イギリスの大人気自動車番組「Top Gear」でおなじみのジェレミー・クラークソンが英「The Sunday Times」に寄稿した試乗レポートを日本語で紹介します。

今回紹介するのは、2009年に書かれたレクサス RX450hのレビューです。


RX450h

2時にパーティーが解散になったらどうなるかは分かるだろう。場は混沌とする。酔っ払いは運転のやり方を覚えている人を探し、まだ飲み続けようと誘う人もいて、自分の肩に乗った悪魔はその誘いに乗るべきだと囁く。

先週、パーティーで大騒ぎして、気付いたら私はフランス人のスーパーモデルと一緒にレンタカーに乗っていた。他の人達がどこに行ってしまったのかは私にも彼女にも分からなかった。なので、とりあえず少しその辺を走ってみることにした。

その結果、コルフのバーで10代のカバーガールと一緒にいる姿をパパラッチに狙われてしまった。変な写真を撮られないよう、私は新しくできた友人の元からすぐに駆け去り、そもそもパーティーに乗り付けた車が何だったのか、それをどこへ置いてきてしまったのか、真剣に思い出そうとした。

結局はレンタカースペックの、すなわちナビも付いていないグレーのボルボを見つけ、それに乗ってきたことを思い出した。しかし、ナビがなかったため、今度は自分のいる場所がどこなのかが分からなくなってしまった。それどころか、どこに行こうとしているのかさえ分からなかった。妻に聞いても分からなかった。

妻に電話して、自分がついさっきまでフランス人のスーパーモデルと一緒にいたことを話すと、妻はこう言った。
「今、別のパーティーにいるんだけど、友達のキャロラインがついさっきプールに落ちてあなたと話している場合じゃないの。」

それに、地元住民に道を尋ねることもできなかった。なぜなら、私の知っているギリシャ人はエディンバラ公しかいなかったし、そもそも自分が借りている貸し別荘の名前やそれがある村の名前さえ覚えていなかったからだ。覚えていたのは、近くに変な名前のホテルがあったということと、貸し別荘までの道中にゴミ箱があったことくらいだった。

なので、肩を落としつつも重い腰を上げてとりあえず走り出した。するとおかしなことがあった。20分後、およそ6万個のゴミ箱を通り過ぎ、マイケル・ジャクソンのスリラーのかつらのように曲がりくねった道を抜け、一切道を間違うことなく目的地に到着することができた。

そのため、ひょっとしたら自分は鳩なのではないかと思い始めた。ここから興味深い疑問が生まれる。チェシャーの一部地域の住民を除き、人間は誰もが嗅覚、触覚、味覚を持っている。それに、大半の人間は何が正しくて何が間違っているのかを判断する感覚も持っている。しかし、人間には生まれつきの方向感覚はあるのだろうか。鮭と同じなのだろうか。

ジェームズ・メイは違う。大きなホテルなら、部屋からフロントまで移動するのに数時間かかることもある。街中なら、4日間迷い続けることもある。彼はロンドンにアルバート・ホールが2つあると言うような人間だ。彼の地図の中ではイギリスは上下逆さまだし、スコットランドはフランスの隣にある。

新聞を見てもこんな人間が他にいることが分かる。ガソリンが尽きるまでM25を延々と周り続けるドライバー。川に飛び込むトラック運転手。ナビの目的地にスタンフォード・ブリッジを入力し、ヨークシャーにあるスタンフォード・ブリッジまで行ってしまうタクシー運転手さえいた。

どうしてそのタクシー運転手は北に行くべきだとさえ分からなかったのだろうか。シェフィールドと書かれた案内標識を見ても自分が間違っていることに気付けなかったのだろうか。

ひょっとしたら、地図やナビのおかげでもはや方向感覚を駆使する必要がなくなってしまい、帰巣能力自体を失いかけているのではないだろうか。

ジェームズ・メイは人間の行く末なのだろうか。もしそうなら、もはやどうしようもない。それに、人間が皆長髪の衒学者になり、レクサス・RX450hに乗ったとしても、どうしようもなくなってしまう。

この車の旧型モデルは特にロンドンで人気を博した。というのも、ハイブリッドシステムのおかげで渋滞税が免除されたからだ。ところが、ハイブリッドカーの免税制度は見直されようとしている。しかし、もし免税制度がなくなれば、この5万ポンドの車を購入する理由はあるのだろうか。

少なくともその理由はデザインではないだろう。タイヤはピアノに付いているキャスターのようで、まるで一輪車に乗った象のような印象だ。

それに、実用性に関しても強みとは言えない。ナビはパソコンのようにマウスで操作するのだが、走行中にカーソルを自分の思い通りに動かすことは不可能だ。サスペンションもピアノのキャスターと同レベルなため、やたらよろめくし跳ねるしでナビの操作どころではない。

それに、エコドライブシステムにも問題がある。運転するたび、葉っぱや風車の絵が表示され、どれほど経済的な運転をしているかが知らされる。そして家に到着すると、最近3回の走行データと比較したスコアが表示される。

しかも、ひと目で分かるよう、走行状態に応じてメーターの色まで変わる。アクセルを踏み込むとダークブルーになり、少し足を緩めるとライトブルーになる。そして、ガーディアン紙公認の走りをすればグリーンになる。

もちろん、この機能があれば長距離移動での暇潰しをすることはできるだろう。しかし、この機能を使うと移動時間は長くなる。なので、平均車速を常に表示し続ける愛車のメルセデスのメーターの方が私は好きだ。

それに、最高のエコドライブをしようとするような人間が、どうして2.2トン、299PS、最高速度200km/hのオフロードカーを買うのだろうか。例えば、ミニを買ったほうがよっぽど良いはずだ。確かに、レクサスの方が室内空間は広いかもしれないが、それでもさほど広いわけではない。冷蔵庫を荷室に積んでテールゲートを閉めようとすれば、意味もなく傾斜したリアウインドウは粉々に割れてしまうことだろう。

先日、家族旅行に行ったのだが、レンジローバーでようやく、5人とその荷物をかろうじて運ぶことができた。レクサス・RX450hなら、スーツケースを1個か、あるいは子供を1人家に置いていかなければならない。それか、目的地をヌーディストキャンプに変えなければならない。

走りは、はっきり言って酷い。乗り心地の酷さもさることながら、電動パワーステアリングはインドの電車の時刻表と同じくらいに不正確だ。思い通りには遠く及ばない。

しかし、ハイブリッドシステムは凄いと言わざるをえない。この車には動力源が3つ搭載されている。フロントには3.5L V6エンジンと、それを補助する167PSの電気モーターが搭載され、リアには後輪を駆動する小型のモーターが搭載され、路面状況に応じて4WDに変身することもできる。技術的側面から見ればこれは驚異的なシステムであり、実際、実力も驚異的だ。

この車は、フォード・フォーカスRSと同等の出力を持つ大型5シーターでありながら、燃費は1.4Lのフィエスタ並だ。これは本当の話だ。カタログ燃費は18.7km/Lだし、それに嘘偽りはない。これこそがこの車の核心だ。

この車を購入するためには、人為的に生み出された地球温暖化という現象を信じる必要がある。ハイブリッドカーを購入し、可能な限り遅く走行すれば世界中の山火事をなくすことができると信じる必要がある。

もし、ただ巨大で快適な車が欲しいだけなら、燃費のことなど忘れて別の車を買ったほうがいい。


Lexus RX 450h SE-L