアは非常に良い。ランドローバーとは違い、ジープには魅力的なボディカラーが多種用意されている。しかし結局のところ、この車は巨大で安価でシンプルな車だ。つまり、何らかの理由でトヨタ・ランドクルーザーは買いたくないという人にはぴったりの車だ。


The Clarkson review: Jeep Grand Cherokee (2011)