イギリスの大人気自動車番組「Top Gear」でおなじみのジェレミー・クラークソンが英「The Sunday Times」に寄稿した試乗レポートを日本語で紹介します。

今回紹介するのは、2011年に書かれたルノー・ウインド GTライン 1.6 VVTのレビューです。


Wind

チャリティとして自転車に乗り、5kmのコースを2時間ちょっとで走りきった。たくさんの人が私を追い越した。登り坂がとてもきつかったことと、前輪が取れそうだったので下り坂でもスピードを出すことができなかったことが私の遅かった原因だ。

もし飛ばしている状態で前輪が外れれば突然身体が自転車から飛び出してしまうだろうし、そうすればアスファルトに顔面が直撃してしまう。私は自分の顔があまり好きではないのだが、それでも話したりものを見たりするためには顔が必要だ。

それに、私はヘルメットをかぶっていなかった。スキーをするときもヘルメットはしない。建設現場でもだ。ヘルメットをかぶっていると馬鹿みたいに見える。なので、私はゆっくりと走ったほうがましだと思った。実際、この選択は正解だっただろう。

しかし、妻と一緒にスタート地点に向かうまでの間に問題が生じた。その日、愛車のボルボの後部に自転車キャリアを付け、そこに自転車を載せなければならなかった。

私には不安が2つあった。一つは、リアに自転車を2台載せた状態で長距離を走らなければならないという点、そしてもう一つは、帰りにもまた同じように自転車を載せて帰らなければならないという点だ。

とはいえ、チャリティのイベントなので、会場には熱心な自転車乗りもいるだろうし、きっと誰かが哀れんで助けてくれることだろうと思った。

しかし問題が生じた。妻と妻の自転車をスタート地点で降ろして、ナビに自分のスタート地点の場所を入力しようとしていると、なんと、老人が自転車キャリアの方に突撃してきて、車からキャリアが取れてしまった。

自転車キャリアを組み立てたことはあるだろうか。実際、こんなものを組み立てるのは不可能だ。そもそも意味がない。ストラップをテールゲートやバンパーに取り付けるのだが、私の目にはそれが間違っているようにしか見えなかった。

しかし、時間が迫っていたため、自転車を載せる手順をなんとか調べようとした。しかし、自転車が車から外れて後ろを走る車の窓ガラスに直撃してしまうのを防ぐために付いていたのは、なんとも頼りない紐が2つだけだった。

自転車を押したり持ち上げたりして、チェーンオイルを顔に浴びつつもようやく出発することになった。頑丈そうな紐や堅牢そうな金具もあったのだが、これは特に関係ないだろうと思って車の中に入れておいた。

非常に慎重に運転し、なんとか誰も殺すことなく肥満者用のスタート地点に到着することができた。しかし、自動車に据え付ける装備の安全性に対する疑問符は依然、心の中に浮かび続けている。自転車キャリアだけでなく、ルーフボックスなどについても同じことが言える。

当然、私は今までにルーフボックスを車に付けたことはない。付けようとすれば腰を痛めてしまうだろうし、もし手でも滑らせれば車の塗装が剥がれてしまうだろう。ルーフボックスに入れたい物があるなら、それを出先で買ってしまったほうがよっぽど安心だし安上がりだろう。

それに、ルーフボックスは巡航ミサイルのような形状で、もし車から外れてしまえばミサイルばりの攻撃力を発揮することだろう。今までにルーフボックスの固定部品を見たことはあるだろうか。チューインガムで付けたほうがましだと思えるくらいに脆弱だ。

警告しよう。屋根に箱を載せている車やリアに自転車を積んでいる車の後ろに付いたら車間距離を空けるべきだ。これを車に装着したのはルーフボックスや自転車が好きな人間だ。イザムバード・キングダム・ブルネルではない。

スノーチェーンにも同じような問題がある。チェーンがあれば路面状況が酷くても運転できるようになると思うかもしれないが、現実はチェーンのせいで指を切断し、車に乗っているのが妻ならば先に待ち受けているのは離婚だ。

つまり、車に後から何かを設置するのではなく、必要とする機能を元からちゃんと備えている車を購入するべきだ。

つまり、ルノー・ウインドを買うべきではないだろう。クリオ(日本名: ルーテシア)をベースにフランス人が設計し、スロベニアで製造されるこの車は、あるいは現代史上最も馬鹿げた車に思えるかもしれない。

それに、これは2シーターコンバーチブルなのだが、MGやロータス・エラン、マツダ・MX-5(日本名: ロードスター)とは違い、軽量・スポーティーさを主眼に設計されているわけではない。電動ルーフが付き、エンジンも小さなこの車は、むしろ街中の移動を主眼としている。いわば納税証明書の付いたピンヒールだ。

当然、ウインドはボディに対してエンジンが力不足なので車好きには嘲笑われてしまうことだろう。しかし、私はかつて、ホンダ・CR-Xに乗っていたことがある。ウインドは現代のCR-Xだ。それゆえ、気に入った。

確かに、1.2Lターボエンジンは少し心許ないが、ノンターボの1.6Lなら何の問題もない。こちらのエンジンは133PSを発揮し、比較的優秀なシャシの実力にも十分対応できる。ルノーのスポーティーモデルはどれも刺激的だが、この車もその例外ではない。ステアリングが無駄に大きく、体格の良いドライバーなら閉塞感を感じてしまうのだが、それでも運転は楽しい。それに、実のところは大して速くないため、走り出して5秒後に同乗者から屋根を閉めて欲しいと言われることもない。

実用性に関しては…トランクに自転車を積むことはできないが、ルーフの格納方法が巧みなので、荷室は予想以上に広い。

なにより、価格は1万5,205ポンドからとなる。最上級グレードの1.6 GTラインでもわずか1万7,010ポンドで、先週試乗した1.6Lのフォード・フォーカスよりもかなり安い。装備内容を考慮しても、コストパフォーマンスは高いだろう。

しかし、この車には致命的な欠点がある。この車は価格通りにチープだ。おそらく、この車は長く乗ることを想定して設計されてはいない。ダッシュボードも、スイッチ類も、レバーも、触れる場所どこもがちゃちだ。


Renault Wind: Pointless but fun — what a good wheeze