イギリスの大人気自動車番組「Top Gear」でおなじみのジェレミー・クラークソンが英「The Sunday Times」に寄稿した試乗レポートを日本語で紹介します。

今回紹介するのは、2004年に書かれたロータス・エキシージ S2のレビューです。


Exige

最近、三菱・ランサーエボリューションに飽きてきている。確かにこの車は最速のロードカーなのかもしれないし、車の頂点に位置するモデルなのかもしれないし、かつてのアウディ・クワトロの子孫なのかもしれない。しかし、正直な話、もう十分だ。

毎日のように従来よりもわずかに改良されたと謳われる新モデルが登場している。しかし現実的には何も変わってなどいない。それに、朝食にロブスターテルミドールばかり出されれば飽きてしまうように、いずれランエボにも飽きてしまう。

当然、ショックアブソーバーやディファレンシャルの各小改良が世界のラリーのステージにおいては速さに貢献するということは理解している。しかし、コルシカ島の30kmの全力走行で0.5秒速くなったとしても、普段の買い物に乗るだけなら何の違いも感じられない。

先週、エボVIII FQ300に試乗したのだが、予想通りの圧倒的な性能だった。しかし結局、これはノーマルのVIIIと何ら変わらず、そしてVIIIはVIIと同じだし、VIIはVIと同じだし、Vとも同じだ。

スバル・インプレッサについても同じことが言える。毎月、自動車雑誌を読むたびに新モデルが登場している。RB5があり、PPPがあり、STiがあり、今度はWRX STi スペックC タイプRAが登場した。しかしこんな車を誰が買うのだろうか。こんな車を買っても女性にモテるとは思えない。だとしたら、男性にモテる車なのかもしれない。

1970年代中頃にロックンロールの世界で起こったことと同じことが起こっている。ジェネシスやイエスなどのバンドは曲の長さを伸ばすことだけに注力し、最終的にロジャー・ディーンがカバーをデザインしたアルバムのブックレットは42ページにものぼるようになった。

私は『Seconds Out』や『Fragile』が好きだ。しかし、こういった曲が好きであると公衆の面前で言うためには覚悟が必要だ。エボVIIIやスバルにも同じことが言える。この2車種は今やプログレッシブ・ロックのような車だ。垢抜けない男たちが押しかける煙と光と音のオンパレードだ。

こういった状況を打破するために必要なのは、パンクやハイテクなシンセサイザーへの反骨心、それに圧倒的な実力を誇る30分間のドラムソロだ。必要なのは、小さくて狭苦しく、怒れる何かだ。必要なのはロータス・エキシージだ。

エキシージにはアクティブヨーコントロールもアクティブディファレンシャルも付いていない。ターボチャージャーも付いていないし、走り出す前にこれから走る路面の状況を逐一セットする必要もない。インタークーラー付きのエボVIIIがリック・ウェイクマンの『地底探検』だとしたら、エキシージは攻撃的なセックス・ピストルズだ。

エキシージの価格は3万ポンドだ。つまり日本製の玩具とほとんど同じ価格だが、付いているものは少ない。まず、エキシージにはバックドアもリアシートも付いていないし、トランクの大きさはオーバーナイトバッグがようやく入る程度だ。

それに、エアコンも、パワーウインドウも、カーペットも、エアバッグも、トラクションコントロールも、ナビも…それどころか、サンバイザーすら付いていない。どれもオプションだ。

この車について理解するためには、少し歴史を振り返る必要がある。ロータスは長年エリーゼで収益を上げ続けてきたのだが、ここ18ヶ月くらいは売り上げが大幅に落ち込んでいる。この一因は、ヴォクスホール・VX220(別名: オペル・スピードスター)にある。これはエリーゼと同じ工場で製造されたエリーゼとほとんど同じ車なのだが、エリーゼよりも速くてコストパフォーマンスも高い。また、エリーゼの歯が黄ばみ始めたことも原因の一つだ。

ロータスはアメリカ向けの車を製造することで工場の稼働率を上げようとしたのだが、ローバー・Kシリーズエンジンは排気ガスや燃費でアメリカの規制をクリアできなかった。

そのため、ロータスはトヨタ製の1.8Lエンジンを搭載することに決めた。このエンジンは高い環境性能を誇った優れたエンジンだ。これにはカムシャフトが2本付いている。1本は経済性のためのものであり、5,000rpmを超えるともう1本がパワーを生み出すために稼働する。素晴らしいじゃないか。

しかし、どうしてかロータスはイギリス仕様車のみローバー製の設計の古いエンジンの搭載継続を決定し、2,000ポンドの値下げを敢行した。これが私の妻に受け、昨年111Sを購入した。ともかく、トヨタ製のエンジンはエリーゼにうまく合ったため、ロータスはハードトップのハードコア版の開発を決定し、そうしてエキシージが誕生した。

ここでアドバイスがある。エキシージを見たら道を譲るべきだ。確かにトヨタのエンジンの最高出力はわずか192PSとオーブンと同レベルだが、サンバイザーもアクティブヨーコントロールも付いていないため、車重はオーブンよりも軽い。もっと分かりやすく表現してみよう。ジェネシスのツアーには16台の運搬トラックとサッカースタジアムが必要だった。一方、エキシージはただその身一つで演奏するだけだ。

しかし、この車を運転することは恐怖にもなりうる。この車はあまりに小さく、プジョー相手にも圧倒されてしまう。私はロンドンを一日走っただけでナポレオンコンプレックスを発症してしまい、発進のたびに全力疾走し、前を走る邪魔な車は誰も彼も割り込んで追い越した。

サイズには他の問題も潜んでいる。例えば、この車に乗り込むためにはあらゆる尊厳を捨てなければならない。スカートを穿いて乗り込もうなどとは考えてはいけない。しかし、一度乗り込んでしまえば、車内は予想以上に広々している。

しかも、快適性も高い。サスペンションは硬いものだと思っていたのだが、実際はかなり柔らかく、路面の衝撃を暴れることなくいなしてくれる。しかし、この車は速い。フェラーリやランボルギーニやランエボと比肩できる。信じがたいかもしれないが、それでも信じて欲しい。

この秘密の一つがダウンフォースだ。大抵の車は速くなるにつれて浮き上がろうとする力が働くのだが、エキシージは車高が非常に低く、フロアはフラットでリアには大型スポイラーが付いているため、F1レベルのダウンフォースを発揮する。要するに、この車は速く走るたびに重くなる。160km/hになる頃には小さな象が屋根に乗っているような重さがかかり、タイヤを路面に押し付ける。

そして、そのタイヤも至高の品だ。ロータス向けに専用設計されたこのタイヤは、法が許す限界までスリックタイヤに近づけられている。雨天でも走行はできるそうだが、個人的には最大限に注意して運転するべきだと思う。コンディションを整えなければグリップ力が発揮されるとは思えない。

グリップ力が圧倒的というわけでもないのだが、グリップが発揮された時のフィールは素晴らしい。タイヤのコンディションが手に取るように分かる。この車以上にコーナーを綺麗に曲がれる車には乗ったことがない。

エキシージに比べればエリーゼはまるで凍った湖を走り回るバンビだし、イタリアのスーパーカーはまるでズオウだ。一方、エキシージはハエのようだ。どんな状況でも驚くべき俊敏性を発揮する。

直線加速性能も0-100km/hが4.9秒となかなかだし、最高速度は220km/hを超える。その速度に達する頃には、タイヤにかかる重量はフライング・スコッツマンくらいになるのではないだろうか。

この車には100点満点をあげたい。それに、運転する楽しさでは940点くらいだ。ただし、価格は高いし、見た目は奇妙だし、エンジン音はあくまでもトヨタだ。

しかしそれでも80点はあげられる。エキシージは複雑化して無駄に重くなる車たちに対するアンチテーゼだ。


Lotus Exige S2