イギリスの大人気自動車番組「Top Gear」でおなじみのジェレミー・クラークソンが英「The Sunday Times」に寄稿した試乗レポートを日本語で紹介します。

今回紹介するのは、2009年に書かれたシトロエン・C3ピカソ 1.6 HDi 110のレビューです。


C3 Picasso

車においては、軽さこそが全てだ。脂肪が付き過ぎれば加速が鈍くなり、ハンドリングが悪化し、また排出ガスが増えて地球環境にも影響し、誰もが不幸になる。

ルイス・ハミルトンからジョナサン・ポリットまで、誰もが軽い車を望んでいるはずなのだが、毎年登場するあらゆる新型車がその先代モデルよりもわずかに重くなっている。私の青春時代、ファミリーセダンの重さは1トンを切っていた。ところが、今やその2倍近くなってしまっている。

中には、非常に重いため、トレーラーを牽引して買い物に行き、重量物を購入してそれを積載すると、あまりに重くなって運転するためには大型免許が必要になってしまうような車さえある。

大半の責任は我々にある。消費者が装備の充実を要求した結果、ダッシュボードには大量の機器が並ぶことになった。カーナビ、パーキングセンサー、バックカメラ、などなど。それ以外にも、消費者は遮音性能の向上やより分厚いカーペット、より高級感のあるインテリアを求め続けた。

それから、安全性の要求もある。憧れのユーロNCAP五つ星評価を得るためには、高張力鋼板製のクロスメンバーを用い、顔面、肩、膝、耳、それに睾丸などあらゆる部位を守るエアバッグを装着しなければならない。

その結果、コーリン・チャップマンの"軽さは速さ"という信念を守って作られているロータス・エリーゼですら、1973年式のトライアンフ・ドロマイトより重くなってしまった。

当然、このままではいずれ破綻してしまう。ガソリンを節約しつつ、速く走りたいのであれば、何かを犠牲にしなければならない。しかし、一体何を犠牲にすればいいのだろうか。

今や、政府の安全に対する規制はあまりに厳しいため、釘とティッシュペーパーと唾で車を作っていたような時代に戻ることは不可能だ。

では、装備内容について見直してみよう。何であればなくしてもいいだろうか。エアコンだろうか。まさか。

自分の腋の匂いに失神するような時代になど誰も戻りたがらない。それに、エアコンがない車で快適に走るためには窓を開ける必要があるし、そうして空気抵抗が生じればエアコンをなくすことで生じたメリットが相殺されてしまう。

では、ナビはどうだろうか。確かに、ナビの指示に従ったと言って崖から飛び降りようとしてみたり民家に突っ込んでみたりする馬鹿は少数いるが、大半の人間はナビのおかげでスムーズに目的地に行くことができる。

ナビの案内がなければ迷ってしまい、何時間もあちこち走り回り、ナビをなくすことで節約したはずの燃料を結局浪費してしまう。それに、紙の地図を見て運転すれば事故を起こして死にかねない。

rear

昨日、オックスフォード環状道路を走行中、3人の肥満女性を乗せたプジョーが突然、3車線分一気に車線変更してきたため、20年間で一度として使ったことがなかった装備を使用した。クラクションだ。

爆音というわけではなかった。ピッという迫力のない音が鳴っただけだった。にもかかわらず、デブ達の反応は凄かった。手を挙げて謝罪の意を伝えるでもなく、次の信号で止まると、巨大な3人組は一緒になってこちらを向いて激しい非難を込めた視線を送ってきた。

しかし、これも当然のことだと思う。クラクションを鳴らすのは「お前は下手糞だ」と言っているのと変わらない。いかに温厚な人であろうと怒りを抑えられなくなってしまう。

それに、クラクションを鳴らせば周りにいる人が不安になるし、そもそも、事故を予防する手段としては全く役に立たない。

突然車が目の前に入り込んできたときの対応はさまざまだ。叫ぶ人もいるし、漏らす人もいるし、固まってしまう人もいるし、ブレーキをかける人もいる。しかし
いけない。急に車が来たので事故りそうだ。早くクラクションを鳴らし、迫り来る死への遺憾の意を表明しないと。
と思う人などいるはずがない。

要するに、クラクションは危険を回避した後で怒りを表明するためだけの手段だ。つまりクラクションは報復の手段であり、ただの自己満足だ。

もちろん、イギリス以外の国ではクラクションに他の使い方が存在する。先日バルバドスに旅行した際に気付いたのだが、そこではクラクションが離合する際の合図として用いられている。ローマではクラクションが渋滞の際の暇潰しとして使われている。アフリカでは農民をどけて村の中を全速力で突っ切れるようにするために使われている。また、フランスではラジオから流れる雑音を掻き消すために使われている。

先日試乗したシトロエン・C3ピカソにクラクションが付いていたのもこのためだろう。しかしこの車には、イギリスでは不必要な装備がクラクション以外にもたくさん付いていた。

顔はのべっとしたデザインで、外見からは柔和で優しい印象を受ける。しかし、ノーズが切り立っているため、結果的にボディサイズも必要以上に大きくなってしまう。そうなれば車重も重くなり、結果として遅くなり、燃料も無駄にしてしまう。

interior

そうはいっても、C3ピカソはベースとなっているC3よりも大きいため、室内空間もC3より広い。

上級グレードでは、リアシートがまるで航空機のシート(ただし、格安航空会社のものだ)のようだし、重くて巨大なガラスルーフが付いているため、金魚の気持ちになることもできる。

それに、香水放出装置は全グレードに標準装備されている。これに関しては何のコメントも思いつかない。

ご想像の通り、この車は重い。あまりに重いため、0-100km/h加速に13秒近くかかるし、日産やルノーが売っているライバルよりも燃費が悪いし、ハンドリングはあまりに酷く、オプションのトラクションコントロールはわずか50km/hで作動する。

もちろん、重さという問題は今やあらゆる車に存在する。ではここで、この車独特の問題点の話に移ろう。それはドライビングポジションだ。フランス人やオランウータンならいいのかもしれないが、人間には合わない。シートが十分に下がらない。

結局のところ、こういう車が欲しいなら、シュコダ・ルームスターを購入するべきだ。こちらの方が安いし、それでいて速い。あえてC3ピカソを選ぶような人は、車名の元になった画家と同じくらいの変人だ。